上 下
26 / 72
転生者

第22話

しおりを挟む
 俺達は人魚を探して海岸線を進んでいる。

 ちなみに人魚くんは海を泳いでいる。荷台に載っている浴槽の中の水は海水に替えているが泳ぐほうがいいらしい。疲れたらこっちにくるらしいので自由にさせているが、一応こちらからも気にかけている。



「私が発明家になったのは転生してからのことよ~」

 昨日、シェリーさんも俺達と同じ転生者であることが分かったので俺達は馬車の上でいろいろ聞いていたのだ。



「前世で私はとっても不器用だったから転生するときに器用にしてもらったのよ~。それは手先の器用さだけじゃなくてね~、魔力の扱いも繊細に行うと結果が違ったのよ~。でもそんな私が転生して産まれた場所は文明圏から取り残されたような竜人族の国だったのよ~」



「最初は私の器用さを生かして文明を発展させようって頑張ったのだけど~、竜人族は受け入れてくれなかったよ~悲しかったわ~」

 間延びしたシェリーさんの言い方だと悲しそうに聞こえないから不思議だ。



「やっぱり転生神は意地悪ね」

「同感だな。それでその大きな胸はやっぱり転生の時に望んだということだろう」



 けしからん。まったくけしからん。

 おや?いつもはこういう話題だとサラが暴力的な動きをすると予想していたのに珍しく大人しい。



「身体については何も願ってなかったわよ~?胸の大きさが女性の魅力のすべてではないわよ~、ゲンスイ君」



 そうなのか?それにしては実りすぎた果実だが……



「やっぱり転生神は意地悪ね」

 サラが同じ感想をもう一度述べていたが、今度は誰に言う訳でもない風で怒気を含んでいた。



「それでね~、人族の国へ行く事にしたのよ~。この世界で最も進んだ技術は人族の国って聞いていたから~」



「聞いていると、一部以外は私達となんだか似たような境遇ね。」

「もはや意地悪という次元じゃなく、意図があったとしか思えないな」



 口をついて出た言葉だが、改めて考えると確かにと思える。

 じゃあどんな事情があれば転生神は俺達に希望を聞いておきながらもそれを生かせない環境に転生させたのだろうか。

 致し方なくこのような状況になったのだろうか。それとも転生神は善意の存在ではないのだろうか。

 であれば俺達のこの状況を見て楽しんでいるのか。


 ただ、そうだとしても俺達にこうして第二の人生を与えてくれたのだから、完全な悪とも言えない立場でもある。



 あー考えてるとイライラする。



「よし、転生神殴ろう!」



「急に黙ったと思ったらそれなの!?」



「転生神の思惑なんか知ったこっちゃない。俺達が味わった理不尽をお返しするべきだろ?」

 見事な戦略。さすが我が軍の頭脳は今日も冴えてる。



「でもその話、乗ったわ!」

 エルフという種族である以上、胸は薄い。でも無いわけではないし、俺からすればサラは今のままで十分魅力的だから気にする事はない。

 それにもし仮にサラが巨乳だったらそれはそれで……けしからん!全く持ってけしからんぞー!



「あかん、鼻血出てきた」



「なんでよ!?」

 なぜかサラに冷たい目で見られているような気がするのは気のせいだ。





「それはいいんだけど~、また出て来たわよ~」

「なにが?」

「魔獣~」



 ぜひともそういう事は緊張感を持って言ってもらい!



 俺達は慌てて魔獣の対処に動く。

 漁村を出てから少しずつ魔獣とのエンカウント率が上がっているような気がする。もちろん街道ではないので魔よけの結界もないのでそれ自体はおかしいことではないのだが……。



「左からも来てるわよ~」



 左を見ると樹木トレント系の魔物が接近していたので殴り飛ばしておいた。






「やれやれ、これで全部かな?」

「おつかれさま~。見える範囲にはもういないわよ~」

 馬車に乗り込みながら周りを見ると、確かに見える範囲に魔獣はいない。そして海ではパシャパシャと泳ぐ人魚くん。海からの襲来がなかったがその呑気な絵面が呆れるような癒されるような。

 しかしエンカウント率も上がって来たし人魚くんを回収することにして砂浜で馬車を停める。





「やっぱり地竜馬車でも魔獣が寄ってくるのね~」

 昼食を取りながらエンカウント率上昇について話していた。



「確かに地竜に近づいてくる魔獣は少ない。でも知能の低い魔獣には関係ないぞ」

「街道沿いなら魔よけの結界があるから低級魔獣は近づかないわよ」

「ああ、それでも出るときは出るけどな」

「そうなんだ~」

「シェリーさんは地竜を使ってなかったから結構魔獣と出くわしたんじゃないの?」

「見えたら狙い撃つだけよ~?」

 緊張感に欠ける間延びした声とは裏腹に内容は刺激が強い。油断してはいけないが、シェリーさんのボウガンは確かに強いのだ。



 そのため俺達の今の陣形は、魔獣が出たら俺が前線で火力と壁役、すぐ近くでサラがその補助と馬車周辺警護、シェリーさんが馬車上から援護射撃という形を取っている。

 場所の都合で戦闘指揮をシェリーさんが行っているように見えるので文句を言ったところ、

「場所的に一段高いから私の位置からのほうが索敵しやすいだけよ~。戦況を伝えて指示するだけだから実際の戦いはゲンスイ君の戦略で倒してほしいのよ~。役割分担よ~」



 という事だ。見えるだけでただの役割分担、それならば問題ないだろう。それに今のところこの陣形が上手くいっているのは実感している。しばらくこのままで良しとする。





 魔物を退け俺達の旅は進む。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします

リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。 違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。 真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。 ──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。 大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。 いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ! 淑女の時間は終わりました。 これからは──ブチギレタイムと致します!! ====== 筆者定番の勢いだけで書いた小説。 主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。 処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。 矛盾点とか指摘したら負けです(?) 何でもオッケーな心の広い方向けです。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...