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兎と狼 第1部
第23話 大和大樹
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翌日。どっと出てくる疲れに押し潰されそうになりながら目が覚めたこの日。昨日のゲームプレイ時間は約5時間で、深夜1時まで続いた。
そして、今日はケイとリアルで会う約束をしている。だけど、"ゲート"の意味が理解できなかった。
ゲートと言っても色々あるが、群馬と東京を直通で繋げるゲートと言えば改札口くらいだ。
俺はモヤモヤが晴れないまま、学校へと向かう。
「翔斗!」
「あ、一ノ瀬先輩……」
「もう、浮かない顔してどうしたの?」
「それがさ……」
後ろから話しかけてきたのは、一ノ瀬有栖先輩。そんな彼女に俺は昨日までにゲーム内で起こった出来事を全て話した。もちろん魔法や紋章のことを隠した状態でだ。
「AIがギルドメンバー……。不思議なこともあるんだね……」
「それもただのAIじゃないんだ」
「ただのAIじゃない?」
「ああ、ものすごくしっかりした受け答えをするし、めちゃくちゃ甘えてくるし。ホワイトゴブリンっていう乳白色の身体と、二つ角のように頭に生えているトンガリ耳が特徴的なキャラで、俺にめちゃくちゃ懐いてて……」
これはまずい。話しても話してもキリがない。いつの間に俺はアリスのことを愛人の如く気に入ったのか?
「ねぇ。そのキャラに名前とかある?」
「え、あ、そ、その……」
同名ということを伝えるのはちょっと控えたい。一ノ瀬先輩は俺が歩く道を遮るように右へ左へ。
なんか目障りに感じるが、好奇心旺盛さはゲーム内のアリスとよく似ている。すると、一ノ瀬先輩の身体が小さくバウンドした。
「一ノ瀬さん。しっかり前を向いて歩かないと危ないわよ?」
「坂東さん。すみません……」
「それと飛鳥さん。貴方。よくもやってくれましたね。今日大和大樹さんをあたしのギルドに誘おうとしたら、貴方のいる"アーサーラウンダー"に所属したと言っていました。これは一体どういう風の吹き回しなのか? みっちり説明してもらってもいいかしら?」
最悪の二重奏かよ……。俺が誘ったんじゃなくてヤマト……。
「え? ヤマトって俺と同じ高校だったんですか?」
「知らないで知り合ってたのね。貴方と同じ高校。つまりここの陸上部よ」
「ヤマト……。大和……。大和大樹……。あ、思い出した!」
俺は急ぎ足で自分の教室に向かう。大和大樹。なんて偶然なんだ。俺と同じクラスじゃないか。
普段あまり話していないが、話題ができたからには行かないといけない。俺のクラス。2年12組は校舎2階の超長い廊下を校庭側から見て左端から5番目。
走って行くといつも通り過ぎて、非常階段扉にぶつかりそうになるくらい、助走がつきそうな廊下だ。
俺がクラスに着くと、真っ先に大樹を探した。まだどこにも来てなさそうだったので、陸上部の練習場に向かう。
ホームルームまでまだ1時間ある午前7時。練習場には一人の男子生徒がやり投げのフォーム確認をしている最中。
髪型はスポーツ刈りで、高校生にしては輪郭がゴツい。そして、全身筋肉が体育着を突き破りそうなくらいガタイのいい人。
あれが大和大樹だ。俺は走って駆け寄る。
「大樹!!」
「おう。あんたから声かけるとは珍しいな」
「大樹。ビースト・オンライン遊んでるだろ?」
「遊んでるが……」
「そこの! アーサーラウンダーの!」
大樹は俺が言った言葉に驚きの表情を見せた。そして、俺に……。
「カケルか?」
「そう! カケル。それ俺だよ俺!」
「そうか、翔斗がカケルだったのか。私はプレイヤー名を考えるのが苦手で、そのまま苗字なんだよなぁ……」
「だと思った」
「今気づいたよな?」
「あはは。バレたか……」
彼とここまで話したのはいつぶりだろうか? 多分、中学一年以来だと思う。あれから大樹は陸上でどんどん実力を伸ばしていって、俺はあまり話しかけないでおこうと自分から離れていた。
確かに大樹はすごい。中学の時もそうだったが、高校では全女子生徒の注目の的。加えて大樹は自分のサインまで作るくらいファンサービスも抜かりなし。
「そうだ、翔斗。ケイからメール来なかったか?」
「来たけど。大樹も?」
「おうよ。今日夕方18時北高崎駅」
「ケイ……」
「どした? 翔斗?」
「いやなんでもない。早く学校行こう!」
そう俺が言うと大樹は荷物を持って、俺の後についてくる。その頃には7時40分を過ぎていて、駆け足で向かった。
「なあ、翔斗。翔斗はケイのことどう思ってるんだ? ケイったらわけのわからないこと言って、かつ最強なんだから、わけわからんくてさ」
「それは俺も同感だ。まずまずゲームで視覚聴覚が一時的に使えなくなるのは、ものすごく違和感がある」
俺は率直な感想を言う。
「そこなぁ。私は1、2回しか見てないが、翔斗が初めて見た時はどう思った?」
「なんか戦いづらそうなくらい足取りが悪かった。けど、あれでロゼッタヴィレッジのリーダーをワンパンだぞ? 規格外にも程があるって」
「たしかにな。私が勧めた巨大カブトムシも1発だった……」
お互い"紋章"という言葉を発さないように気をつけながら、お互いを追いかけ合う。大樹は走るのが遅い俺を気遣ってか、ゆっくりジョギングをする用の並走する。
やっぱり俺も大樹と同じくらい速く走れるようになりたい。そう思いながら、ホームルームに間に合わせた。
そして、今日はケイとリアルで会う約束をしている。だけど、"ゲート"の意味が理解できなかった。
ゲートと言っても色々あるが、群馬と東京を直通で繋げるゲートと言えば改札口くらいだ。
俺はモヤモヤが晴れないまま、学校へと向かう。
「翔斗!」
「あ、一ノ瀬先輩……」
「もう、浮かない顔してどうしたの?」
「それがさ……」
後ろから話しかけてきたのは、一ノ瀬有栖先輩。そんな彼女に俺は昨日までにゲーム内で起こった出来事を全て話した。もちろん魔法や紋章のことを隠した状態でだ。
「AIがギルドメンバー……。不思議なこともあるんだね……」
「それもただのAIじゃないんだ」
「ただのAIじゃない?」
「ああ、ものすごくしっかりした受け答えをするし、めちゃくちゃ甘えてくるし。ホワイトゴブリンっていう乳白色の身体と、二つ角のように頭に生えているトンガリ耳が特徴的なキャラで、俺にめちゃくちゃ懐いてて……」
これはまずい。話しても話してもキリがない。いつの間に俺はアリスのことを愛人の如く気に入ったのか?
「ねぇ。そのキャラに名前とかある?」
「え、あ、そ、その……」
同名ということを伝えるのはちょっと控えたい。一ノ瀬先輩は俺が歩く道を遮るように右へ左へ。
なんか目障りに感じるが、好奇心旺盛さはゲーム内のアリスとよく似ている。すると、一ノ瀬先輩の身体が小さくバウンドした。
「一ノ瀬さん。しっかり前を向いて歩かないと危ないわよ?」
「坂東さん。すみません……」
「それと飛鳥さん。貴方。よくもやってくれましたね。今日大和大樹さんをあたしのギルドに誘おうとしたら、貴方のいる"アーサーラウンダー"に所属したと言っていました。これは一体どういう風の吹き回しなのか? みっちり説明してもらってもいいかしら?」
最悪の二重奏かよ……。俺が誘ったんじゃなくてヤマト……。
「え? ヤマトって俺と同じ高校だったんですか?」
「知らないで知り合ってたのね。貴方と同じ高校。つまりここの陸上部よ」
「ヤマト……。大和……。大和大樹……。あ、思い出した!」
俺は急ぎ足で自分の教室に向かう。大和大樹。なんて偶然なんだ。俺と同じクラスじゃないか。
普段あまり話していないが、話題ができたからには行かないといけない。俺のクラス。2年12組は校舎2階の超長い廊下を校庭側から見て左端から5番目。
走って行くといつも通り過ぎて、非常階段扉にぶつかりそうになるくらい、助走がつきそうな廊下だ。
俺がクラスに着くと、真っ先に大樹を探した。まだどこにも来てなさそうだったので、陸上部の練習場に向かう。
ホームルームまでまだ1時間ある午前7時。練習場には一人の男子生徒がやり投げのフォーム確認をしている最中。
髪型はスポーツ刈りで、高校生にしては輪郭がゴツい。そして、全身筋肉が体育着を突き破りそうなくらいガタイのいい人。
あれが大和大樹だ。俺は走って駆け寄る。
「大樹!!」
「おう。あんたから声かけるとは珍しいな」
「大樹。ビースト・オンライン遊んでるだろ?」
「遊んでるが……」
「そこの! アーサーラウンダーの!」
大樹は俺が言った言葉に驚きの表情を見せた。そして、俺に……。
「カケルか?」
「そう! カケル。それ俺だよ俺!」
「そうか、翔斗がカケルだったのか。私はプレイヤー名を考えるのが苦手で、そのまま苗字なんだよなぁ……」
「だと思った」
「今気づいたよな?」
「あはは。バレたか……」
彼とここまで話したのはいつぶりだろうか? 多分、中学一年以来だと思う。あれから大樹は陸上でどんどん実力を伸ばしていって、俺はあまり話しかけないでおこうと自分から離れていた。
確かに大樹はすごい。中学の時もそうだったが、高校では全女子生徒の注目の的。加えて大樹は自分のサインまで作るくらいファンサービスも抜かりなし。
「そうだ、翔斗。ケイからメール来なかったか?」
「来たけど。大樹も?」
「おうよ。今日夕方18時北高崎駅」
「ケイ……」
「どした? 翔斗?」
「いやなんでもない。早く学校行こう!」
そう俺が言うと大樹は荷物を持って、俺の後についてくる。その頃には7時40分を過ぎていて、駆け足で向かった。
「なあ、翔斗。翔斗はケイのことどう思ってるんだ? ケイったらわけのわからないこと言って、かつ最強なんだから、わけわからんくてさ」
「それは俺も同感だ。まずまずゲームで視覚聴覚が一時的に使えなくなるのは、ものすごく違和感がある」
俺は率直な感想を言う。
「そこなぁ。私は1、2回しか見てないが、翔斗が初めて見た時はどう思った?」
「なんか戦いづらそうなくらい足取りが悪かった。けど、あれでロゼッタヴィレッジのリーダーをワンパンだぞ? 規格外にも程があるって」
「たしかにな。私が勧めた巨大カブトムシも1発だった……」
お互い"紋章"という言葉を発さないように気をつけながら、お互いを追いかけ合う。大樹は走るのが遅い俺を気遣ってか、ゆっくりジョギングをする用の並走する。
やっぱり俺も大樹と同じくらい速く走れるようになりたい。そう思いながら、ホームルームに間に合わせた。
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