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兎と狼 第1部
第39話 合流
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◇◇◇◇◇◇
「ケイさん。なかなか着かないですな……」
「そりゃそうだよ。スターは動くんだから」
「そうでしたな……」
僕は先に行ったカケルたちを追いかけるように、街が移動した痕跡を追いかけていた。彼らは今何しているのか? それを考えると気が遠くなりそうだ。
ビーストモードは四肢を動かすイメージをずっとしないといけない。赤ちゃんのハイハイとはまた違ったイメージが必要なので、一度思考停止すると足がもつれてしまう。
でも、この動きが得意な人もいる。それが、バレンとフォルテ。特にバレンはリアルでも狼の姿になる――魔法で容姿を無理やり変えてるらしい――ので、走るスピードもとにかく速い。
対して僕はというとまだイメージが上手くできなくて、普通に走ったほうが早いんじゃないかとまで思っている。
「ケイ。のろのろ動くな!」
「バレン。団長の僕にその言いぐさはないでしょ」
「あぁん? んなら、先頭走れよバーーカ」
「僕より前に行ってるのはバレンだよね?」
「知るか!」
バレンはいつもこうだ。僕に対しても誰に対しても強い口調で突っかかってくる。だけど、これが元気な証拠というのは知っていた。
彼は調子が悪いとほとんど無口を貫く。自分自身が体調悪いのにまるでやせ我慢をしているかのように。
だから、実際の身体の状態もしっかり教えてくれない。余計な心配ばかりかけてくる彼は、薬も好まない。
「それにしても遠いですな……」
「そうだね……」
いつまで経っても着く気配がない。もし僕が鳥アバターだったなら空を飛べたはずなのに、残念ながら狼アバター。
そして、バレンとヤマトさんもビーストモードは四足歩行タイプ。空から確認できる仲間がいない。
マップも今はカケルとの共有状態にしていて彼の場所を確認できるようにしているが、追跡ピンがどんどん離れていく。
まだ拠点確保したという連絡もないし。この状態で大丈夫なのかもわからない。それに、スターの街の形状はフォルテが苦手なタイプだった。
きっと我を忘れるためのアルコールセンサーがびんびんだろう。つまり、今カケルは単独で行動している可能性が高い。僕は通信魔法でカケルにつなげる。その返答はすぐに来た。
「すまん。まだ案内所が……」
「大丈夫だよ。カケル、今フォルテは?」
「最中お酒飲んでる。フォルテさんのことはアリスに頼んだが、ちょっとお取込み中でさ」
「え?」
「今、アリスの妹だっていうホワイトゴブリンと話してる」
アリスに妹がいただなんて。団長としてその妹という人をどうするか悩む。迎え入れるかどうするか。
「とりま、こっちでなんとかする。スターに着いたら教えてもらえると助かる」
「了解」
◇◇◇◇◇◇
「えーと、まず聞くがなんでここにいるんだ? 俺みたいなやつじゃないと上がってこられないはずなんだが……」
「個人的にアタシの運動神経が高いからだと思います。知らないけど」
「知らないって……」
このホワイトゴブリンは名前も言わずに――そもそも俺は相手から名乗ってほしいタイプなのでまだ聞いてない。というもの神出鬼没級の登場だったので、どうしても腑に落ちない演出――ではないのだろうけど――だった。
彼女は緑色のオーバーオールを着ていて中にはボーダーのシャツ。まるで一般市民みたいな姿をしている。俺はなぜこんな高い場所にいるのかを尋ねてみることにした。
「なら、どうやってここに上ってきたんだ?」
「ただの迷子」
「迷子は迷子センターに行けよ……」
「だってばしょわからない」
「はぁ……」
なんでこんなところにAIが……。
(アリス以上に可愛いすぎる!)
ちっちゃなぴょこ耳にこれまたちっちゃな切れ込み。なんか迷い猫みたいで可愛い。
浮気癖――ほぼほぼグレーだが――がない俺でも、浮気してしまいそうだ。俺は逆に名前を聞かれそうな気がして身構える。
「か、可愛い……」
口からこぼれてしまった本音。
「そうですか? 嬉しいです!」
「いや、そういう意味じゃ……」
「ないってことないですよね!」
「え、えーーーと……」
取り返しのつかない状態になってしまった。喋り方はアリスに似ている。いや、瓜二つ。アリスとこの少女が並んで喋ったら、どっちがどっちかわからない。
それは、ラミア姉妹が並んでるかのように。きっと双子ではないのだろうが、やっぱり兄弟姉妹は似るところは似るのだろう。
もし弟が俺と同じだったら、健康体だったとしたら、もっと俺に似ていたのかもしれない。
そして、俺以上に運動神経が良くなってたかもしれない。弟は兄の俺を超えてこそ弟だ。
だけど、俺にはもう俺を超えようとする弟がいない。孤独に近い状態。
「何考えているのですか?」
「いや、なんでもない」
「なんでもなくないですよ。アタシに付いて来てください。案内所に案内します」
「お、おう……」
なんでこの少女は、俺が案内所を探していることがわかったのだろうか? 俺は少女を追いかける。
彼女はかなり早いペースで移動し、俺が立ち止まったら見失いそうだった。スターの街を完全把握しているのか、迷いがない。すると、脳内に誰かが語りかけてきた。
「カケル、今どこなのか教えてくれるかな?」
「えーと、今アリスの今って人に案内所まで案内して貰ってる」
「了解。こっち着いたからこれからフォルテたちを拾って行くよ」
「わかった。手続きはこっちで終わらせとく」
「ケイさん。なかなか着かないですな……」
「そりゃそうだよ。スターは動くんだから」
「そうでしたな……」
僕は先に行ったカケルたちを追いかけるように、街が移動した痕跡を追いかけていた。彼らは今何しているのか? それを考えると気が遠くなりそうだ。
ビーストモードは四肢を動かすイメージをずっとしないといけない。赤ちゃんのハイハイとはまた違ったイメージが必要なので、一度思考停止すると足がもつれてしまう。
でも、この動きが得意な人もいる。それが、バレンとフォルテ。特にバレンはリアルでも狼の姿になる――魔法で容姿を無理やり変えてるらしい――ので、走るスピードもとにかく速い。
対して僕はというとまだイメージが上手くできなくて、普通に走ったほうが早いんじゃないかとまで思っている。
「ケイ。のろのろ動くな!」
「バレン。団長の僕にその言いぐさはないでしょ」
「あぁん? んなら、先頭走れよバーーカ」
「僕より前に行ってるのはバレンだよね?」
「知るか!」
バレンはいつもこうだ。僕に対しても誰に対しても強い口調で突っかかってくる。だけど、これが元気な証拠というのは知っていた。
彼は調子が悪いとほとんど無口を貫く。自分自身が体調悪いのにまるでやせ我慢をしているかのように。
だから、実際の身体の状態もしっかり教えてくれない。余計な心配ばかりかけてくる彼は、薬も好まない。
「それにしても遠いですな……」
「そうだね……」
いつまで経っても着く気配がない。もし僕が鳥アバターだったなら空を飛べたはずなのに、残念ながら狼アバター。
そして、バレンとヤマトさんもビーストモードは四足歩行タイプ。空から確認できる仲間がいない。
マップも今はカケルとの共有状態にしていて彼の場所を確認できるようにしているが、追跡ピンがどんどん離れていく。
まだ拠点確保したという連絡もないし。この状態で大丈夫なのかもわからない。それに、スターの街の形状はフォルテが苦手なタイプだった。
きっと我を忘れるためのアルコールセンサーがびんびんだろう。つまり、今カケルは単独で行動している可能性が高い。僕は通信魔法でカケルにつなげる。その返答はすぐに来た。
「すまん。まだ案内所が……」
「大丈夫だよ。カケル、今フォルテは?」
「最中お酒飲んでる。フォルテさんのことはアリスに頼んだが、ちょっとお取込み中でさ」
「え?」
「今、アリスの妹だっていうホワイトゴブリンと話してる」
アリスに妹がいただなんて。団長としてその妹という人をどうするか悩む。迎え入れるかどうするか。
「とりま、こっちでなんとかする。スターに着いたら教えてもらえると助かる」
「了解」
◇◇◇◇◇◇
「えーと、まず聞くがなんでここにいるんだ? 俺みたいなやつじゃないと上がってこられないはずなんだが……」
「個人的にアタシの運動神経が高いからだと思います。知らないけど」
「知らないって……」
このホワイトゴブリンは名前も言わずに――そもそも俺は相手から名乗ってほしいタイプなのでまだ聞いてない。というもの神出鬼没級の登場だったので、どうしても腑に落ちない演出――ではないのだろうけど――だった。
彼女は緑色のオーバーオールを着ていて中にはボーダーのシャツ。まるで一般市民みたいな姿をしている。俺はなぜこんな高い場所にいるのかを尋ねてみることにした。
「なら、どうやってここに上ってきたんだ?」
「ただの迷子」
「迷子は迷子センターに行けよ……」
「だってばしょわからない」
「はぁ……」
なんでこんなところにAIが……。
(アリス以上に可愛いすぎる!)
ちっちゃなぴょこ耳にこれまたちっちゃな切れ込み。なんか迷い猫みたいで可愛い。
浮気癖――ほぼほぼグレーだが――がない俺でも、浮気してしまいそうだ。俺は逆に名前を聞かれそうな気がして身構える。
「か、可愛い……」
口からこぼれてしまった本音。
「そうですか? 嬉しいです!」
「いや、そういう意味じゃ……」
「ないってことないですよね!」
「え、えーーーと……」
取り返しのつかない状態になってしまった。喋り方はアリスに似ている。いや、瓜二つ。アリスとこの少女が並んで喋ったら、どっちがどっちかわからない。
それは、ラミア姉妹が並んでるかのように。きっと双子ではないのだろうが、やっぱり兄弟姉妹は似るところは似るのだろう。
もし弟が俺と同じだったら、健康体だったとしたら、もっと俺に似ていたのかもしれない。
そして、俺以上に運動神経が良くなってたかもしれない。弟は兄の俺を超えてこそ弟だ。
だけど、俺にはもう俺を超えようとする弟がいない。孤独に近い状態。
「何考えているのですか?」
「いや、なんでもない」
「なんでもなくないですよ。アタシに付いて来てください。案内所に案内します」
「お、おう……」
なんでこの少女は、俺が案内所を探していることがわかったのだろうか? 俺は少女を追いかける。
彼女はかなり早いペースで移動し、俺が立ち止まったら見失いそうだった。スターの街を完全把握しているのか、迷いがない。すると、脳内に誰かが語りかけてきた。
「カケル、今どこなのか教えてくれるかな?」
「えーと、今アリスの今って人に案内所まで案内して貰ってる」
「了解。こっち着いたからこれからフォルテたちを拾って行くよ」
「わかった。手続きはこっちで終わらせとく」
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