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兎と狼 第1部
第19話 カケル駆ける①
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「ケイ!! ダメだ……気を失ってる……」
「大丈夫なの?」
「さあな。まあ俺が無理させたってのもあるが……」
ケイが巨大カブトムシにラストアタックを決めたあと、崩れるように倒れた。半ば意識が朦朧としている様子だったが、そのまま気絶してしまい今に至る。
だけど、紋章の力ってここまで体力を消耗するのか……。だんだん怖くなってきた。なのにケイはこの生活を続けている。
でもそれが信じられないほどに過酷なことを知らずに、俺は許可を出してしまった。強制ログアウトしないのもおかしい。
すると、ケイの身体がピクりと動いた。
「そろそろお目覚めですかな?」
「わからん……」
俺だってケイには復帰して欲しい。それくらいしっかりした団長だから。俺は彼の右手を掴みゆっくり持ち上げる。ゲーム内なのでリアルのような熱は感じないが、少しだけ呼吸の音がした。
「そういえば、カケル様はまだこのゲームを始めたきっかけ、遊ぶ理由を言っていませんでしたな」
「理由を教えて、カケル!!」
「アリス……!?」
アリスのつぶらな瞳に、頭が真っ白になる。どうして彼女はここまで可愛いのだろうか? 理由はわからない。さっきから彼女のとんがった三角耳がぴょこぴょこ動いてる。
これはつまり本気で答えて欲しいアピールか? まだ理由もなにも決まってないんだけど……。
「まあ、ゆっくりでいいと思いますな……。たしかに気にはなりますが……」
「えーーー。わたしは知りたいです!!」
そう言われても……。俺はどうしようもできなくなった。どう言い訳するか? それしか思いつかない。すると……。
「うぅ……」
ケイが小さい声で唸りをあげて、目を少し開け始め……。
「うわっ!? ま、眩しい……」
という第一声とともに、両目を手で覆った。
「おはよ。ケイ。少しは休めたか?」
「う、うん……。なんか久しぶりにみんなの顔とカケル以外の声を聴いた気がしてるけど」
「気のせい気のせい……。そう思っておけばいい」
「そ、そうだよね……」
カブトムシはケイが発するはずのない口調で吠えた一撃だった。でも、ケイは怖かったかもしれない。もし相手が仲間だったら? そんな恐怖の中いつも戦ってる。
いくら至近距離攻撃しかできない俺でもできないことをやっている。俺はケイを支えたい。アーサーラウンダーのメンバーと一緒にいたい。
「俺がこのゲーム。この世界に来た理由だけど……。もしかしたら、みんなに会いたかったからかもしれない。俺。弟がいたんだ。でも、3年前に亡くなって……。寂しかったんだ。
それまで、俺一人で遊んでた。だけど、ケイたちに会って仲間をもっと意識しないとって。このゲームはデスゲームじゃないけど、誰もゲームオーバーさせたくない。俺も仲間がもっと欲しい。だから、もっと強くなりたい。団長のケイみたいに」
みんな真摯に聞いてくれた。俺の弟はがんだった。小児がん。抗がん剤髪は全て抜け落ち、ある程度落ち着くと家に帰ってくる。
そんな生活をずっと続けていた。彼の夢は陸上選手だった。俺はそれが理由で陸上を始めた。けれども、体育会系ではなかったため、どの種目も最下位。
先輩が何度も無理を言って退部を免れてきた。
******
『なら、今のうちに修行しておかないとだね』
『修行?』
『うん。後で僕の家にきてよ。普段僕がやってること、ゲームにも役立つと思うから』
『例えば?』
『まずは、一日40キロメートルのランニングでしょ。次に、基礎トレ……』
******
たしかにケイが言ってたこれらは陸上にも合っている。ゲームをしてないで毎日トレーニングしていれば少しは違った。
体力がない。できない。頑張れない。弟が支えだった俺はネガティブになっていた。ケイは俺よりも歳上だけど、弟を彷彿とさせた。
俺はケイを支えたい。支えられなかった弟の分まで。リアルでもバーチャルでも強くなりたい。そう思い始めた瞬間だった。
「大丈夫なの?」
「さあな。まあ俺が無理させたってのもあるが……」
ケイが巨大カブトムシにラストアタックを決めたあと、崩れるように倒れた。半ば意識が朦朧としている様子だったが、そのまま気絶してしまい今に至る。
だけど、紋章の力ってここまで体力を消耗するのか……。だんだん怖くなってきた。なのにケイはこの生活を続けている。
でもそれが信じられないほどに過酷なことを知らずに、俺は許可を出してしまった。強制ログアウトしないのもおかしい。
すると、ケイの身体がピクりと動いた。
「そろそろお目覚めですかな?」
「わからん……」
俺だってケイには復帰して欲しい。それくらいしっかりした団長だから。俺は彼の右手を掴みゆっくり持ち上げる。ゲーム内なのでリアルのような熱は感じないが、少しだけ呼吸の音がした。
「そういえば、カケル様はまだこのゲームを始めたきっかけ、遊ぶ理由を言っていませんでしたな」
「理由を教えて、カケル!!」
「アリス……!?」
アリスのつぶらな瞳に、頭が真っ白になる。どうして彼女はここまで可愛いのだろうか? 理由はわからない。さっきから彼女のとんがった三角耳がぴょこぴょこ動いてる。
これはつまり本気で答えて欲しいアピールか? まだ理由もなにも決まってないんだけど……。
「まあ、ゆっくりでいいと思いますな……。たしかに気にはなりますが……」
「えーーー。わたしは知りたいです!!」
そう言われても……。俺はどうしようもできなくなった。どう言い訳するか? それしか思いつかない。すると……。
「うぅ……」
ケイが小さい声で唸りをあげて、目を少し開け始め……。
「うわっ!? ま、眩しい……」
という第一声とともに、両目を手で覆った。
「おはよ。ケイ。少しは休めたか?」
「う、うん……。なんか久しぶりにみんなの顔とカケル以外の声を聴いた気がしてるけど」
「気のせい気のせい……。そう思っておけばいい」
「そ、そうだよね……」
カブトムシはケイが発するはずのない口調で吠えた一撃だった。でも、ケイは怖かったかもしれない。もし相手が仲間だったら? そんな恐怖の中いつも戦ってる。
いくら至近距離攻撃しかできない俺でもできないことをやっている。俺はケイを支えたい。アーサーラウンダーのメンバーと一緒にいたい。
「俺がこのゲーム。この世界に来た理由だけど……。もしかしたら、みんなに会いたかったからかもしれない。俺。弟がいたんだ。でも、3年前に亡くなって……。寂しかったんだ。
それまで、俺一人で遊んでた。だけど、ケイたちに会って仲間をもっと意識しないとって。このゲームはデスゲームじゃないけど、誰もゲームオーバーさせたくない。俺も仲間がもっと欲しい。だから、もっと強くなりたい。団長のケイみたいに」
みんな真摯に聞いてくれた。俺の弟はがんだった。小児がん。抗がん剤髪は全て抜け落ち、ある程度落ち着くと家に帰ってくる。
そんな生活をずっと続けていた。彼の夢は陸上選手だった。俺はそれが理由で陸上を始めた。けれども、体育会系ではなかったため、どの種目も最下位。
先輩が何度も無理を言って退部を免れてきた。
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『なら、今のうちに修行しておかないとだね』
『修行?』
『うん。後で僕の家にきてよ。普段僕がやってること、ゲームにも役立つと思うから』
『例えば?』
『まずは、一日40キロメートルのランニングでしょ。次に、基礎トレ……』
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たしかにケイが言ってたこれらは陸上にも合っている。ゲームをしてないで毎日トレーニングしていれば少しは違った。
体力がない。できない。頑張れない。弟が支えだった俺はネガティブになっていた。ケイは俺よりも歳上だけど、弟を彷彿とさせた。
俺はケイを支えたい。支えられなかった弟の分まで。リアルでもバーチャルでも強くなりたい。そう思い始めた瞬間だった。
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