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第3章 ダークファンタジー編
第48話 渡されたノート
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◇◇◇明理目線◇◇◇
「あの時私は、〝死にたくない〟って書いてた……」
「ウェンドラのノートにっすか?」
「うん」
「もしかしたら、〝死にたくない〟が〝永遠に生き続けたい〟として、発動したかもっすね……」
「それで、私は不死身になった……」
あの時のことを完全に忘れていた。記憶が蘇った時の罪悪感。どうして、あんなことを書いてしまったのだろうか?
当時の私はきっと、子供社会に着いて行けていなかった。何度もいじめられて、罵声を浴びせられ、自分だけそこから逃げていた。
もっと早く。先生に伝えるべきだった。強気になって自分の弱い部分を、無意識に隠蔽していた。本当の私は、どんな人よりも弱い。
ノートには、〝負けたくない〟とも書いた。そして、ガデルのノートに私が負ける展開だけを、自分の文字で綴った。
望みの強さで、上書きできないのだとすれば。負け知らずのまま。ガデルのノートに書いた以降も、私は常に勝ち続けた。
通帳に溢れた大金。新規で通帳を取得しても、その額は収まりきらない。それでも。お金は増え続けた。
借金に困った人にも分け与えた。資金に困った学校や企業にも渡した。赤十字等の支援団体にも沢山募金した。
なのに、通帳の数字は0にならない。むしろ無限に膨れ上がるばかり。お金の使い道や金銭感覚も、気にすることなく浪費する。
ゲームには課金しない。その代わり運営に直接行って、開発資金を渡した。それも、多額のお金を……。けれども、減る気配がない。
お金があるのは嬉しいこと。喜ぶこと。ただ、沢山ありすぎるのは私にとってストレスだった。そしてついに、課金をしてしまった。
――全てはアレンのために……。
「エレネス・ランスを強化した時のこと……。っすか?」
「うん……。あの時からかな? お金の使い方が変わったの」
「なんか……。ほんとすんません……。明理が大金持ちって聞いたから……。マジめんごっす……」
「いいの。それでも」
「ふぇ?」
「だって、課金すれば運営が喜ぶでしょ?」
「た、たしかにそうっすけど……」
「ゲームの開発費も、私が払っていたし……。今でも半導体不足だから、端末の生産も遅れてる……。ゲーム機も、パソコンと比べれば寿命が短いからね……」
小学校の時に流行っていた、折りたたみ式のゲーム機。上と下に小さな画面があり、折りたたみ式の長所である、画面の割れにくさがあった。
そのゲーム機は、何代にも渡って進化をしたが、スマホの普及や起動の手間を省くためか、折りたたみ式は廃れていった。
折りたたみ式の欠点は、開け閉め用の留め具が壊れると、何もできなくなること。そして、長方形だからか、置物扱いになってしまうこと。
カセットタイプのソフトも故障しやすくて、無くしてしまうこともしばしば。ただ、ソフトの種類は豊富だった。
その後は、据え置き式が主流になって、テレビ番組よりも、ゲーム機の一部として大画面を使うように。形状も画面とボタンだけ。
周辺機器もたくさんあって、置き場に困るものだった。そして、フルダイブが普及した今。カセット型とパソコンディスク型の、VRゲームソフト論争が起きてるらしい。
「他にどんなゲーム機があったんすか?」
「んーとね……。それより前は世代じゃないから、説明は難しいかも。陸ならわかるかな?」
「お兄さんっすよね?」
「そうだよ」
しかし、なぜ私は〝不死身〟になってしまったのだろう? アレンも推測で教えてくれたけど。〈レコード・ノート〉の効果を詳しく知らない。
「ウェンドラに聞いた方がいいのかな……」
「明理? 聞くって……」
「さらに記憶を辿ってみたんだけど……」
「……。本当は、もう生きるのがつらいんじゃないっすか? どんな怪我でも、どんな障害でも……。事故や難病にかかっても、生き続けるから……」
「アレン……」
アレンが言うように、今の身体がストレスだったとしたら。〝嘘をつかない自分〟に、嘘をついていたかもしれない。
殻に籠っていたのは、アレンじゃなくて私自身。風魔が私に『らしくない』と言ったのは、何もかもを嘘で固めていたから。
「本当の明理は、今とは違うんじゃないっすかね……。もっと純粋で。無理なら無理って素直に言えるような。自分に対しても、相手に対しても正直だと思うんすよ」
「そんな気がしてきた。子供心を完全に失ってたかもね……。もう無理するのはやめるよ。ありがと、アレン」
「俺は普通のこと言っただけっすよ」
「その普通を忘れていた私だけどね……。ふふっ
」
「わ、笑い事じゃないっすよ‼ おお俺だって……‼」
「はい。アレン一旦深呼吸ね」
「すんません……。あ、これ……、ウェンドラさんが俺にくれたんすけど……」
「ウェンドラがアレンに?」
アレンは服の内側からノートを取り出す。それは、まだ真新しい〈レコード・ノート〉だった。中には何も書いていない白紙の本。
「あとペンも。せっかく悩みと解決法がわかったんすから。何か書いて欲しいっす。明理の率直な気持ちを」
「アレンのノートだよね?」
「違うっすよ」
「え?」
「このノートは、俺と明理。二人だけの特別なノートっす。挙式のことウェンドラに話したら、プレゼントしてもらっちゃったんすよね……」
「二人だけの……ノート……」
私はアレンからペンを受け取り、最初のページを開く。筆を走らせて、言葉を残す。
――アレンと一緒に生き続けていたい。ずっと仲良く暮らしたい。
――私の身体は○○○○○でいいから。
「あの時私は、〝死にたくない〟って書いてた……」
「ウェンドラのノートにっすか?」
「うん」
「もしかしたら、〝死にたくない〟が〝永遠に生き続けたい〟として、発動したかもっすね……」
「それで、私は不死身になった……」
あの時のことを完全に忘れていた。記憶が蘇った時の罪悪感。どうして、あんなことを書いてしまったのだろうか?
当時の私はきっと、子供社会に着いて行けていなかった。何度もいじめられて、罵声を浴びせられ、自分だけそこから逃げていた。
もっと早く。先生に伝えるべきだった。強気になって自分の弱い部分を、無意識に隠蔽していた。本当の私は、どんな人よりも弱い。
ノートには、〝負けたくない〟とも書いた。そして、ガデルのノートに私が負ける展開だけを、自分の文字で綴った。
望みの強さで、上書きできないのだとすれば。負け知らずのまま。ガデルのノートに書いた以降も、私は常に勝ち続けた。
通帳に溢れた大金。新規で通帳を取得しても、その額は収まりきらない。それでも。お金は増え続けた。
借金に困った人にも分け与えた。資金に困った学校や企業にも渡した。赤十字等の支援団体にも沢山募金した。
なのに、通帳の数字は0にならない。むしろ無限に膨れ上がるばかり。お金の使い道や金銭感覚も、気にすることなく浪費する。
ゲームには課金しない。その代わり運営に直接行って、開発資金を渡した。それも、多額のお金を……。けれども、減る気配がない。
お金があるのは嬉しいこと。喜ぶこと。ただ、沢山ありすぎるのは私にとってストレスだった。そしてついに、課金をしてしまった。
――全てはアレンのために……。
「エレネス・ランスを強化した時のこと……。っすか?」
「うん……。あの時からかな? お金の使い方が変わったの」
「なんか……。ほんとすんません……。明理が大金持ちって聞いたから……。マジめんごっす……」
「いいの。それでも」
「ふぇ?」
「だって、課金すれば運営が喜ぶでしょ?」
「た、たしかにそうっすけど……」
「ゲームの開発費も、私が払っていたし……。今でも半導体不足だから、端末の生産も遅れてる……。ゲーム機も、パソコンと比べれば寿命が短いからね……」
小学校の時に流行っていた、折りたたみ式のゲーム機。上と下に小さな画面があり、折りたたみ式の長所である、画面の割れにくさがあった。
そのゲーム機は、何代にも渡って進化をしたが、スマホの普及や起動の手間を省くためか、折りたたみ式は廃れていった。
折りたたみ式の欠点は、開け閉め用の留め具が壊れると、何もできなくなること。そして、長方形だからか、置物扱いになってしまうこと。
カセットタイプのソフトも故障しやすくて、無くしてしまうこともしばしば。ただ、ソフトの種類は豊富だった。
その後は、据え置き式が主流になって、テレビ番組よりも、ゲーム機の一部として大画面を使うように。形状も画面とボタンだけ。
周辺機器もたくさんあって、置き場に困るものだった。そして、フルダイブが普及した今。カセット型とパソコンディスク型の、VRゲームソフト論争が起きてるらしい。
「他にどんなゲーム機があったんすか?」
「んーとね……。それより前は世代じゃないから、説明は難しいかも。陸ならわかるかな?」
「お兄さんっすよね?」
「そうだよ」
しかし、なぜ私は〝不死身〟になってしまったのだろう? アレンも推測で教えてくれたけど。〈レコード・ノート〉の効果を詳しく知らない。
「ウェンドラに聞いた方がいいのかな……」
「明理? 聞くって……」
「さらに記憶を辿ってみたんだけど……」
「……。本当は、もう生きるのがつらいんじゃないっすか? どんな怪我でも、どんな障害でも……。事故や難病にかかっても、生き続けるから……」
「アレン……」
アレンが言うように、今の身体がストレスだったとしたら。〝嘘をつかない自分〟に、嘘をついていたかもしれない。
殻に籠っていたのは、アレンじゃなくて私自身。風魔が私に『らしくない』と言ったのは、何もかもを嘘で固めていたから。
「本当の明理は、今とは違うんじゃないっすかね……。もっと純粋で。無理なら無理って素直に言えるような。自分に対しても、相手に対しても正直だと思うんすよ」
「そんな気がしてきた。子供心を完全に失ってたかもね……。もう無理するのはやめるよ。ありがと、アレン」
「俺は普通のこと言っただけっすよ」
「その普通を忘れていた私だけどね……。ふふっ
」
「わ、笑い事じゃないっすよ‼ おお俺だって……‼」
「はい。アレン一旦深呼吸ね」
「すんません……。あ、これ……、ウェンドラさんが俺にくれたんすけど……」
「ウェンドラがアレンに?」
アレンは服の内側からノートを取り出す。それは、まだ真新しい〈レコード・ノート〉だった。中には何も書いていない白紙の本。
「あとペンも。せっかく悩みと解決法がわかったんすから。何か書いて欲しいっす。明理の率直な気持ちを」
「アレンのノートだよね?」
「違うっすよ」
「え?」
「このノートは、俺と明理。二人だけの特別なノートっす。挙式のことウェンドラに話したら、プレゼントしてもらっちゃったんすよね……」
「二人だけの……ノート……」
私はアレンからペンを受け取り、最初のページを開く。筆を走らせて、言葉を残す。
――アレンと一緒に生き続けていたい。ずっと仲良く暮らしたい。
――私の身体は○○○○○でいいから。
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