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兎と狼
第55話 先天性魔力眼球症①
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「翔斗くんの声だけが?」
「はい」
おれの報告に目を丸くする黒白様。カブトムシ戦をした時、翔斗の指示で紋章を発動させた。あれはその日最後の使用だった。いつもと同じように目と耳が機能しなくなり真っ暗闇の中、声という音が聞こえない中戦う。いつもと変わらない振動と空気の波長だけで戦うスタイル。
紋章を発動させればさせるほど、音もはっきりしなくなる。だから怖かった、使いたくなかった。だけど、翔斗の気持ちはわかる。あのカブトムシはおれじゃないと倒せなかったかもしれない。そして、翔斗のアシストもあってとどめを刺せた。
そうおれの頭の中で巡らせてる間に、黒白様は亜空間からノートを取り出してペラペラとめくっている。表紙には"景斗成長記録・発言集"と書かれてあった。
これはきっとおれに関することが全部書かれているのかもしれない。
「ところで、景斗」
「なんですか?」
「今、君に関するこれまでの記録を探しているのだけれど、さっき言ってたことの記述がなくてね……」
「つまり、おれ自身も初めてのことってこと?」
「そうなるね……って、その反応ってことは記憶が曖昧?」
「はい……」
なぜなのだろうか? 22年の間に起こった断片的なことしか思い出せない。少し前に振り返った過去も、今ではかなり薄れていた。どうしてこんなことが起こるのだろうか? 疑問符ばかり浮かんできて、理解不能だ。
この年では若年性認知症の可能性も出てくるが、過去一週間以上のことやこれまで学んできた講義内容はしっかり覚えている。この欠損はどこからきているのだろう。きっと何かが起こっているのかもしれない。
『景斗。目が白くなってるよ』
「はっ!!」
『いい加減自分で制御できるようにならないと。紋章に頼りっきりはダメだよ』
「そ、そうでした……。わざわざ通信魔法で指摘してくださりありがとうございます。黒白様」
おれが誤って紋章を発動した場合、いつも黒白様やフォルテ、バレンたち通信魔法が使えるメンバーが指摘してくれる。いくら身体に馴染んだ紋章でも、まだうまく扱えない。無意識に発動させることが多かった。
だけど、おれの紋章はフォルテたちとは違った。彼らは紋章を発動させると雷を纏ったり、炎を纏ったりする。しかし、おれは不利な状態になる。
目が見えない音が聞こえない。それがおれの普通だったけど、他の人はおかしそうに見ていた。
おれのどこがおかしいのか? 学校に行こうとすると、黒白様から黒のカラコンを渡され、たしかに妙な対応をされていた。
もしかして、おれの瞳になにか問題があるのだろうか?
「その……」
「そうだ。君の両親から頼まれてることがあってね。ちょっと遅くなったけど……」
「頼まれてること?」
「まあ、正確には今の今まで隠していた。が正解なんだけどね」
黒白様は亜空間から分厚い本を取り出す。非常時に使う本とは違う。本革のカバーをかけてある本。気になったおれは、そっと黒白様の隣に行って覗き込む。
そこには、青い眼をしたおれの写真がたくさん飾ってあるアルバム。これは幼稚園の時の写真だろうか?
青い眼をしているのはおれだけ。他の人は黒い瞳だった。やっぱりおれだけが違う。
なのに、今の今までその瞳の理由は教え貰っていない。すると、黒白様がさらに写真の年代を遡った。
まだ生まれたばかりのおれ。その時から瞳の色が他人と違った。どうやら、おれの青い眼は生まれつきのようだ。
「今まで何度も鏡を見てきたけど……。やっぱりおれだけ……」
「そうだね。僕も色々調べたんだけど」
「調べた?」
「この家に住む人は皆魔法が使えるよね。その魔力の種類は2つある」
魔力の種類が2つ。これはどういうことなのか? おれは物心ついた時から魔法と隣り合わせの生活していた。
魔力の種類が2種類あるのは、今日初めて聞いたことだった。
「一つはバレンの血を提供した血液中の魔力」
「確か、おれのお姉さんたちがそうでしたよね」
「うん。バレンの血液はなんでもできるからね。紋章も彼の血を使って常時発動型の紋章を作ったりとかね」
バレンの血は万能薬。魔法でひと工夫すればどんな薬にも、どんな毒にもなる。紋章の刻印魔法式として使った場合、そんな効果があるとは知らなかった。
だけど、黒白様はまだ1種目の魔力の話しかしてない。
「黒白様。もう1つって」
「そうだった。もう1つは魔力回路の場合だね。景斗の魔力はこっちの方だよ。ただ……」
黒白様が暗い表情をする。少し震える唇。なにか言いづらいことでもあるのだろうか? 数秒後。彼の口が開く。
「景斗の瞳は魔力が暴走したことで、青くなっている。魔力が眼球に集中しているんだよ」
「え?」
「これを"先天性魔力眼球症"。通称・魔眼症って呼んでる」
「魔眼症……。なんで今まで教えてくれなかったんですか!」
おれは思わず大声をあげる。ずっと隠してたおれの秘密。なぜこれまだ言わなかったのか、疑いたい。
直後。おれの右手がぽっと熱くなり、目の前が真っ暗になった。そして、耳を塞がずとも聞こえなくなる聴覚。
だけど、黒白様は通信魔法も使わずに黙り込んでいる。理由はあるのかもしれない。今まで言って来なかった理由が。
そんなことさえも隠す黒白様。だけど、おれの紋章が落ち着いた時。黒白様はこう言った。
「君の紋章は他の人と少し違う作りにしている。発動前と発動時の効果を逆にしているんだ。だから、紋章を発動していない時は光も音も感じる。つまり、君専用の制御装置ってとこかな? それじゃ、僕は準備の続きをするから、あとは自分で考えて」
「はい」
おれの報告に目を丸くする黒白様。カブトムシ戦をした時、翔斗の指示で紋章を発動させた。あれはその日最後の使用だった。いつもと同じように目と耳が機能しなくなり真っ暗闇の中、声という音が聞こえない中戦う。いつもと変わらない振動と空気の波長だけで戦うスタイル。
紋章を発動させればさせるほど、音もはっきりしなくなる。だから怖かった、使いたくなかった。だけど、翔斗の気持ちはわかる。あのカブトムシはおれじゃないと倒せなかったかもしれない。そして、翔斗のアシストもあってとどめを刺せた。
そうおれの頭の中で巡らせてる間に、黒白様は亜空間からノートを取り出してペラペラとめくっている。表紙には"景斗成長記録・発言集"と書かれてあった。
これはきっとおれに関することが全部書かれているのかもしれない。
「ところで、景斗」
「なんですか?」
「今、君に関するこれまでの記録を探しているのだけれど、さっき言ってたことの記述がなくてね……」
「つまり、おれ自身も初めてのことってこと?」
「そうなるね……って、その反応ってことは記憶が曖昧?」
「はい……」
なぜなのだろうか? 22年の間に起こった断片的なことしか思い出せない。少し前に振り返った過去も、今ではかなり薄れていた。どうしてこんなことが起こるのだろうか? 疑問符ばかり浮かんできて、理解不能だ。
この年では若年性認知症の可能性も出てくるが、過去一週間以上のことやこれまで学んできた講義内容はしっかり覚えている。この欠損はどこからきているのだろう。きっと何かが起こっているのかもしれない。
『景斗。目が白くなってるよ』
「はっ!!」
『いい加減自分で制御できるようにならないと。紋章に頼りっきりはダメだよ』
「そ、そうでした……。わざわざ通信魔法で指摘してくださりありがとうございます。黒白様」
おれが誤って紋章を発動した場合、いつも黒白様やフォルテ、バレンたち通信魔法が使えるメンバーが指摘してくれる。いくら身体に馴染んだ紋章でも、まだうまく扱えない。無意識に発動させることが多かった。
だけど、おれの紋章はフォルテたちとは違った。彼らは紋章を発動させると雷を纏ったり、炎を纏ったりする。しかし、おれは不利な状態になる。
目が見えない音が聞こえない。それがおれの普通だったけど、他の人はおかしそうに見ていた。
おれのどこがおかしいのか? 学校に行こうとすると、黒白様から黒のカラコンを渡され、たしかに妙な対応をされていた。
もしかして、おれの瞳になにか問題があるのだろうか?
「その……」
「そうだ。君の両親から頼まれてることがあってね。ちょっと遅くなったけど……」
「頼まれてること?」
「まあ、正確には今の今まで隠していた。が正解なんだけどね」
黒白様は亜空間から分厚い本を取り出す。非常時に使う本とは違う。本革のカバーをかけてある本。気になったおれは、そっと黒白様の隣に行って覗き込む。
そこには、青い眼をしたおれの写真がたくさん飾ってあるアルバム。これは幼稚園の時の写真だろうか?
青い眼をしているのはおれだけ。他の人は黒い瞳だった。やっぱりおれだけが違う。
なのに、今の今までその瞳の理由は教え貰っていない。すると、黒白様がさらに写真の年代を遡った。
まだ生まれたばかりのおれ。その時から瞳の色が他人と違った。どうやら、おれの青い眼は生まれつきのようだ。
「今まで何度も鏡を見てきたけど……。やっぱりおれだけ……」
「そうだね。僕も色々調べたんだけど」
「調べた?」
「この家に住む人は皆魔法が使えるよね。その魔力の種類は2つある」
魔力の種類が2つ。これはどういうことなのか? おれは物心ついた時から魔法と隣り合わせの生活していた。
魔力の種類が2種類あるのは、今日初めて聞いたことだった。
「一つはバレンの血を提供した血液中の魔力」
「確か、おれのお姉さんたちがそうでしたよね」
「うん。バレンの血液はなんでもできるからね。紋章も彼の血を使って常時発動型の紋章を作ったりとかね」
バレンの血は万能薬。魔法でひと工夫すればどんな薬にも、どんな毒にもなる。紋章の刻印魔法式として使った場合、そんな効果があるとは知らなかった。
だけど、黒白様はまだ1種目の魔力の話しかしてない。
「黒白様。もう1つって」
「そうだった。もう1つは魔力回路の場合だね。景斗の魔力はこっちの方だよ。ただ……」
黒白様が暗い表情をする。少し震える唇。なにか言いづらいことでもあるのだろうか? 数秒後。彼の口が開く。
「景斗の瞳は魔力が暴走したことで、青くなっている。魔力が眼球に集中しているんだよ」
「え?」
「これを"先天性魔力眼球症"。通称・魔眼症って呼んでる」
「魔眼症……。なんで今まで教えてくれなかったんですか!」
おれは思わず大声をあげる。ずっと隠してたおれの秘密。なぜこれまだ言わなかったのか、疑いたい。
直後。おれの右手がぽっと熱くなり、目の前が真っ暗になった。そして、耳を塞がずとも聞こえなくなる聴覚。
だけど、黒白様は通信魔法も使わずに黙り込んでいる。理由はあるのかもしれない。今まで言って来なかった理由が。
そんなことさえも隠す黒白様。だけど、おれの紋章が落ち着いた時。黒白様はこう言った。
「君の紋章は他の人と少し違う作りにしている。発動前と発動時の効果を逆にしているんだ。だから、紋章を発動していない時は光も音も感じる。つまり、君専用の制御装置ってとこかな? それじゃ、僕は準備の続きをするから、あとは自分で考えて」
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