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兎と狼 第2部

第69話 今日のスターはパーティーピーポー

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 そうして俺たちは拠点から出ると、メルとアリスは俺についてきた。どうやら道案内はメルがしてくれるようだ。マップを見る。そこにはたくさんの出店のマークが書かれていた。最初に案内してくれるのは、綿あめが売られているエリアだった。
 メルとアリスはそこで買ったらしい。所持金を見ると、そこには10万円って書かれていた。どうやらこのゲームは円計算らしい。厄介な計算じゃなくてよかった。架空通貨じゃ……。

「カケルさん。ここではこのアニマメダルを使うんですよ」
「アニマメダル?」
「円と書かれているのはカケルさんが課金できる金額で、この世界ではアニマメダルを使うんです。カケルさんの世界で言うところの架空通貨です」

(マジか)

 架空通貨がなくて嬉しかったと思ったのに、架空通貨があったとは。よく見たら円の隣にアニマという言葉が書かれている。これがゲーム内通貨で所持アニマは500万を超えていた。これでこの祭りを謳歌できる。
 俺は綿あめを500アニマで購入し食べる。雲のように柔らかい綿あめは食べると口の中が甘くなって、とても美味しかった。食レポはあまり得意じゃないのでここまでにしておく。

「次は焼き鳥食べたいです……!」
「それ俺が食べたら逆弱肉強食だぞ?」
「いいんですよ。"プレイヤーを焼き鳥になんかしませんから"」
「いやそれかなり怖いんですけど……」

 アリスの冗談が進化している。この前は俺が変なことを考えて、彼女を自分のものにしたいって言ったら半分笑い交じりに『そんな些細な事?』って言っていた。それで余計に俺が本気になったのだが……。
 やっぱりアリスが好きだ。このほわほわ真っ白ホワイトゴブリンの肌をぷにぷにしたいくらい好きだ。もちろんメルの方も大好きだ。ある意味デート。ある意味でプチハーレム? そんな状況に胸の高鳴りが止まらない。
 そうして俺たちは焼き鳥屋に来た。そこでモモと皮とねぎまを3本ずつ購入。総額は2500アニマでリアルよりも高額だった。と言っても、リアルも物価高で焼き鳥もそんな手軽に手に入るものではないが。
 食べるとリアルの焼き鳥を食べている時と同じ感覚になった。選んだのは塩だったので、少ししょぱさが残るがそこまで強い味付けではない。
 昔弟と遊んだフルダイブゲームでの食事はなにを食べているのかわからない、形だけのものだったが、ビースト・オンラインは味覚までしっかり刺激してくる。

「焼き鳥。美味しいです……! だけど、皮はちょっとあぶらっこくって苦手です……」
「じゃあ俺が食べようか?」
「いいんですか?」
「ああ、個人的に皮が好きだからな。あのざらざらした舌触りと、ほのかな甘い香りが大好きなんだ」

 これはマジな話である。俺は焼き鳥のなかでも皮が好きでお母さんが買ってくる時は俺にだけ皮だけが入っている詰め合わせパックを用意してくれる。
 たしかに脂っこいのは俺も苦手だが、塩との相性もものすごくいいので一度食べ始めたら止まらない。最大で4本か5本以上食べてた覚えがある。

「次は焼肉ブースに行きたいです……! ホルモン焼きが食べたいので」
「もう。お姉ちゃん食べすぎだよ」
「いいんですよ。こういうときこそたくさん楽しまなくては……!」

 そう言ってアリスは人ごみに消える。俺とメルで追いかけるがアリスの動きが早すぎて追いつけない。そしてやってきた焼肉ブース。アリスの方に10万アニマを送っておいたが、大丈夫だろうか?
 そもそも、AIに通貨を送れるのが画期的な気がする。俺はメルと一緒に牛肉のステーキを購入した。椅子を探して席に着くと、メルにナイフとフォークの使い方を教えて食べ始める。少しして、アリスが合流したが、彼女のさらにはこんもりとホルモン焼きが乗せられていた。
 これをひとりで食べるのだろうか? どう考えても食べすぎな気がする。だけど、彼女はとてもうれしそうに食べ進めていた。
 俺も負けじともうひとつステーキを買って食べ始める。リアルで朝ごはんを食べていなかったので、錯覚的な感じでいくらでも食べられそうな気がした。
 だけど、そろそろしっかりした食事をしないと健康面でも大変なことになる。俺はケイに連絡をして焼肉ブースに来るように頼んだ。そして合流すると、俺は一度スリープモードでログアウトして朝食を済ませる。
 ゲーム内に戻ってきたときにはアリスは大量のホルモン焼きを食べ終え、今度もまたホルモン焼きを食べ始めていた。それだけホルモン焼きを食べたかったんだろう。喜んでいいのか悪いのか、彼女の所持金が気になってしまう。

「カケル。あと10万アニマください……!」
「アリス……もうさんざん食べただろ……」
「ま、まだまだです……!」
「しばらくなしだ」
「うぅぅ……カケルのけち……」

 アリスは本当に食べたりないのか、イベント用らしいドレスの裾を口に咥えてモジモジと可愛げにアピールする。ここまでされたらこっちが困る。俺はそのアピールに押し負けて、半分の5万アニマを送信した。

「今はこれだけだ。ちゃんと使い過ぎないように気を付けて使いなよ」
「ありがとうございます……! 早速行ってきます!」
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