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転生者

9.8話(サラ視点)

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 冒険者になってちょっと苦労もあったけど遂に私が研究してきた魔力筋を使った装備が完成した。



 といってもまだ武器とブーツだけ。これからもっと作りこんでいくだけの余地はある。そのためにはまだまだ資金も素材も必要だった。



 丁度その頃、隣の領地では新しいダンジョンが発見された話を聞くようになった。その中でまだクエストにはなっていないダンジョンの情報をゲット。なんでもアイアンゴーレムの目撃があったとか。私はすぐにダンジョンへと向かったわ。



 ダンジョンではいつも通りマッピングしながら敵を見つけ遠距離なら魔法で、近中距離なら接敵して如意棒と蹴りで倒していった。地下3階までは何も問題なく、しかし特に目ぼしい素材もなく終わった。



 地下4階に降りた時、そこには埋め尽くさんばかりのストーンゴーレムがいた。正直、ストーンゴーレムがどんなにいても私が本気で走れば反応される前に通り過ぎる事が出来る。

 それに、直接戦闘となったとしても、単機で最前線で大暴れ。前世から何度も夢想した展開。





 そこでいい案を思いついた。今までやったことは無かったけど、如意棒を使って棒高跳びのように一気に行けるところまで行く。そして着地と同時に走り去る。万が一追いつかれたらそこから大暴れ。



 フフフ、名案だわ。



「いっっけ~~~~!!」



 私は気合と共に棒高跳びのように一気に跳び上がり空中を飛翔するかのようにストーンゴーレムの海を越えていく。思いつきを実行しただけなのに、その思惑は予想を超えて跳ぶことができ、そして着地。

 予想よりもずっと距離を稼げたけどまだ半分位みたい。



 すっかりストーンゴーレムに囲まれているけど、その程度の動きで私を捉えられるとでも思って?



 近くにいたストーンゴーレムに飛び蹴りをして着地、と同時に走り出す。左、右、足の間、頭の上、どこでも隙間があればそこを走り抜けた、が途中瓦礫が散乱しているところで急に足場が悪くなった。



 走り抜ける事が難しくなったので改めて作戦を次のphaseへと移行。



 大暴れしちゃうんだからっ!!!







「今助けるぞー!!!」

 大暴れしていると向こうから大きな声が聞こえた。戦いながら声のした方を見ると誰かがこちらに向かって来てくれている。流石に多勢に無勢と思ったんだろう。でも助けてくれるっていうなら手伝ってもらおう。



 大暴れしながら少しずつ前進しついに反対側からきた援軍と合流した。黒髪のちょっと小柄な獣人族だった。ただ、合流した途端おかしなことを言っていた。つい、素で突っ込んでしまった。直後後ろからストーンゴーレムが攻撃しているのが見えた。



「うしろ!!しむら!!うしろーーー!!!」



 と叫んでいた。



 もっとも、私の警告を無視してストーンゴーレムの一撃を無防備にくらっていたが結構ピンピンしていたので心配するのをやめた。



 流石にあれを私が受けたら結構キツイ。今でもストーンゴーレムから一撃受けてしまった場合には回復薬を飲んでから大暴れを再開している。それくらいストーンゴーレムの一撃は結構キツイはずなのに獣人族は平気なんてズルすぎる。



 その後は二人で大暴れして階段フロアに辿り着くことが出来た。私は大暴れの夢は叶い日頃のストレスを全部発散できて満足していた
 ただ、体力的にも結構限界ではあった。



 助けに来てくれた獣人はゲンスイと名乗った。変な名前だけど獣人族では普通なのだろうか。そしてゲンスイさんは私を心配してくれた。
 改めてゲンスイさんをよく見てみたら、黒髪獣人でどこか幼さの残る、でも狼系だろうと分かる逞しい腕や足に見とれてしまった。



 私筋肉フェチじゃないはずだけど。



 それに顔を見ると柴犬?いや、豆柴?系の可愛い顔に驚いた。



 でも流石に初対面で深いところまで話すほど不用心ではない。当たり障りのない回答をしようとして、 「こう見えてエルフなんです」とか訳の分からない事を言ってしまい恥ずかしい思いをした。



 でもそんな事どうでもよくなる程の衝撃がその後にあった。



 なんと、私と同じ魔力筋の研究をしているって。


 

 あの大暴れしていた獣人が。





 これほど驚いたことは今までなかった。そして今後もそれは無いと思ったのに、その直後もっと驚いた。



 彼も転生者だったなんて。



 ゲンスイさんにとっても私が初めて会った転生者だったようでたくさんお話したの。そしていつの間にか喉が渇き水分補給ついでに食事もそこでした。こんなに話せるのかって程話してそして力尽きて眠ってしまった。



 起きると彼のマントが私にかけてあった。無防備に寝てしまった自分に反省しつつも、彼の優しを感じて温かい気持ちになった。まだ彼は寝ていたけど寝顔が可愛かったのでついしばらく見ていたのは内緒の話。





 地下5階では目的の一つであるアイアンゴーレムを見つけた。ていうか、すぐいた。彼から魔法のリクエストをされたけど、接近戦をしながら魔法は使えない。なので如意棒攻撃を選択。二人がかりで攻撃しまくったら倒せた。素材ゲット!



 最奥の部屋で宝箱を発見した。RPGならこれミミックだろうなぁ~と思う。なんかそういう気配を感じ取っていたらゲンスイさんも同じだったらしい。

 私が如意棒で遠くから箱を空ける。でも結局はどちらかが見に行く必要がある。まぁちょっと恥ずかしい言い合いになったわけだけど、ゲンスイさんたら私の匂いが好きだなんて恥ずかしすぎる。
 犬だから匂いフェチなのかしら。

 私達、結構いい雰囲気になっていたのよね。


 こういう甘い感じ、久しく忘れていたわ。



 でも。



 せっかくいい雰囲気だったのに邪魔されたのは蛙よ、信じられる?

 まさか見られてるなんて思わなかったからすんごい恥ずかしかったんだけど、よく考えたら蛙だもの。恥ずかしがる必要なんてなかったわ。

 結局蛙討伐に行くもなんだか白けちゃって放置してきちゃった。思わぬ素材、ミスリルインゴットも手に入れた事だしもういいわ。



 大変だったのは帰りね。地下2階だったかしら。急にゲンスイさんが

「なぁ、サラ。俺を蹴ってくれないか?」

「は?」

 つい素で返事しちゃったわよ。自分を蹴ってくれって言い出したのよ。意味が分からな過ぎて困った。


 戦いで頭でも打ったのかしら?
 急にマゾに目覚めたのかしら?
 獣人族の風習にそういうのがあるのかしら?
 もともとマゾだったのかしら?

 とかとか、いろいろ考えたわ。


 でもダメ。大筋でゲンスイさんはマゾなんだって決めかけたけど。

 それ以外なんの答えも導き出せなかったの。エルフってすごいよね、一瞬でそれだけのことを考えたんだから。

 でも「研究の為」とか言い出したの。それでさらに私は混乱、そう混乱したわ。



 でもね、そこで私は思い出したのよ。



 『Don't Think. Fee~~~~l!』



 何も考えず言われた通り蹴って感じればいいの。


 あ、違うわよ?

 私がサドに目覚めたわけじゃないからね?



 そして蹴ったの。



 顔面をガードしていたからハイキックに見せかけて途中で軌道を変えミドルキック。

 訓練か何かなら当然ガードの甘いところへ攻撃するでしょ!?


 そしたら見事にガードのないお腹に蹴りが刺さったわ。そしてそのまま気絶しちゃうんだものビックリしたわ。



 流石に私の蹴りで気絶させておいて放置する事も出来ないし、慌てて回復魔法を使ったわよ。ダンジョン内だから地面はゴツゴツしてるし可哀想だから膝枕してあげた。
 別に邪な気持ちは無かった、はず、よ。



 すぐに気が付いて体は大丈夫だったみたいでよかったけど、実験は失敗だったらしい。

 どういう実験でどうなれば成功だったのか、一研究者である私は知りたくて何度もいろんな角度から聞いたわ。
 そして本人は誤魔化しているつもりみたいだけど、私には分かった。



 私のスカートの中を覗きたかっただけなんだって。そんなの言えば見せてあげるのに。

 あー、嘘。

 今の無し。


 見せないわよ。見せるわけないじゃない。





 地下2階も過ぎ地下1階を進むともうすぐ出口。そこでゲンスイさんとはお別れ。


 このダンジョン長かったような気がするのに、帰りはやたらと短く感じたのは気のせいじゃないと思うわ。


 でも、ここを出たらもう一緒に居る理由がないもの。だからお別れする覚悟をちゃんと決めてダンジョンを出たの。



そしたらゲンスイさんは突然言ったわ。

「サラ、俺と一緒に住まないか?」



 私はなにも反応できなかった。ついさっきお別れの覚悟を決めたばかりなのに、その直後にこんな事言われたら嬉しいのかバカにされてるのかよく分からなくなっちゃた。


 でも続けていろいろ言い訳みたいなことを言っていたけどそんなのどうでもいいわ。






「お前が好きだ!だから一緒にいよう!」



「はい。私もゲンスイさんが大好きです。よろしくお願いします!」



 何も考えず、感じたまま、そしてそれを言葉にしただけ。




 私は嬉しくて泣いちゃってた。そして抱きついちゃった。

 だって泣き顔はエルフでも不細工だから見せるわけにはいかないもんね。
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