上 下
87 / 92
兎と狼 第2部

第87話 ラストアタックの大本命

しおりを挟む
 ◇◇◇現在◇◇◇

『カケルくん。カケルくん』

 GVさんが俺を読んでいる。頭が痛い。情報を詰め込み過ぎた。整理しないと状況が掴めなさそうだ。

「う、ううぅん……」

 自分の口から寝ぼけたような声を漏らしてしまった。こんなみっともない姿をアリスとメルが見ているなら申し訳ない。

「カケルくん。よかった……。ほら、言った通りだった」
「スミマセン……。たしかに情報量多かったです」
「ごめんね。あの事件はいろんなことが同時に起こったんだ。だから、今あの事件はもうすでに忘れ去られようとしている」
「え? なんでですか!?」
「それは僕もわからないんだ。政府が決めたことだからね」

 そうなんだ。だから、図書館の本にも曖昧に書かれていた。たしかに龍神が助けたということにはなってるけど、3龍傑とまで書かれてなかった。
 そして魔物もどういうものが襲ってきたのかも、詳しく書かれてなかった。

「あ、そうだ。僕は有力な情報持ってる人知ってるよ」
「え?」
「アレンのお父さん。まだ北海道の方にいるんじゃないかな?」
「ほ、北海道ですか……」

 そういえばお母さんが北海道に取材を受けに行ったと言っていた。エアドライブカーという空飛ぶ車に乗って訪れたらしい。
 だけど、どのような取材を受けたのかは教えてくれなかった。そこの人からも口止めされてるみたいだ。だから俺はそれ以上聞かなくなった。

「そうだ。カケルくん。メール見て」
「あ、はい……」

 ――ポロン

"ハエトリグサ討伐作戦最終実行内容"

"参加者 カケル、ルグア、アレン、バレン、GV、ヤサイダー"

"立ち位置振り分け
 前衛 カケル ヤサイダー
 後衛 アレン GV バレン
 指令兼補助 ルグア"

"ラストアタック担当 カケル"

「ヤサイダー? なんでヤサイダーさんが戦闘組にいるんですか!? 敵ギルドですよ!! それにラストアタック担当が俺って……」
「あはは、ごめん説明してなかったね」
「もう、GVさんったら。説明お願いしますよー」

 そして少しの沈黙が流れる。机の上に置かれていた食事は綺麗に片づけられていた。いつのまにか壁には"打倒ハエトリグサ"とでっかい紙が貼られている。

「ヤサイダーさんは兎アバターが倒した時に手に入る28神器のひとつ、ランスが欲しいみたいなんだよね。だから、同行してもらうことになったってこと。このギルドで兎アバターなのはカケルくんだけだから、ラストアタック任せたよ」
「あ、はい……」

 そう言われても困ったものである。俺は武器も揃ってないし。ケイから教わったほんの少しの情報しかない。それよりも、ヤサイダーさんがさっきから俺の方を見ている。
 何かを話したいらしい。俺はヤサイダーさんの方に行くと、彼女の方から話しかけてきた。

「カケル。あの紋章はどういう効果なのか教えてもらえる?」
「あの紋章ってなんだよ」
「カケルのに決まってるじゃない。あの翡翠色をした綺麗な紋章よ」
「ああ、それか……。あの紋章は目線を合わせて発動した時にその人の記憶を辿ることができるんだ。だけど、GVさんのはちょっと負担かかりすぎたな……。リアゼノン事件の闇の部分を見てしまった」
「闇の部分?」

 ヤサイダーは興味深そうな表情をする。俺は紋章を通してみた情報を言おうか悩んだ。だけど、このまま秘匿情報として心の中にとどめておくこともできる。

「今は言えない。俺の住所メールで送っとくから、あとで来てもらえると助かる」
「仕方ないわね。わかったわ」

 俺はヤサイダーに住所を教えた。俺の部屋は実は防音になっている。外の音はしっかり聞こえる仕様で内側の音は漏らさない。スイッチひとつで切り替わる。
 普段は防音スイッチは切っているというか、一度も使ったことがない。これはお父さんのこだわりからついた機能だとお母さんが言っていた。

「時間ある時に」
「はいはい。もう言わなくていいわよ」
「わかった」

 そうした方が俺も楽だ。この情報をしっかり整理して話した方がごちゃごちゃしない。
 アリスとメルは寝る分別をしている最中。彼女たちの寝顔はものすごくかわいいと、ケイもヤマトも思っているらしい。
 だけど、そんな風の噂は本当なのだろうか? まあそれは置いておくとして。

「ヤサイダー。28神器ってなんだ?」
「そんなのも知らないのね。攻略サイトにも載ってるわよ」
「は、はあ」

 ヤサイダーはあきれ顔で後頭部を掻きむしる。俺は検索をしようとするが、彼女が俺の腕を掴んだ。
 なんで? なんで検索してはいけないんだ? つまりあれか? 口頭で説明してくれるのか?

「28神器というのは"長剣・短剣・大剣・ランス・レイピア・ガントレット・太刀・盾・弓・魔杖・銃3種"のついを合わせた数。この神器っていうのもアバターそれぞれ装備できるのが限られてる。あたしのはランスとレイピアが適正武器。と言ってもそれしか装備できないわ」
「つまり、ヤサイダーはランスの対のひとつが欲しいから俺を利用するってことか?」
「そうなるわね。悪いかしら? もうひとつ情報があるのだけれど。ハエトリグサを兎アバターが倒した時もうひとつ神器をドロップするのよ。それがガントレット。それしか装備できない貴方にピッタリじゃない」
「ま、まあ……」

 そういう理由だったのか。やっと理解できた。利用されるのは嫌だけど、戦闘力をあげられるならガントレットが欲しい。さすがにボクシンググローブはもう装備したくない。もっとかっこいいのが欲しい。
 時刻は19時、夕食の時間だ。長期間ゲームにログインしたらしいヤサイダーは久しぶりのリアルでの食事らしい。決戦は明日。メンバーは解散した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

インフィニティ・オンライン~ネタ職「商人」を選んだもふもふワンコは金の力(銭投げ)で無双する~

黄舞
SF
 無数にあるゲームの中でもβ版の完成度、自由度の高さから瞬く間に話題を総ナメにした「インフィニティ・オンライン」。  貧乏学生だった商山人志はゲームの中だけでも大金持ちになることを夢みてネタ職「商人」を選んでしまう。  攻撃スキルはゲーム内通貨を投げつける「銭投げ」だけ。  他の戦闘職のように強力なスキルや生産職のように戦闘に役立つアイテムや武具を作るスキルも無い。  見た目はせっかくゲームだからと選んだもふもふワンコの獣人姿。  これもモンスターと間違えられやすいため、PK回避で選ぶやつは少ない!  そんな中、人志は半ばやけくそ気味にこう言い放った。 「くそっ! 完全に騙された!! もういっその事お前らがバカにした『商人』で天下取ってやんよ!! 金の力を思い知れ!!」 一度完結させて頂きましたが、勝手ながら2章を始めさせていただきました 毎日更新は難しく、最長一週間に一回の更新頻度になると思います また、1章でも試みた、読者参加型の物語としたいと思っています 具体的にはあとがき等で都度告知を行いますので奮ってご参加いただけたらと思います イベントの有無によらず、ゲーム内(物語内)のシステムなどにご指摘を頂けましたら、運営チームの判断により緊急メンテナンスを実施させていただくことも考えています 皆様が楽しんで頂けるゲーム作りに邁進していきますので、変わらぬご愛顧をよろしくお願いしますm(*_ _)m 吉日 運営チーム 大変申し訳ありませんが、諸事情により、キリが一応いいということでここで再度完結にさせていただきます。

A.W.O~忘れ去られた幻想世界を最強と最弱で席巻します~

まはぷる
SF
VR技術が一般化した世界。 祇乃一也(しのかずや)は24歳の、しがないゲームメーカーに勤める社会人2年生である。 大晦日の夜、共に過ごす相手もない一也は、会社からひとり寂しくVRMMOのサーバー管理業務を言い渡されていた。 そんな折、10年前にサービス停止していたはずの『アースガルド戦記オンライン』(通称、A.W.O)のサーバーが稼働していることに気づく。 A.W.Oは、当時中学生だった一也が、心血を注いだ初のVRMMORPGだった。 当時のアカウントを消していなかったことを思い出した一也は、懐かしさもあって10年ぶりにログインしてみることにする。 そこには、どういうわけか最新鋭の技術で進化し、千年の時が流れた新たなA.W.Oの世界が広がっていた。 そして、レベルカンストのアバター、神人シノヤとなった一也は、滅びかけた神族側に属する姫騎士エリシアと出会うことになる――というお話。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

俺は異端児生活を楽しめているのか(日常からの脱出)

SF
学園ラブコメ?異端児の物語です。書くの初めてですが頑張って書いていきます。SFとラブコメが混ざった感じの小説になっております。 主人公☆は人の気持ちが分かり、青春出来ない体質になってしまった、 それを治すために色々な人が関わって異能に目覚めたり青春を出来るのか?が醍醐味な小説です。

VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~

オイシイオコメ
SF
 75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。  この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。  前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。  (小説中のダッシュ表記につきまして)  作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。

処理中です...