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兎と狼 第1部

第35話 ロゼッタヴィレッジの判断②

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 ◇◇◇◇◇◇

「ヤサイダー様。本当に第4の街でいいのですか?」
「ええ。それであたしの作戦の方は順調かしら……」
「はい。今のところ多くの人がかのギルドの紋章の噂を広めています」
「いい感じね。それと、アリスの場所は掴めたのよね?」

 あたしは付き人の一人に何度も質問をする。この調子でアーサーラウンダーの居場所が分かれば、アリスを捕らえることができる。
 加えて今あたしは移動距離を制限している。可能な限り悪目立ちしないようにするため。そして、拠店を守るため。
 第4の街には20名ほど向かわせた。そのうち1名はスターの通行許可証持ち。だから第4の街に入ることは可能。
 今回は拠点を設置することじゃない。待ち伏せをしてアリスを捕まえることだ。アーサーラウンダーが動くとしたらまずはスターに向かうだろう。
 そこで、あたしは第4の街から接触することにした。このゲームにはあたしよりも先に始め90パーセントを攻略したプレイヤーがいた。
 その人のギルドはあたしが壊滅状態にさせて、ゲームのことをすべて吐かせたうえで退場させた。

「そろそろあたしも動こうかしら」
「それはどういう……」
「言葉通りよ。あたしはスターに向かう。ここは任せたわ」
「は、はあ……」

 そうして出発の準備をする。第4の街に向かわせた人とは別に偵察隊も出していた。アーサーラウンダーの行動に関しては報告をもらっていた。どうやら、スターへの道のりがわかったようだ。

「けど、あの紋章……」

 この世界にはあってはならないだあろう紋章。ケイはたしかに強かった。あたしの最強装備はどんな攻撃でも完全防御するというもので、今までゲームオーバーになったことはほとんどない。
 でも、あの攻撃は違った。目は見えていない。音もはっきり聞こえていない。それと引き換えに強力な力を持っている。
 しかし、ケイはまだ不完全なように見えた。まるで酒に酔ったような歩き方。だけど、あたしの場所ははっきりと把握していた。
 わからない。なんで、あのような状態で場所を特定できるのか? そして、あの勘。もしかしたらリアゼノン事件の関係者なのだろうか。
 リアゼノン事件での片翼というコードネームを持つ者は、常に指示に徹していたという。もしその人本人だとしたら。

「性別不明。所在不明。能力も実力も不明。だけど人類最強と呼ばれた3人……」

 この不可解なことが幾重にも合わさって、謎が謎を呼ぶ。今頃翔斗も気づいてきているだろう。アーサーラウンダーが普通のギルドではないことを。
 ビースト・オンラインにはランキングというものがある。戦闘力を基準に順位を決める機能。あたしはビースト・オンラインを始めて以来、1ヵ月ほどでランキング1位を取った。
 だから、このゲームのプレイヤーはあたしには絶対勝てない。戦闘力でもバトルスキルでも。
 それゆえに、あのシステム外スキルである紋章が許せない。ビースト・オンラインの総プレイヤー数は80万人以上。
 見ればケイの順位は上位5000位未満。ランクインすらしてない。なのに、あたしを倒した。

"ヤサイダー様へ

 カケルとアリスの居場所が特定できました。まもなくスターに到着する模様です"

「ほんと、許し難い事態ね……。ビーストモード起動!!」

 あたしは大型のサイの容姿に切り替え、全力疾走する。マップは翔斗に渡してしまったが、コピーをしておいたので問題ない。
 スターは動く街と過去のプレイヤーが言っていたが、それは本当のことだったようだ。やがてでっぱりのようなものが見えてくる。
 そこには熊の足跡のようなものがうっすら残っていた。そういえばアーサーラウンダーのメンバーに熊がいた。
 名前は完全に覚えたわけではないが、もしかしたらその人がビーストモードで走った跡だろう。

「つまり、このでっぱりはスターへの近道ってことね」

 この跡を追いかければ追いつく。いずれはかちかち山の罰を下してやる。あんなにふさふさな翔斗アバターなんて燃やしてやる。
 ヤマトを奪ったことを許す理由もない。そもそも、どういう経緯でアーサーラウンダーのメンバーになったのかを問いたいくらいだ。
 
「それにしても遠いわね……。彼らは今どの辺なのかしら」

 走り始めて約30分。後方を見ればでっぱりはゆっくりと消えていた。このままでは彼らに間に合わなくなる。
 もしこの消える速度にあたしが追い付かなければ、完全に見失うことになる。それだけはしたくない、すべてはアリスを捕まえるためなのだから。
 すると、後ろから声が聞こえてくる。どこかで聞いたことのある声。あたしはそっと振り向く。そこには狼2匹にライオンが四肢をピンと伸ばして立っていた。

「ヤサイダーさん。貴方もスターを?」
「そうよ」
「実は僕たちも向かっているんだ。友達が先に行っててね」

(どうやら、ケイたちのようね……)

「ごめんなさい。あたし急いでるから」
「そうなんですか? それにしてはゆっくりですね」
「これでも急いでるのよ!」

 あたしが急いでいないように見えるとはどういうことなのだろうか? あたしは再び走り出す。それに並走するようにケイたちがついてくる。
 この人たちはどうして彼らから見て敵ギルドの団長であるあたしにくっつくのだろうか。相手の考えが掴めない。

「あ」
「なによ」
「僕の友達がスターについたみたい。じゃあ、先に失礼するね。ビーストモード・ダッシュブースト!!」
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