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転
17話
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「……んぐっ、あが……おぇ」
僕は血を吐きながらも、何とか意識を保ちながら体を起こして視線を自分に近寄ってくる瑞稀の方へと視線を送る。
「……だい、じょう……ぶ、だから……離れてて」
「駄目だよ!? もう、もう! お兄ちゃんってば死んじゃうよぉ!」
僕に涙ながらに縋ってくる瑞稀を遠ざけようと僕はするのだが、それに対して彼女は抵抗してくる。
『にん、げぇぇん』
そんなこんなことをしている間にも人鬼の存在が僕の方へと近づいてくる。
「……はぁ、はぁ、はぁ」
それに対して僕は瑞稀をまもるため、何とか体を起こして戦おうとするのだが。
「もう、良いの……」
だが、それを瑞稀が強引に止めてくる。
僕の体を上から押さえつけてくる瑞稀は首を振りながら、ただそのまま抑える。
「もう、もう良いんだよ……お兄ちゃん。お兄ちゃんは良く頑張ってくれたよ」
ぽろぽろ
「ねぇ、お兄ちゃん……私、さぁ。自分が幸せになれるだなんて思ってなかったの。ずっと、二人きり……冷たくて、悲しい世界に閉じ込められて、
「……まぁ、だぁ」
悲壮的な笑みを見せる瑞稀に対して僕は首を振って否定する
「まだ、したい……ことがぁ、もっと、もっと、この世界には良いことがあるはずなんだ。美味しいものを食べて、たくさんの友だちを作って、好きな人と恋愛し、結婚して、子供を作って、孫まで出来て、それで……それで、多くの人に看取られて。ま、だぁ……まだだよ、僕は、瑞稀のウェディングドレスを着ている姿が見るのが夢、なんだ」
まだ……まだなんだ。
もっと、もっと多くのことがあるはずで……それで、もっと多くのものが見えてきたのだ。
なのに……こんな、こんなところで止まらない。
「まだ、まだ……まだぁ」
僕は瑞稀の瞳を己の手で拭いながら、何とか体を動かそうと身をよじらせる。
まだだ、まだ終わらない……手はなくとも、もっと。すべてを燃やせ、僕は名家の生まれで、多くを見てきたじゃないか。
すべてを燃やせ、すべてを使い果てせ、ここで、生き残るのだ……ッ!
「……お兄ちゃん」
そんな僕の声に、答えるかのように、瑞稀は言葉を漏らしながら彼女の涙を拭っていた僕の手を彼女は両手で包み込む。
「そう、だよね」
そして、瑞稀は言葉を続ける。
「妾はここで終わらぬ」
だが、続く言葉は普段の瑞稀のものよりもずっと低く。
「……ッ!? み、瑞稀?」
僕は見ていたはずの瑞稀の相貌は、己の手で拭っていたはずの瞳は、それらすべてがなくなり、その代わりとして瑞稀の顔は何処までも深い黒に覆われていた。
「……嫌だ。ふざけるな……お前が、お前、お前如きが───」
瑞稀の相貌の変貌。
自分の妹がいなくなってしまったかのような、そんな感覚を前に僕はゾッとしたものを抱く。
「ど、どうしたの……?」
僕はただただ、困惑の声を上げることしか出来なかった。
「この妾の邪魔をすると言うのか?偉くなったものだなぁ、凡夫」
そんな中でも、瑞稀の口から漏れ出す言葉は決して妹のものとは思えなくて。
「みず……ぁぁぁぁぁああああああああああ!!!」
己が抱いた違和感、ゾッとするような喪失感。
それに対して僕が何か反応するよりも前に僕の体に激痛が走り、自分の中にある陽力がどんどんと吸われて行っていることを明瞭に感じる。
「陰陽秘儀、浄化ノ神楽舞」
そして、それに伴うようにして自分の側に立っていた瑞稀から比類なく上昇していく高い温度を感じるようになると共に僕の視界は突如として強い光が感じる。
「……な、にがぁ?」
どこまでも広がっていた光の世界。
それが開けたときには、僕たちの前に立っていたはずの人鬼はそこにおらず、その代わりに少しばかり透けている狩衣を着ている男が存在していた。
「───」
「……えっ?」
自分の目の前にいる突然現れた男が何か、口を開いたような気がしていたのだが、それを再び聞き返すよりも前に、今度は突然消えていなくなってしまう。
「すぅ……」
「がふっ!?」
そして、そんな男の言葉が何だったのかと一人で頭を悩まし始める。
自分の頭へと落ちてきた瑞稀の頭の直撃を受け、既に限界を迎えていた僕はそのまま気絶してしまった。
『今は、良い』
次に目覚めるとき。
そこで、僕も瑞稀も己よりも遥かに強かった人鬼をどうやって倒したか、その記憶を取り戻すことはなかったのだった。
僕は血を吐きながらも、何とか意識を保ちながら体を起こして視線を自分に近寄ってくる瑞稀の方へと視線を送る。
「……だい、じょう……ぶ、だから……離れてて」
「駄目だよ!? もう、もう! お兄ちゃんってば死んじゃうよぉ!」
僕に涙ながらに縋ってくる瑞稀を遠ざけようと僕はするのだが、それに対して彼女は抵抗してくる。
『にん、げぇぇん』
そんなこんなことをしている間にも人鬼の存在が僕の方へと近づいてくる。
「……はぁ、はぁ、はぁ」
それに対して僕は瑞稀をまもるため、何とか体を起こして戦おうとするのだが。
「もう、良いの……」
だが、それを瑞稀が強引に止めてくる。
僕の体を上から押さえつけてくる瑞稀は首を振りながら、ただそのまま抑える。
「もう、もう良いんだよ……お兄ちゃん。お兄ちゃんは良く頑張ってくれたよ」
ぽろぽろ
「ねぇ、お兄ちゃん……私、さぁ。自分が幸せになれるだなんて思ってなかったの。ずっと、二人きり……冷たくて、悲しい世界に閉じ込められて、
「……まぁ、だぁ」
悲壮的な笑みを見せる瑞稀に対して僕は首を振って否定する
「まだ、したい……ことがぁ、もっと、もっと、この世界には良いことがあるはずなんだ。美味しいものを食べて、たくさんの友だちを作って、好きな人と恋愛し、結婚して、子供を作って、孫まで出来て、それで……それで、多くの人に看取られて。ま、だぁ……まだだよ、僕は、瑞稀のウェディングドレスを着ている姿が見るのが夢、なんだ」
まだ……まだなんだ。
もっと、もっと多くのことがあるはずで……それで、もっと多くのものが見えてきたのだ。
なのに……こんな、こんなところで止まらない。
「まだ、まだ……まだぁ」
僕は瑞稀の瞳を己の手で拭いながら、何とか体を動かそうと身をよじらせる。
まだだ、まだ終わらない……手はなくとも、もっと。すべてを燃やせ、僕は名家の生まれで、多くを見てきたじゃないか。
すべてを燃やせ、すべてを使い果てせ、ここで、生き残るのだ……ッ!
「……お兄ちゃん」
そんな僕の声に、答えるかのように、瑞稀は言葉を漏らしながら彼女の涙を拭っていた僕の手を彼女は両手で包み込む。
「そう、だよね」
そして、瑞稀は言葉を続ける。
「妾はここで終わらぬ」
だが、続く言葉は普段の瑞稀のものよりもずっと低く。
「……ッ!? み、瑞稀?」
僕は見ていたはずの瑞稀の相貌は、己の手で拭っていたはずの瞳は、それらすべてがなくなり、その代わりとして瑞稀の顔は何処までも深い黒に覆われていた。
「……嫌だ。ふざけるな……お前が、お前、お前如きが───」
瑞稀の相貌の変貌。
自分の妹がいなくなってしまったかのような、そんな感覚を前に僕はゾッとしたものを抱く。
「ど、どうしたの……?」
僕はただただ、困惑の声を上げることしか出来なかった。
「この妾の邪魔をすると言うのか?偉くなったものだなぁ、凡夫」
そんな中でも、瑞稀の口から漏れ出す言葉は決して妹のものとは思えなくて。
「みず……ぁぁぁぁぁああああああああああ!!!」
己が抱いた違和感、ゾッとするような喪失感。
それに対して僕が何か反応するよりも前に僕の体に激痛が走り、自分の中にある陽力がどんどんと吸われて行っていることを明瞭に感じる。
「陰陽秘儀、浄化ノ神楽舞」
そして、それに伴うようにして自分の側に立っていた瑞稀から比類なく上昇していく高い温度を感じるようになると共に僕の視界は突如として強い光が感じる。
「……な、にがぁ?」
どこまでも広がっていた光の世界。
それが開けたときには、僕たちの前に立っていたはずの人鬼はそこにおらず、その代わりに少しばかり透けている狩衣を着ている男が存在していた。
「───」
「……えっ?」
自分の目の前にいる突然現れた男が何か、口を開いたような気がしていたのだが、それを再び聞き返すよりも前に、今度は突然消えていなくなってしまう。
「すぅ……」
「がふっ!?」
そして、そんな男の言葉が何だったのかと一人で頭を悩まし始める。
自分の頭へと落ちてきた瑞稀の頭の直撃を受け、既に限界を迎えていた僕はそのまま気絶してしまった。
『今は、良い』
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そこで、僕も瑞稀も己よりも遥かに強かった人鬼をどうやって倒したか、その記憶を取り戻すことはなかったのだった。
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