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兎と狼
第48話 次の敵は蜘蛛のようです
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それから、フォルテさんは様々なお酒を10杯飲んで支払いを済ませた。この熊は尋常じゃない。彼はいくらお酒を飲んでもあまり影響が出ないのだから、どうしたものかと思ってしまう。
ただ、日本酒テイストのお酒を飲んだあとは、様子がおかしかった。突然大声を出すし、ちょっと気持ちがハイになってる感じ。
これが酔った時のフォルテさんなら、バトルに連れて行くのは難しそうだ。するとここで、バレンの狼アバターが動き出す。どうやらスリープモードを解除したらしい。
「あの野郎……」
これがバレン復帰後の第一声。頭を掻きむしりながら俺の方にやってくる。
「カケル。お前は結の行動どう思うんだ?」
「い、いや俺に言われても……」
「見てたんなら言え! クソ雑魚! ザーーコザーーーコ!」
(だから俺に嫌味言われても……)
「酒ダチ。カケルが困ってるぞ!」
タイミングよく助け船を流してくれたフォルテさん。たしかに、結人さんのわがまま――よくわからないけど――で血を抜かれれば、いやな気持になるのはわかる。
だけど、結人さんは『魔法の研究に必要だから』という理由で採血していた。きっとバレンさんの血液にはそれなりの理由があるのかもしれない。
俺はあまり詮索しない派だが未知の世界に入った以上、宮鳥家の秘密を全部解き明かしたい。そんな気持ちはバレンさんの一言で崩される。
「俺の血にそんな意味なんざねぇよ。ただ、あの好奇心旺盛な研究者が勝手にやってるだけだ。今日も起きたら別の部屋に移動されてたし、俺も何のために利用してんのか……」
「ですよね……」
だけど、バレンさんが知らないことを俺が知っている。あの血は空気に触れると結晶化が早まることや、紋章を作るのに使うことなど。
しかし、使い方がまだ不明だった。俺が見てきたファンタジー作品でも血を使う魔法なんてなかった。だから、謎が多い。
俺が知っている魔法は詠唱や魔法陣を組むというもの。あとはアリスが使うような魔法ぐらい。となると、結人さんはバレンさんの血で魔法陣を組むとでも言っているのか?
考えれば考えるほど謎が深まっていく。でも、結人さんは多分バラされてほしくない企業秘密事項かもしれなかった。
俺はバレンさんにはなにも言わない方がいいと考え、結人さんが何に使おうとしているのかは話さないことにした。一旦まっさらに忘れたほうがいいだろう。
と言っても、俺に付与させる紋章の名称がまだわからない。変な紋章でなければいいけど、さすがにケイみたいな全盲の紋章は使いたくない。
目が見える音が聞こえるという自由さが、音も光もない不自由な世界になるのは論外だ。あれはケイだからできることなのかもしれない。
けれども、ここで気になることがあった。ケイはリアルでも全盲の紋章を使用することができる。勉強中に誤用した時はどのように対処しているのだろうか?
「その点に関しては問題ないぜ」
「フォルテさん何でですか?」
「ケイが使っている参考書や専門書は点字付きなんだ。ケイは紋章のことをしっかり理解している。今でも間違えて発動してしまうらしいが、発動した時はその時で点字をたどって読んでいるんだ」
「それって、かなりの労力ですよね?」
俺は点字とは無縁の生活をしている。今更点字を覚えろと言われても無理かもしれない。
「ケイは何歳から点字を?」
「んーと、4歳の時からだったかな? 正直忘れちまった」
「そんな小さいときからなんですね……」
つまりケイは点字もマスターしているということなのだろうか? だけど、もう一つ問題点がある。ケイは音も聞こえなくなることから講義の内容を耳でキャッチすることも難しい。
だけど、その点はケイがヤサイダーと戦った時や俺と共闘した時で、だいたいではあるが理解できた。でもこれも確定というわけではないので端に寄せておく。
「おーーーい。受付嬢!!」
「アタシでもいい? フォルテさん」
「もちろんだメル。このスターで問題になっている魔物のクエストを教えてほしい」
「了解しました。今すぐ探してきますね」
フォルテさんの要望に応えるメル。俺は彼とアリス、バレンさん、ヤマトの5人で待つ。数分後メルは受注書類を持ってきて、待合室のテーブルに並べ始める。
採集依頼や、討伐依頼などがありその中でもかなり古そうな紙があった。俺はそれを拾い上げ内容を確認する。
そこには、巨大蜘蛛の討伐というものだった。なぜか隣にいるフォルテさんとバレンさんが覗きこんでいる。
「これいいな」
フォルテさんが言った。
「アル中お前もか。俺もこのクエスト行きてぇなぁって思ったとこだ」
「だよな! メルこれ頼む!」
「ちょっとフォルテさんバレンさん!」
この2人が仲良くいるのは初めてかもしれない。俺は勝手に受注しようとする2人を止めようとするが、なかなか上手くいかない。
よく見れば、右からは黄色い雷光。左からは紫炎が俺の視界を邪魔していた。2人の手の甲を見ると紋章が光っている。
「わかった。俺もこのクエストにする。ヤマト、アリス、メル、異論はないですよね?」
「もちろんです。カケル」
「アタシも頑張るぞーーー」
「うむ……」
こうして、クエストが決まった。俺たちは案内所の外に出てメルの案内でその現場に向かう。
場所はスターの地下。ここにはたくさんの魔物――昆虫――がいるようで、俺は周囲を警戒しながら歩く。
ダンジョンを照らす光はフォルテさんの紋章を利用した雷光。照度は安定しないが、一定の距離は明るくなる。
そんな通路を歩いてる時だった。
――かさかさかさ
どこからか何かが這ってくる音がする。その音はだんだんと大きくなっていき、目の前に蜘蛛の大群が現れた。
ただ、日本酒テイストのお酒を飲んだあとは、様子がおかしかった。突然大声を出すし、ちょっと気持ちがハイになってる感じ。
これが酔った時のフォルテさんなら、バトルに連れて行くのは難しそうだ。するとここで、バレンの狼アバターが動き出す。どうやらスリープモードを解除したらしい。
「あの野郎……」
これがバレン復帰後の第一声。頭を掻きむしりながら俺の方にやってくる。
「カケル。お前は結の行動どう思うんだ?」
「い、いや俺に言われても……」
「見てたんなら言え! クソ雑魚! ザーーコザーーーコ!」
(だから俺に嫌味言われても……)
「酒ダチ。カケルが困ってるぞ!」
タイミングよく助け船を流してくれたフォルテさん。たしかに、結人さんのわがまま――よくわからないけど――で血を抜かれれば、いやな気持になるのはわかる。
だけど、結人さんは『魔法の研究に必要だから』という理由で採血していた。きっとバレンさんの血液にはそれなりの理由があるのかもしれない。
俺はあまり詮索しない派だが未知の世界に入った以上、宮鳥家の秘密を全部解き明かしたい。そんな気持ちはバレンさんの一言で崩される。
「俺の血にそんな意味なんざねぇよ。ただ、あの好奇心旺盛な研究者が勝手にやってるだけだ。今日も起きたら別の部屋に移動されてたし、俺も何のために利用してんのか……」
「ですよね……」
だけど、バレンさんが知らないことを俺が知っている。あの血は空気に触れると結晶化が早まることや、紋章を作るのに使うことなど。
しかし、使い方がまだ不明だった。俺が見てきたファンタジー作品でも血を使う魔法なんてなかった。だから、謎が多い。
俺が知っている魔法は詠唱や魔法陣を組むというもの。あとはアリスが使うような魔法ぐらい。となると、結人さんはバレンさんの血で魔法陣を組むとでも言っているのか?
考えれば考えるほど謎が深まっていく。でも、結人さんは多分バラされてほしくない企業秘密事項かもしれなかった。
俺はバレンさんにはなにも言わない方がいいと考え、結人さんが何に使おうとしているのかは話さないことにした。一旦まっさらに忘れたほうがいいだろう。
と言っても、俺に付与させる紋章の名称がまだわからない。変な紋章でなければいいけど、さすがにケイみたいな全盲の紋章は使いたくない。
目が見える音が聞こえるという自由さが、音も光もない不自由な世界になるのは論外だ。あれはケイだからできることなのかもしれない。
けれども、ここで気になることがあった。ケイはリアルでも全盲の紋章を使用することができる。勉強中に誤用した時はどのように対処しているのだろうか?
「その点に関しては問題ないぜ」
「フォルテさん何でですか?」
「ケイが使っている参考書や専門書は点字付きなんだ。ケイは紋章のことをしっかり理解している。今でも間違えて発動してしまうらしいが、発動した時はその時で点字をたどって読んでいるんだ」
「それって、かなりの労力ですよね?」
俺は点字とは無縁の生活をしている。今更点字を覚えろと言われても無理かもしれない。
「ケイは何歳から点字を?」
「んーと、4歳の時からだったかな? 正直忘れちまった」
「そんな小さいときからなんですね……」
つまりケイは点字もマスターしているということなのだろうか? だけど、もう一つ問題点がある。ケイは音も聞こえなくなることから講義の内容を耳でキャッチすることも難しい。
だけど、その点はケイがヤサイダーと戦った時や俺と共闘した時で、だいたいではあるが理解できた。でもこれも確定というわけではないので端に寄せておく。
「おーーーい。受付嬢!!」
「アタシでもいい? フォルテさん」
「もちろんだメル。このスターで問題になっている魔物のクエストを教えてほしい」
「了解しました。今すぐ探してきますね」
フォルテさんの要望に応えるメル。俺は彼とアリス、バレンさん、ヤマトの5人で待つ。数分後メルは受注書類を持ってきて、待合室のテーブルに並べ始める。
採集依頼や、討伐依頼などがありその中でもかなり古そうな紙があった。俺はそれを拾い上げ内容を確認する。
そこには、巨大蜘蛛の討伐というものだった。なぜか隣にいるフォルテさんとバレンさんが覗きこんでいる。
「これいいな」
フォルテさんが言った。
「アル中お前もか。俺もこのクエスト行きてぇなぁって思ったとこだ」
「だよな! メルこれ頼む!」
「ちょっとフォルテさんバレンさん!」
この2人が仲良くいるのは初めてかもしれない。俺は勝手に受注しようとする2人を止めようとするが、なかなか上手くいかない。
よく見れば、右からは黄色い雷光。左からは紫炎が俺の視界を邪魔していた。2人の手の甲を見ると紋章が光っている。
「わかった。俺もこのクエストにする。ヤマト、アリス、メル、異論はないですよね?」
「もちろんです。カケル」
「アタシも頑張るぞーーー」
「うむ……」
こうして、クエストが決まった。俺たちは案内所の外に出てメルの案内でその現場に向かう。
場所はスターの地下。ここにはたくさんの魔物――昆虫――がいるようで、俺は周囲を警戒しながら歩く。
ダンジョンを照らす光はフォルテさんの紋章を利用した雷光。照度は安定しないが、一定の距離は明るくなる。
そんな通路を歩いてる時だった。
――かさかさかさ
どこからか何かが這ってくる音がする。その音はだんだんと大きくなっていき、目の前に蜘蛛の大群が現れた。
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