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兎と狼
第36話 フォルテの故郷
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◇◇◇◇◇◇
誰かが俺の身体を突っつく。リアルでは生えていない毛にも痛覚が機能しているらしく、時々強く引っ張られる感覚。
稀に突起した何かが背中に食い込みグリグリとされ、母親が起こす時よりも最悪な動きをされる。
そして、耳がチクッとした時だった。
「カケル! カーケール!」
「うわぁ?!」
「やっと起きた。カケル。スターに着いたよ」
「それよりやり方考えてくれよ……アリス……」
「だってなかなか起きなかったんだもん」
(それはごもっともです……)
思考の渦に飲まれているうちにノンレム状態になったらしく、ぐっすり深層部まで落ちていたようだ。
まだ理解しきれていない部分が多いが、それがこのギルドの良いところなのだろう。これが程よい謎であればの話だが……。
正直これ以上謎を増やされると困る。今でも収拾がついてないのに、さらに増えたら整理だけで数年以上かかりそうだ。
「カケル……寝起きだからぼーっとしてるのか?」
「あ、いや、そ、そうです……フォルテさん……」
「なんか可愛いな。お前」
「そ、そう……ですか?」
どう見ても年上のフォルテさん。かなり知識がありそうだけど、再ログインする前に食べた料理を見た目そのまま言ってるのは、何故なんだろうと思った。
たしかに"餡掛けオムライス"だけど、どう考えてもあれは天津飯だ。味は本当に美味しかったが、それに気づかない大樹も不思議。
思ったよりも彼は天然で信じ込みやすいタイプのようで、俺とは少し違う。それももしかしたら、陸上にも活かされてる可能性も高いだろう。
そんな事はおいといて、俺とフォルテさんは同時に人型アバターに切り替える。
久しぶりに二足歩行になった気分で、グンッと背筋を伸ばすと一気に眠気が吹っ切れた。
「さて、ギルド案内所を探そうか」
「だな! 副団長!」
「ちょ、ちょちょ……。急に副団長呼びしないで下さい。俺まだ実感無いので」
「そうか? それにしてはらしいことしてるけどな」
フォルテさんがそう言うのならそうなのだろう。俺はまだ副団長という肩書きに慣れていない。
弟と遊んでた時はギルドごっことかもしたが、ここまで本格的な――本当にそうなのかは定かではないが――ギルドで、ましてや副団長という座に置いてもらった事は一度もない。
そもそも、俺を認めてくれてるのはケイとラミア姉妹、フォルテさんにアリスとヤマトくらい。
唯一バレンさんだけが『うん』と言ってくれない。そう考えると、俺が副団長になることだけ許してくれた彼は矛盾が多い。
「スターって、上から見たらどんな感じなの?」
「俺のリアルの先輩が言うには、綺麗な五芒星らしい」
「ごぼうせい?」
「ちょっと難しかったか……。星型ってこと」
そう伝えると、アリスは理解してくれたようで、うんうんと頷いた。そして、何かを妄想するような顔をする。
「星型って、つんつんしてるよね」
「たしかにそうだな」
「ですね」
この3人――俺を含む――静かになると口数が少ない。これではアリスが暇してしまう。俺は何か話題を考える。
すると、フォルテさんが。
「オレがいた世界の星ってどんなんだったんかなぁ……」
かなり意味深な独り言。俺は質問するか迷ったが、それよりも先にアリスが反応する。
「フォルテって、どこ出身なの?」
「オレか?」
「うん」
「えーとな……。アルヴェリアっていうカケルたちとは別の世界だ。ま、今どんな感じに発展してるのかは知らないが」
アルヴェリア……。たしかに聞き馴染みのない名前だった。でも、フォルテさんはこれ以上のことを語らない。
また謎が出てきた。けど、俺には関係ないことなので気にしないフリをする。
「アルヴェリア……。わたしも行ってみたいです……!」
「そうか? んじゃ、黒白様がこのゲームにログインした時一緒に行くか!」
「はいっ!」
フォルテさん。無茶ぶりしすぎ。結人さんもそれなりに忙しいだろうし。って、俺たちも行けると遅れて理解したことに、興味が惹かれる。
「その……。フォルテさん。フォルテさんはなんで料理が上手いんですか?」
「ん。わかんね」
「え?」
「リアルの料理の作り方はクックパッドとかで見てやってるが、味付けは全部オリジナルの目分量だ。ま、俺は結人の影響を受けて和食の方が完成度高いけどな」
(結人さんって和食好きなんだ……)
俺もイタリアンとかよりも和食が好きだが、親が最近ビーガン食にハマってて、魚料理や肉料理が出る確率がかなり低い。
つまり、フォルテさんが作ったチキンライスと天津飯の掛け合わせは、俺にとって久しぶりの肉ということ。
「フォルテさん。また餡掛けオムライス作ってください!」
「おうよ。任せとけ!」
この掛け合いにアリスが顔に手を当ててじーっと見つめてくる。そうだ、アリスはリアルの料理を食べられないんだった。
「わわ、わたし……も! あ、餡掛け……オムライス! た、食べて……みたいです……!」
「わかった。こっちの世界でも材料を集めておこう」
「い、いいん……ですか!?」
「もちろんさ」
フォルテさんは平等に優しい。坂東先輩がこんな性格だったらいいのになと想像しても、理想の人物像が浮かばないのはなぜだろうか。
「よし、門番に通行証を見せて……」
『ご提示ありがとうございます』
「カケル! アリス! 行くぞ!」
「フォルテさん。副団長は俺なんですけど!」
「ははっ、こういうのは早い者勝ちっての! 酒ダチの流儀だ!」
「そ、そこは真似しなくていいですから!」
誰かが俺の身体を突っつく。リアルでは生えていない毛にも痛覚が機能しているらしく、時々強く引っ張られる感覚。
稀に突起した何かが背中に食い込みグリグリとされ、母親が起こす時よりも最悪な動きをされる。
そして、耳がチクッとした時だった。
「カケル! カーケール!」
「うわぁ?!」
「やっと起きた。カケル。スターに着いたよ」
「それよりやり方考えてくれよ……アリス……」
「だってなかなか起きなかったんだもん」
(それはごもっともです……)
思考の渦に飲まれているうちにノンレム状態になったらしく、ぐっすり深層部まで落ちていたようだ。
まだ理解しきれていない部分が多いが、それがこのギルドの良いところなのだろう。これが程よい謎であればの話だが……。
正直これ以上謎を増やされると困る。今でも収拾がついてないのに、さらに増えたら整理だけで数年以上かかりそうだ。
「カケル……寝起きだからぼーっとしてるのか?」
「あ、いや、そ、そうです……フォルテさん……」
「なんか可愛いな。お前」
「そ、そう……ですか?」
どう見ても年上のフォルテさん。かなり知識がありそうだけど、再ログインする前に食べた料理を見た目そのまま言ってるのは、何故なんだろうと思った。
たしかに"餡掛けオムライス"だけど、どう考えてもあれは天津飯だ。味は本当に美味しかったが、それに気づかない大樹も不思議。
思ったよりも彼は天然で信じ込みやすいタイプのようで、俺とは少し違う。それももしかしたら、陸上にも活かされてる可能性も高いだろう。
そんな事はおいといて、俺とフォルテさんは同時に人型アバターに切り替える。
久しぶりに二足歩行になった気分で、グンッと背筋を伸ばすと一気に眠気が吹っ切れた。
「さて、ギルド案内所を探そうか」
「だな! 副団長!」
「ちょ、ちょちょ……。急に副団長呼びしないで下さい。俺まだ実感無いので」
「そうか? それにしてはらしいことしてるけどな」
フォルテさんがそう言うのならそうなのだろう。俺はまだ副団長という肩書きに慣れていない。
弟と遊んでた時はギルドごっことかもしたが、ここまで本格的な――本当にそうなのかは定かではないが――ギルドで、ましてや副団長という座に置いてもらった事は一度もない。
そもそも、俺を認めてくれてるのはケイとラミア姉妹、フォルテさんにアリスとヤマトくらい。
唯一バレンさんだけが『うん』と言ってくれない。そう考えると、俺が副団長になることだけ許してくれた彼は矛盾が多い。
「スターって、上から見たらどんな感じなの?」
「俺のリアルの先輩が言うには、綺麗な五芒星らしい」
「ごぼうせい?」
「ちょっと難しかったか……。星型ってこと」
そう伝えると、アリスは理解してくれたようで、うんうんと頷いた。そして、何かを妄想するような顔をする。
「星型って、つんつんしてるよね」
「たしかにそうだな」
「ですね」
この3人――俺を含む――静かになると口数が少ない。これではアリスが暇してしまう。俺は何か話題を考える。
すると、フォルテさんが。
「オレがいた世界の星ってどんなんだったんかなぁ……」
かなり意味深な独り言。俺は質問するか迷ったが、それよりも先にアリスが反応する。
「フォルテって、どこ出身なの?」
「オレか?」
「うん」
「えーとな……。アルヴェリアっていうカケルたちとは別の世界だ。ま、今どんな感じに発展してるのかは知らないが」
アルヴェリア……。たしかに聞き馴染みのない名前だった。でも、フォルテさんはこれ以上のことを語らない。
また謎が出てきた。けど、俺には関係ないことなので気にしないフリをする。
「アルヴェリア……。わたしも行ってみたいです……!」
「そうか? んじゃ、黒白様がこのゲームにログインした時一緒に行くか!」
「はいっ!」
フォルテさん。無茶ぶりしすぎ。結人さんもそれなりに忙しいだろうし。って、俺たちも行けると遅れて理解したことに、興味が惹かれる。
「その……。フォルテさん。フォルテさんはなんで料理が上手いんですか?」
「ん。わかんね」
「え?」
「リアルの料理の作り方はクックパッドとかで見てやってるが、味付けは全部オリジナルの目分量だ。ま、俺は結人の影響を受けて和食の方が完成度高いけどな」
(結人さんって和食好きなんだ……)
俺もイタリアンとかよりも和食が好きだが、親が最近ビーガン食にハマってて、魚料理や肉料理が出る確率がかなり低い。
つまり、フォルテさんが作ったチキンライスと天津飯の掛け合わせは、俺にとって久しぶりの肉ということ。
「フォルテさん。また餡掛けオムライス作ってください!」
「おうよ。任せとけ!」
この掛け合いにアリスが顔に手を当ててじーっと見つめてくる。そうだ、アリスはリアルの料理を食べられないんだった。
「わわ、わたし……も! あ、餡掛け……オムライス! た、食べて……みたいです……!」
「わかった。こっちの世界でも材料を集めておこう」
「い、いいん……ですか!?」
「もちろんさ」
フォルテさんは平等に優しい。坂東先輩がこんな性格だったらいいのになと想像しても、理想の人物像が浮かばないのはなぜだろうか。
「よし、門番に通行証を見せて……」
『ご提示ありがとうございます』
「カケル! アリス! 行くぞ!」
「フォルテさん。副団長は俺なんですけど!」
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