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兎と狼 第1部
第42話 アリスとメル
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「メル!」
「お姉ちゃん?」
「そうです……! もうこんなに大きくなって。でも、すぐにわかりました。貴方がわたしの妹だということが」
AIは不思議だ。初対面なのに昔会っていたような謎の会話をする。でも、アリスとメルの会話は俺にはわかった。もしも弟がAIとして存在したとしたら、きっと似たような会話になるだろう。
でもそんなホラーなことは望んでいない。それができたとしたら哀しむという感情の必要がなくなってしまう。
「メル。こんな……。会えて嬉しいです……!」
「アタシもだよ!! お姉ちゃん!」
「え、えーーーと、再会の場申し訳ないけど。メルの場合はアリスと初対面ですよね?」
「はい。だから、名前だけ知ってて、でもお姉ちゃんと会えて……。記憶を超えたんだよ!」
その使い方あってるのだろうか? 俺はメルの謎過ぎる感性に振りまわされそうな予感がした。聞けば身長はアリスと変わらないが、年齢は9歳なのだという。
これはゲームの不具合なのかわからないが、実年齢にそぐわない身長体格設定になってるのかもしれない。すると、急に周囲が暗くなってきた。
俺は視線を上空に移すと、だんだん雲が広がってるのが見えた。これは雨雲か? この街には屋根みたいなものがない、それゆえにギルド案内所の中に避難するのも申し訳ない。
「メル。俺が契約したギルド拠点で一番近いところは?」
「ちょ、ちょっと待ってください。確認します。お姉ちゃんちょっと待ってて」
「わかった……!」
そう言って、メルは案内所の奧へ入っていった。数分後彼女は細く丸めた紙を持ってやってくる。これはきっと地図だと判断した俺はその数を数えると全部で6枚あった。
俺はなぜ6枚あるのかは知っていたが、ケイたちは驚いたはずだ。まあ、俺のアバターの特性を知っていたケイには感謝しかないが……。
そもそも、兎アバターの詳細を知ってる人はいないはず。だけどケイはとても理解している様子だった。
「えーと、まずこの街は2時間おきに家が移動し、配置が変わります。カケルさん。今の時間は」
「あ、はい。メニューを開いてっと。今は9時16分だ」
「では、あと1時間44分で家が移動しますね。となるとここから近いのは……。こことかどうでしょうか?」
受付嬢の顔に戻ったメルが一つの家を指さす。そこは直線距離300メートルほどの場所だった。でも、ここしかないなら、行くしかない。だけど、アリスはメルの前から動こうとしなかった。
まだ再会した際の熱が冷めきってないのだろう。たしかに、彼女たちが話したがってる気持ちはわかる。だけど、このゲームで――実際あるのかわからないけど――風邪を引かれたら困る。
特にこのゲームの住人のアリスとメルがインフルエンザ――本当にあるのかわからないけど――になったら、回復するまでスターに待機せざるを得ない。
それなら……。
「メル場所を案内してもらえますか?」
「いいよーー。カケルさん。お姉ちゃん。皆さん着替えてくるので待っててください」
***5分後***
「お待たせしました。ご案内します」
「ありがとうメル……!」
「どういたしまして、お姉ちゃん」
こんなほんわかした出会いの瞬間に邪魔したくないが、でもこうすれば彼女たちも嬉しいだろう。ここからはアリスとメルにスポットライトを当ててみることにする。
まず照れ隠しの笑顔をみせるメル。やっぱり9歳の受付嬢は未熟と成熟とそしてあどけなさが感じられる。人間と同じような不完全さも持ち合わせていて、なんも存在としては違和感を感じない。
そんな彼女の頭を撫でるのは姉のアリス。彼女もどこか愛嬌のある顔をしているが目がとても細くなっている。お姉ちゃん呼ばれ効果でも出ているのだろうか?
それだったら俺も負けてはいない。俺もアリスが歩いてる位置の反対側に立ち、メルの頭を撫でると彼女の顔がさらにくしゃくしゃになった。
「もうそんなに撫でられたら……まともに案内できないですよ。お姉ちゃん」
「そんなこと言わないでメル。そこまで言うならこちょこちょしますよ」
「それは……」
「もう2人ともレズみたいになってないで、まっすぐ歩こうよ」
2人の会話に割り込んだのはケイだった。あとは彼に任せておけば問題ないだろう。俺はマップと紙を照らし合わせてピンを設置したので、迷子にもならないだろう。
歩き始めて20分。曲がり角が多かったので少し歩きづらかったが、何とか拠点の一つにたどり着いた。
「先ほど説明した建物はこちらになります」
「助かるよ。それにしてもこれ高さ的に三階建て?」
「そうです」
メルが案内した建物は、白い外壁のかなりシンプルな造りだった。中に入ってみると奥の方に階段があり、なぜかテレビも置かれていた。現実世界の一般住居とはそこまで差がない。
テレビとは相向かいに置かれたソファ。そこでは早速バレンさんとフォルテさんが席取り合戦をしている。
「では、アタシは仕事があるので戻りますね」
「ちょ、ちょっと待ってメル……!」
「お姉ちゃん?」
「そうです……! もうこんなに大きくなって。でも、すぐにわかりました。貴方がわたしの妹だということが」
AIは不思議だ。初対面なのに昔会っていたような謎の会話をする。でも、アリスとメルの会話は俺にはわかった。もしも弟がAIとして存在したとしたら、きっと似たような会話になるだろう。
でもそんなホラーなことは望んでいない。それができたとしたら哀しむという感情の必要がなくなってしまう。
「メル。こんな……。会えて嬉しいです……!」
「アタシもだよ!! お姉ちゃん!」
「え、えーーーと、再会の場申し訳ないけど。メルの場合はアリスと初対面ですよね?」
「はい。だから、名前だけ知ってて、でもお姉ちゃんと会えて……。記憶を超えたんだよ!」
その使い方あってるのだろうか? 俺はメルの謎過ぎる感性に振りまわされそうな予感がした。聞けば身長はアリスと変わらないが、年齢は9歳なのだという。
これはゲームの不具合なのかわからないが、実年齢にそぐわない身長体格設定になってるのかもしれない。すると、急に周囲が暗くなってきた。
俺は視線を上空に移すと、だんだん雲が広がってるのが見えた。これは雨雲か? この街には屋根みたいなものがない、それゆえにギルド案内所の中に避難するのも申し訳ない。
「メル。俺が契約したギルド拠点で一番近いところは?」
「ちょ、ちょっと待ってください。確認します。お姉ちゃんちょっと待ってて」
「わかった……!」
そう言って、メルは案内所の奧へ入っていった。数分後彼女は細く丸めた紙を持ってやってくる。これはきっと地図だと判断した俺はその数を数えると全部で6枚あった。
俺はなぜ6枚あるのかは知っていたが、ケイたちは驚いたはずだ。まあ、俺のアバターの特性を知っていたケイには感謝しかないが……。
そもそも、兎アバターの詳細を知ってる人はいないはず。だけどケイはとても理解している様子だった。
「えーと、まずこの街は2時間おきに家が移動し、配置が変わります。カケルさん。今の時間は」
「あ、はい。メニューを開いてっと。今は9時16分だ」
「では、あと1時間44分で家が移動しますね。となるとここから近いのは……。こことかどうでしょうか?」
受付嬢の顔に戻ったメルが一つの家を指さす。そこは直線距離300メートルほどの場所だった。でも、ここしかないなら、行くしかない。だけど、アリスはメルの前から動こうとしなかった。
まだ再会した際の熱が冷めきってないのだろう。たしかに、彼女たちが話したがってる気持ちはわかる。だけど、このゲームで――実際あるのかわからないけど――風邪を引かれたら困る。
特にこのゲームの住人のアリスとメルがインフルエンザ――本当にあるのかわからないけど――になったら、回復するまでスターに待機せざるを得ない。
それなら……。
「メル場所を案内してもらえますか?」
「いいよーー。カケルさん。お姉ちゃん。皆さん着替えてくるので待っててください」
***5分後***
「お待たせしました。ご案内します」
「ありがとうメル……!」
「どういたしまして、お姉ちゃん」
こんなほんわかした出会いの瞬間に邪魔したくないが、でもこうすれば彼女たちも嬉しいだろう。ここからはアリスとメルにスポットライトを当ててみることにする。
まず照れ隠しの笑顔をみせるメル。やっぱり9歳の受付嬢は未熟と成熟とそしてあどけなさが感じられる。人間と同じような不完全さも持ち合わせていて、なんも存在としては違和感を感じない。
そんな彼女の頭を撫でるのは姉のアリス。彼女もどこか愛嬌のある顔をしているが目がとても細くなっている。お姉ちゃん呼ばれ効果でも出ているのだろうか?
それだったら俺も負けてはいない。俺もアリスが歩いてる位置の反対側に立ち、メルの頭を撫でると彼女の顔がさらにくしゃくしゃになった。
「もうそんなに撫でられたら……まともに案内できないですよ。お姉ちゃん」
「そんなこと言わないでメル。そこまで言うならこちょこちょしますよ」
「それは……」
「もう2人ともレズみたいになってないで、まっすぐ歩こうよ」
2人の会話に割り込んだのはケイだった。あとは彼に任せておけば問題ないだろう。俺はマップと紙を照らし合わせてピンを設置したので、迷子にもならないだろう。
歩き始めて20分。曲がり角が多かったので少し歩きづらかったが、何とか拠点の一つにたどり着いた。
「先ほど説明した建物はこちらになります」
「助かるよ。それにしてもこれ高さ的に三階建て?」
「そうです」
メルが案内した建物は、白い外壁のかなりシンプルな造りだった。中に入ってみると奥の方に階段があり、なぜかテレビも置かれていた。現実世界の一般住居とはそこまで差がない。
テレビとは相向かいに置かれたソファ。そこでは早速バレンさんとフォルテさんが席取り合戦をしている。
「では、アタシは仕事があるので戻りますね」
「ちょ、ちょっと待ってメル……!」
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