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光を見つめて

夢の終わり

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実は、この夢には続きがあるんだ。

おじさんは涙を拭わずに立ち上がって
僕に「おいで。」と手を差し伸べた。

僕は無心にその手をとって、
暗い部屋を出た。

その手はあたたかくて、
どこか震えていたようだった。

そのにはたくさんの星。

僕とおじさんは
それをただ黙って見上げていたんだ。


「ねぇ?
   おじさんは何に縋っているの。」

「………何にだろうな。」

「縋っているものすら分からないの。
   ………もしかしたら、
   僕よりおじさんの方が
   辛いのかもしれない。
   僕は何に憧れているのか、
   ちゃんと分かってる。」

「頭が良くても、
   分からない事はあるんだよ。」

   
おじさんは僕の手を握る力を
強くした。

おじさんはまだ涙を拭っていない。

ひたすら溢れてくる涙を
流し続けているだけだった。


「…おじさん。
   どうして涙を拭わないの?
   ほら、
   服まで濡れてしまっているよ。」


おじさんはまた
何かに縋るような目をして
星空を見つめていた。


「そうだな…。
   拭ってしまえば、
   今は楽になるけれど、
   後で目が赤くなってしまうだろう?
   おじさんはね、
   赤い目は好きじゃないんだよ。
   泣いていた事が
   ばれてしまうじゃないか。」

「そっか。」


その時、僕は知った。

頭の悪い人も、頭の良い人も、
みんな、
泣きながら生きているってことを。

泣いていることに
気づかれてしまうのは、
涙を拭っていてしまっていたから。

泣いていることに
気づかれないようにするには、
涙を拭わず流し続けることが
最善策だということに
僕は気づかなかった。


“頭の悪い人”と、“頭の良い人”。


この両者の違いは、
そこにあったのだと僕は知った。


あの暗い部屋で、
僕はひたすら涙を拭っていた。


でももう、拭わないよ。


溢れる雫の生暖かさと、
着心地の悪い服の感触。

その全てを受け入れるのが
頭の良い人なんだって、
知ったから。


「おじさん…。
   星がはっきり見えないよ…?」

「いいんだよ、それで。
    それでこそ、
   この世界を生き延びる
   術なんだから。」


僕らは二人、
この漆黒に広がる星々に
縋りつくように立っていた。
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