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兎と狼 第1部
第4話 カケルとアリス
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――数分後
俺とアリスは集落の端っこで横に並んで座っていた。集落にはたくさんのテントが置いてある。どれも迷彩柄で、完全に森に溶け込ませていた。
AIにも警戒意識はあるらしい。隣にいるアリスも時どきビクビクと震えていた。恥ずかしくて緊張しているのか。それとも俺が怖いのか?
それは彼女にしかわからない。でも、彼女は深く深呼吸すると、にこやかな表情で語りかけてきた。
「カケル!」
「何? アリス」
今ではお互い緊張が解け、俺も彼女を呼び捨てにするまでになった。
異人種がこうして交流するのはあまりない。なぜかアリスも俺の事を気に入ったようだ。
俺は気にしてないが、アリスは最初驚いただろう。俺が彼女を好きになってしまったのだから仕方がない。
「カケル!」
「だからなんだよ……」
「人参食べる?」
「俺割と肉食派なんだが……」
「でも兎なんでしょ?」
「それのなにが悪い?」
このAIは返答が上手い。テンプレしか話さないやつよりもマシに感じる。だけど、どうやら、相手はだんだん俺に似ていくらしい。
アリスがおサボりマンの俺みたいになったらどうしよう。だけど、咳やくしゃみと無縁の世界にきたけど、バトルと言えるバトルをしていない。
「じゃあ、わたしと行ってくる?」
「いいのか?」
「もっちろん。わたしの魔法はホワイトゴブリン界一位なんだから」
彼女はなんかわからないけどやる気満々だ。俺も一緒に参戦しよう。ここはデートみたいにして、バトル中心で距離を縮めて……。
その後俺がアリスを助けて。キュン展開にさせて、もっと距離を縮めて。とにかくゲーム世界だけでいいから、恋人関係まで繋げたい。
「カケル。変なこと考えてるでしょ」
「い、いや、考えてないけど……」
「絶対考えてた。ぜーーーったい考えてました!」
「考えてないって……!」
どういうわけかこのAIには誤魔化しが効かないようだ。俺は考える。どういいわけしようか考える。こういう時はどうすればいいんだっけ?
「月が綺麗だな……」
「あーーー。気を逸らした!!!!」
「すまん。考えてたのは本当だ。君を一生俺の彼女にしたい」
「え? そんな些細なことだったの?」
「些細?」
「うん」
こんなんがアリスにとって些細なのかよ……。俺の思考バグってるわ。最初から言えば良かったのに……。
それはさておき、アリスは一人森の奥へと消えていった。俺は急いで彼女を追いかける。兎アバターは走るのも速い。
視界もよく。駆け抜ける感覚が非常に気持ちいい。もしかしたら結果オーライだったかもしれない。俺はアリスを探す。
すると、どこからか焦げた臭いが鼻を突いた。近くで火事が起こっているのか? 俺はその臭いがする方へ向かう。
木が燃えている。誰がやったのかは知る由もない。これは自然破壊だ、ゴブリンの森を脅かす災害だ。いや人災。亜人災?
俺はとにかく走る。高い木は兎にしかできない異常なまでの跳躍力で飛び越え、上空からもアリスを探す。
まもなくして、シダ植物が見えてきた。ここは古代林なのだろうか? 森と言ってもたくさん種類がある。
その中でも、いかにも恐竜時代を思わせる多くのシダ植物が生い茂る古代林。ゴブリンの森は古代林にあったようだ。
相変わらず俺は気づくのが遅い。
「カーーーケーールーーー!!」
「アリス!?」
アリスの声がする。俺は声のした方へと近づいていく。そこにはキラービーに襲われるアリスの姿があった。
敵キャラは虫系統らしい。残念ながら俺は虫が大の苦手で、ゴキブリでさえ腰を抜かしてしまうほど。
だけど、今は違う。状況が違う。俺の大好きなアリスをキラービーが殺そうとしている。俺は意を決してキラービーを倒すことにした。
両手が震える。リアルな意味で心臓がバクバク言ってる。でも、そういうのは無理やり押し込んでしまおう。ポジティブシンキングで行った方がいい。
「ラビットフィスト! 最大出力!」
俺はアリスに一番近いキラービーをストレートでぶち抜く。『グギャ』とちっちゃい声に少し悲しくなったが、アリスを襲っている敵はあと10匹。
仲間に助けを呼びたいが、それじゃあかっこいい所を見せられない。
「右! 左! 右!」
できるだけ一発で。そして、何とかアリスの解放に成功すると、俺は彼女の能力を見ることにする。本当に俺にふさわしいか確認するためだ。
「アリス大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ」
「じゃああとは任せた」
「了解。サーマルエクスプロージョン!」
アリスの詠唱で空一帯が真っ赤に染まる。これは火属性魔法か? このゲームにも魔法の要素があるのはありがたい。
とてつもない勢いで収縮する空間。その内側に熱を持ったなにかが見える。それはやがて膨張し、轟音とともに大爆発した。
最初からこうしとけばいいのに。そんなことは置いといて。こうして俺とアリスの第1回バトルデートが終わった。
「さて帰ろっか」
「ううん。帰らない」
「なんで?」
「あのね。あのキラービーが作る蜂蜜が欲しいの」
「蜂蜜?」
「正確には巣蜜と言って、蜂の巣を切り取った蜜の部分が欲しい。あれ、パンにつけると美味しいんだよね」
そんなんでキラービーをエンカウントしてたのか。俺は理解が追いつかなかった。現実世界では蜂蜜にした状態の容器を買うのが普通だ。
巣蜜なんて蜂駆除隊が食べるくらいだろう。リアルでも探すのが苦労しそうだけど。そんなに食べたいなら俺も行く。
ところで蜂はお尻の動きで場所を伝えるみたいだけど、その動きがアリスにとっては可愛いらしい。
アリスは迷うことなく巣があるという場所へと歩を進めた。俺もあとを追いかける。古代林にも蜂が暮らしてる。
ますますゲームの時代の世界観がわからなくなってきた。なんせ、集落の名前がプルーンだ。そういえば最近プルーン食べてない。
「カケル。着いたよ」
「ありがとう……って、巣がデカすぎるんだけど!?」
俺とアリスは集落の端っこで横に並んで座っていた。集落にはたくさんのテントが置いてある。どれも迷彩柄で、完全に森に溶け込ませていた。
AIにも警戒意識はあるらしい。隣にいるアリスも時どきビクビクと震えていた。恥ずかしくて緊張しているのか。それとも俺が怖いのか?
それは彼女にしかわからない。でも、彼女は深く深呼吸すると、にこやかな表情で語りかけてきた。
「カケル!」
「何? アリス」
今ではお互い緊張が解け、俺も彼女を呼び捨てにするまでになった。
異人種がこうして交流するのはあまりない。なぜかアリスも俺の事を気に入ったようだ。
俺は気にしてないが、アリスは最初驚いただろう。俺が彼女を好きになってしまったのだから仕方がない。
「カケル!」
「だからなんだよ……」
「人参食べる?」
「俺割と肉食派なんだが……」
「でも兎なんでしょ?」
「それのなにが悪い?」
このAIは返答が上手い。テンプレしか話さないやつよりもマシに感じる。だけど、どうやら、相手はだんだん俺に似ていくらしい。
アリスがおサボりマンの俺みたいになったらどうしよう。だけど、咳やくしゃみと無縁の世界にきたけど、バトルと言えるバトルをしていない。
「じゃあ、わたしと行ってくる?」
「いいのか?」
「もっちろん。わたしの魔法はホワイトゴブリン界一位なんだから」
彼女はなんかわからないけどやる気満々だ。俺も一緒に参戦しよう。ここはデートみたいにして、バトル中心で距離を縮めて……。
その後俺がアリスを助けて。キュン展開にさせて、もっと距離を縮めて。とにかくゲーム世界だけでいいから、恋人関係まで繋げたい。
「カケル。変なこと考えてるでしょ」
「い、いや、考えてないけど……」
「絶対考えてた。ぜーーーったい考えてました!」
「考えてないって……!」
どういうわけかこのAIには誤魔化しが効かないようだ。俺は考える。どういいわけしようか考える。こういう時はどうすればいいんだっけ?
「月が綺麗だな……」
「あーーー。気を逸らした!!!!」
「すまん。考えてたのは本当だ。君を一生俺の彼女にしたい」
「え? そんな些細なことだったの?」
「些細?」
「うん」
こんなんがアリスにとって些細なのかよ……。俺の思考バグってるわ。最初から言えば良かったのに……。
それはさておき、アリスは一人森の奥へと消えていった。俺は急いで彼女を追いかける。兎アバターは走るのも速い。
視界もよく。駆け抜ける感覚が非常に気持ちいい。もしかしたら結果オーライだったかもしれない。俺はアリスを探す。
すると、どこからか焦げた臭いが鼻を突いた。近くで火事が起こっているのか? 俺はその臭いがする方へ向かう。
木が燃えている。誰がやったのかは知る由もない。これは自然破壊だ、ゴブリンの森を脅かす災害だ。いや人災。亜人災?
俺はとにかく走る。高い木は兎にしかできない異常なまでの跳躍力で飛び越え、上空からもアリスを探す。
まもなくして、シダ植物が見えてきた。ここは古代林なのだろうか? 森と言ってもたくさん種類がある。
その中でも、いかにも恐竜時代を思わせる多くのシダ植物が生い茂る古代林。ゴブリンの森は古代林にあったようだ。
相変わらず俺は気づくのが遅い。
「カーーーケーールーーー!!」
「アリス!?」
アリスの声がする。俺は声のした方へと近づいていく。そこにはキラービーに襲われるアリスの姿があった。
敵キャラは虫系統らしい。残念ながら俺は虫が大の苦手で、ゴキブリでさえ腰を抜かしてしまうほど。
だけど、今は違う。状況が違う。俺の大好きなアリスをキラービーが殺そうとしている。俺は意を決してキラービーを倒すことにした。
両手が震える。リアルな意味で心臓がバクバク言ってる。でも、そういうのは無理やり押し込んでしまおう。ポジティブシンキングで行った方がいい。
「ラビットフィスト! 最大出力!」
俺はアリスに一番近いキラービーをストレートでぶち抜く。『グギャ』とちっちゃい声に少し悲しくなったが、アリスを襲っている敵はあと10匹。
仲間に助けを呼びたいが、それじゃあかっこいい所を見せられない。
「右! 左! 右!」
できるだけ一発で。そして、何とかアリスの解放に成功すると、俺は彼女の能力を見ることにする。本当に俺にふさわしいか確認するためだ。
「アリス大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ」
「じゃああとは任せた」
「了解。サーマルエクスプロージョン!」
アリスの詠唱で空一帯が真っ赤に染まる。これは火属性魔法か? このゲームにも魔法の要素があるのはありがたい。
とてつもない勢いで収縮する空間。その内側に熱を持ったなにかが見える。それはやがて膨張し、轟音とともに大爆発した。
最初からこうしとけばいいのに。そんなことは置いといて。こうして俺とアリスの第1回バトルデートが終わった。
「さて帰ろっか」
「ううん。帰らない」
「なんで?」
「あのね。あのキラービーが作る蜂蜜が欲しいの」
「蜂蜜?」
「正確には巣蜜と言って、蜂の巣を切り取った蜜の部分が欲しい。あれ、パンにつけると美味しいんだよね」
そんなんでキラービーをエンカウントしてたのか。俺は理解が追いつかなかった。現実世界では蜂蜜にした状態の容器を買うのが普通だ。
巣蜜なんて蜂駆除隊が食べるくらいだろう。リアルでも探すのが苦労しそうだけど。そんなに食べたいなら俺も行く。
ところで蜂はお尻の動きで場所を伝えるみたいだけど、その動きがアリスにとっては可愛いらしい。
アリスは迷うことなく巣があるという場所へと歩を進めた。俺もあとを追いかける。古代林にも蜂が暮らしてる。
ますますゲームの時代の世界観がわからなくなってきた。なんせ、集落の名前がプルーンだ。そういえば最近プルーン食べてない。
「カケル。着いたよ」
「ありがとう……って、巣がデカすぎるんだけど!?」
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