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第3章

第27話 真の正解

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 ――最終詠唱ファルフキャスト エンチャント・チェックメイト‼

 俺の視界に広がる紫色のオーラ。しかし、これはオーラじゃなかった。バレンに生気が感じられない。ルグアも警戒して、剣を呼び出す。

 ――装備転送ウェポン・テレポート アルス・グレイソード‼

 俺も彼女に続くように、愛剣を取り寄せる。水の如く流れる柄は、かなりの冷たさで背筋が凍てついた。
 リアクションなんて、できっこない。宙に浮くバレンの剣。それは綱を切断し、床に両端が垂れる。首の太い綱は、後ろでキツく結ばれているようだった。
 とても重そうな綱を引きずるバレン。首が引っ張られてるようにも見える。痛みに対する叫びは聞こえない。上がった口角は動かない。

「バレン……」
「ロムさん下がって」
「う、うん。リィファンさん。一緒に」
「自分も……ですか?」
「いや、ロムさんはメルフィナさんとで、お願いしやす‼ リィファンは大丈夫っすから‼」
「は、はい‼」

 俺はロム達を避難させる。バレンに言葉は通用しない。今の彼は敵。バレンは浮遊する剣を振り回し、柱に傷をつけていく。
 他の王も想定外らしく。最年少のラノグロアは、ラーウェインの背中に隠れていた。戦える人は少ない。バレンに適う人などいない。

「調子馬鹿」
「‼」
「戦え」
「お、俺がっすか?」
「戦えつってんだろ‼」

 俺がバレンと? いやいやいや、前に攻防一体戦法教えてもらうとかなってたけど。闇堕ちバレンが相手って、俺マジ無理なんすけど‼

「戦わないのなら。殺す」
「ッ⁉」
「ここにいるやつ全員殺す。それが嫌なら、相手しろ‼」
「ここにいるやつ全員って……」
「……殺すのは」

 この展開マズくね。殺すって見たくないよ……。やっぱ俺が戦わないとダメ? 俺やんないといけないの?
 負けるよ、絶対に負けるって……。ルグアは、賛成派みたいで、俺の背中叩いてるし。みんなの視線が俺に向いてるし。

「早くしろ。戦うのか戦わないのか?」
「アレン。行ってきな。私も見たいから。アレンだけが持ってるもの」
「俺だけが持ってるもの?」
「先輩‼」
「俺だけが持ってるもの……」
「そう。まだ何か。持ってるはずだから。私の勘にも映らない何かがきっと」

 俺にしかないこと。俺は小さい時からひとりぼっち。ルグアと出会って仲間が増えた。自分の強さを見せる魅せる。そんな場面が増えた。
 それなのに。自分の強さがわからなかった、俺は誰かに自慢はしたくない。したら誰かに笑われてしまう。ただの自己満だと思われてしまう。
 現実世界では嫌われてばかり。体育会系なのに、他の科目の成績は最下位。ただの運動自慢馬鹿。俺は馬鹿なんだ……。これまでの自分を否定してみる。
 もし俺がやってきたこと全てが、間違いで埋め尽くされているのなら。真の正解は何なのか? 正解は存在しない。そう思っていたけど……。

 ――『アレンさん。僕がいます』

「リゲルさん……」

 ――『正解は、すぐ近くにある。それはどんな状況でも一緒。人生に間違いなど存在しない。今すべきことが、真の正解ではないでしょうか?』


 ******


『リゲル大将‼ お待ちしておりました‼』
『こちらこそ、第二部隊の状況は?』
『今のところ、優勢を保っております。それより、お身体の具合はいかがでしょうか?』
『ゆっくり休息をとったことで、だいぶ回復しましたね。お気遣いありがとうございます』

 そう話をした相手は部隊の筆頭監督。幼少期からの親しい仲だけど、名前は一度も聞いたことがない。けれども、筆頭監督の腕はいい。
 素早い判断力は、戦況をもくつがえすほどだ。しかし、この後起こることを知っている今の僕は、筆頭監督には逃げてほしかった。
 だが、きっとこれはただの夢。世界軸が巻き戻った訳ではなく、フラッシュバックでしかない。気付けばもう遅い。

『リゲル様はここでお待ちください』
『ご無理をなさらないようにお願いいたします』
『では……』

 目の前に広がるのは荒れた平原。草花と呼べるものはなく、障害物も皆無。唯一隠し通路の外に壁があるだけ。そんな防壁から去って行く筆頭監督。
 記憶の中では、その戦友が帰ってくることはなかった。僕は喪失感に襲われて、戦場に顔を出せなくなり。それから数日。


 ******


 ――『これが、筆頭監督が選んだ正解なら。彼の判断は間違いではなかった。この世にもう親しき戦友はいません。
 ですが、その残像は目に、心に刻まれている。僕は彼の正解を、正解であれと願い信じてましたから』

「正解を正解で……」

 ――『ほら、皆さん待ってますよ』

「え?」

 ――『アレンさんが選ぶ真の正解を。皆さんはその正解を信じることになる。後戻りなど正解とは呼べない。大勢の命がかかっているんですから』

「大勢の命……」

 ――『今のバレンを止められるのは』

(俺しかいない‼)

 真の正解とか俺にはよくわかんないけど。今やることが真の正解だと言うのなら‼ 過去の自分と別れるしかない‼ 今の俺は、過去の俺よりも強いんだから‼

 ――『その意気です。僕は過去を振り返らない。今すべきことをするだけ。アレンさんもそれに気付いてくださって、光栄です』

「リゲルも力貸して欲しいっす‼」

 ――『承知しましたよ。アレンさん』
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