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第3章 ダークファンタジー編
第35話 破壊の始まり
しおりを挟む――『で、どうすんだ?』
「負荷で疲れたりとかはあるんすか?」
――『負荷の威力にもよるけど、初めて切り札を使った時は死にかけたな……』
「マジっすか……」
――『今はそこまでいかないが……』
「な、ならお願いしやす‼ 出力は……」
――『全部最大でもいいぜ‼』
ガチで⁉ それにめちゃくちゃ元気じゃん‼ ってか、全部最大出力って本気で言ってるの? 俺でもやったことないのに……。
過去にルグア。俺の毒異常を最大出力で使った時、切り札と同じ威力の負荷だったって。言ってなかったっけ?
それなのに、全部最大出力って何百倍以上の電撃来るんじゃね? それほんとにやっていいの? いいなら一括術式作ってやるけど……。
――『問題ない。処理速度は一番遅い状態だけどな。時には思考速度も省エネしないとさ』
「省エネって。リアグリフで復興作業中なんすよね? それで寝たりとかしたら……」
――『だから。気にすんなって』
「……」
どう反応すればいいのかわからない。ルグアはきっと、どこかで痩せ我慢してる。俺のためを思って。こんな彼女は見たことがない。あっても機会が少ない。
彼女はエルフィレンナで、左胸と脳に爆弾を埋め込んでいる。それも常時爆発するという、地獄のような爆弾を……。
無意識に彼女を敬遠していたのか? こんな彼女を好きになって、本当に良かったのか? 彼女のどこが良いのかを、遥か遠くに消えていた……。
――明理をこの世から排除しろ……。
「ッ⁉」
――彼女は世界の理に近づきすぎている。いずれ、世界は負の連鎖を辿る……。
「だ、誰っすか⁉ 誰が俺に……」
――此処では分が悪い。我が世界に誘おう……。
「だから誰な……⁉」
***異空間 終焉の舞台***
「ここは……」
――目覚めたか。少年よ……。我は破壊を司り世界を見物する精霊。ハデス。
「ハデス⁉ 破壊って……」
――そう。少年に特異点を授けたのも、この我である。少年ならば、黒く塗りつぶす道を壊してくれる。我は其れを望む者。
「黒く塗りつぶすって。一体この世界は、どうなってるんすか? アルヴェリアの人はみんな優しいし。ルグアも優しいし、頼りになるし。みんなの身代わり……ッ」
――彼女は全てを変える。世界の理も、人々の暮らしも。環境も全て。さすればアルヴェリアの価値が下がってしまう。
「え?」
――彼女を殺せ。殺せずとも世界を塗り替えろ。世界を破壊しろ……。全てを滅せよ……。少年の手で血の海に染めよ……。
「……ッ⁉」
――ピシャーーーン……。
***シュトラウト***
――『アレン‼ アレン聞こえるか?』
「……」
ハデスの言葉。〝明理〟を、〝ルグア〟を〝殺せ〟……。そんなことはしたくない。なのに、身体が言うことを聞かない。
「……」
――『おい‼ アレン聞いてるか? 返事くらいしてくれ‼』
何もできない。見えるもの全てが、漆黒へと変化していく。オーラも何も見えない。真っ暗闇に溶け込んでいく……。
俺は何を考えているのだろうか? その答えは、一向に出てこない。まるで何も考えていないかのように……。
ハデスの言葉は、心の器をも穿つ。呪いを破壊し、新たな呪いをかけられたのか……。じわりと精神を侵食してくる。
――『アレン‼ 返事してくれアレン‼』
「……」
喉を振るわせようとしても、出口の手前で止まる。声が出ない。本当に言いたい言葉を拒む。発言を拒否しているのか?
口角を上げたくても、顔のパーツがビクともしない。表情を無くしたマリオネット。俺は罠に嵌められたのか……。
感じるものを破壊していく。脳裏には燃ゆる街。黒煙を立ち上らせる平原と家屋。こんな世界を、俺は望んでいない。
しかし、身体はハデスの囁きに従う。何も聞こえない。けれども、ハデスは見えぬ場所で指示を出す。操り人形になる俺。
逆らうことすら許されない。拒絶したくても切り離せない。互いの魂が共鳴している。一つになっていく。
俺が俺では無くなる。忘却炉に投げ捨てられ、灰となって失われていくもの。取り返すことも、生み出すことも虚無へと放り込まれる。
手にしたものを、無かったことにしていく。思い出も消えている。楽しみも喜びも、数多な正の感情を抹消していく。
残る負の思考。白い笑みも消されて、心の表舞台に出たのは、黒く忌々しい微笑。俺ができるのは、黙視のみ。行動には干渉できない。
――『アレン‼ 答えてくれよ‼ 私の声に応えてくれよアレン‼』
「……」
希望の言葉を持たない魔王。絶望を敬遠する女神。相反する俺とルグア。俺は常闇の孤独者。周囲で笑う声は、貶されの交響曲。いや、交狂曲だ。
俺には仲間がいない。彼女の名前も黒き炎で消し炭と化す。嘆き苦しむ顔は、のっぺらぼうの群れ。喚く悲鳴もうるさい。
何もかもが耳障り。光を飲み込むハデス。この世を破壊する。破壊することが、今の俺にできること。
生ける者は排除する。黒き炎は瞬く間に燃え広がり、日差しの雨を妨げる。これ以上明るみの世界を見たくない。
ハデスの囁きに終わりなし。従えば従うほど、世界は破滅の道を辿る。壊せば壊すほど、ハデスが笑う。笑い声はそれだけ充分だ。
今の俺がすべきこと。煩わしい人を微塵も残さず破壊する。俺の特異点は……。
〝世界破壊〟なのだから……。
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