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第3章

第3話 後輩が見たかった俺の姿

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「ここから一番近いのは……。グラウゴ鉱山っすね」
「グラウゴ鉱山?」
「はじめてなんすか?」
「はい……」

 俺はピッケル二人分を持って、リィファンを鉱山へ案内する。団長が言うには、鉱石の種類はなんでもいいそうで。
 ほんとに後輩ができるとは、もう何度も言いたくなること。俺にくっついて来るのは女の子だけど、素性がバレたら逃げられる。

「そろそろっすね」

 エルフィレンナからグラウゴ鉱山は近所。徒歩でも気楽に行けて、鉱夫と対面。採掘許可をもらい中へと入る。
 ここに来たのは、コボルト戦以来。グレイソードが活躍した場所で、また出ることを想定し警戒度を上げておく。

「て、敵……怖いな……」
「大丈夫っすよ。俺がいるから」
「そ、そう……ですよね……」
「最初は敵に慣れないとっすね。ルグアが言ってたんすけど、敵の大きさっていろいろあって……」
「ひぃぃ⁉」
「なんか、ビビりなとこ俺と似てるっすね」

 俺は心霊スポットとかお化け屋敷が苦手。まずまず暗い部屋が大嫌いで、暗所慣れできたのも、ルグアのおかげだった。
 今はこんなことで怯えたりはしないし、暗がりの敵もドンと来い‼ って感じ。クエスト攻略もお手の物……っと言えば自画自賛だけど。

「せ、せんぱ……ひぃ⁉」
「リィファン?」
「て、敵……」
「敵? 俺の目ではただの鉱石にしか」

(いや、なんか黒いオーラが見えた気がする)

 すかさず愛剣を呼び出し戦闘態勢へ。小さいコボルトは無口。雄叫びをあげることは少ない。ルグアから気配だけは注意と助言をもらった。
 相手は鉱石の裏にいる。俺はリィファンの身体を引き寄せ、ゆっくりと奥へ入る。

『見つけたぞ‼ リィファン・セシリア‼ 王の命令だ。今すぐ……』

「わぁ⁉」
「ちょま‼」

 死角から現れるエルフィレンナの男性。俺の不注意による不意打ちだった。
 リィファンの口はハンカチで押さえられ、今にも連行されそうな盤面。真後ろでは攻撃モードのコボルト。
 優先すべきは、リィファンを助けることだろう。リアクションとる以前の問題。リアクションすれば、逆に時間の無駄。

「こうなったら‼」(ロムさんみたいにできるのなら‼)

 ――神器起動レジェンド・アクティベート アイシクルブロウ‼ 

 半分以上が即興で思いついた言葉。途端剣が冷たくなり、氷の礫が吹き荒れる。技が成功した。
 俺は相手が目を傷める隙に、リィファンを回収。眩ませる時間を有効に使い、採掘場の深い場所まで退避する。

「さっきの一体なんなんすか……」
「自分にも……わからない……です」
「俺もっすよ……」
「ねぇねが許可する……って言ってたのに……」
「多分。ううん。絶対着いて来るっすよ。念には念っす。俺が守るから」
「先輩……。自分……そういう先輩が見たかった」
「え?」


 ***数日前***


「そ、その……。自分。アレンさんに……。いろいろ……教わりたい……です」
「だだだ、誰っすか?」
「り、リィファン……セシリア。リナの……弟」
「ってことだから、よろぴくねぇ‼」
「ちょっと待って、説明して欲しいっすよ。リーちゃん‼」
「えーーーー。どしよっかなぁ~」
「ねぇねは……仕事……。忙しい……よね……?」
「そだけどなにに~?」
「も、戻って……。戻った方が……いい……よね?」
「だねだねぇ。ってことで、アレンに全部丸投げしちょくから、ご指導よろ~
♡」


 ***その翌日***


「リィファン。次はこの葉を切ってもらえるっすか?」
「こ、この葉……ですか?」
「うーん。あ、違う違う。リィファンから見て上から3番目の葉っすよ‼」

 ――ジョギンッ‼

「言うのが遅すぎたっすね……。すんません……」
「ご、ごめん……先輩……」
「い、いいんすよ。俺の落ち度っすから。リィファンは悪くない」
「先輩……」


 ***現在***


「い、今の先輩……とても……かっこいいです……。じ、自分も。先輩みたいに……なれるかな……」
「そういうことだったんすね……。俺を選んだ理由」

 過去を振り返れば、俺はドジばっかり。相手の意思も悟れない馬鹿。そんな俺を、リィファンが選んでくれた。
 彼が見たかったのは、クエストで活躍する、成長途中の俺かもしれない。
 バトルはそこまで上手くない。立ち回りもルグアに負けてる。だけど、守る決心は自然とできてた。今はルグアとリィファンを守りたい。

「リィファン。ちょっと俺の武器持ってみないっすか?」
「アルス……グレイソード……ですか?」
「そうっす。握ってもいいっすよ」

 なんだかこれも懐かしい。リアゼノン第六層ではじめて握った、ルグアの〈クリムゾン・ブレード〉。
 あの感触はまだ覚えてる。ものすごく重くて、柄は熱くて。集中が途切れたら剣に飲まれる。毎回記憶が飛んでいた。
 第六層ボスをどうやって倒したか? その記憶は残っていない。でも、あの後剣を自在に振れるようになった。

「じゃ、じゃあ……お言葉に……甘えて……」

 身体をビクビクさせながら、俺の愛剣に手を添えるリィファン。不思議なことに、〈アルス・グレイソード〉は拒絶しなかった。

「な、なんだろう……。実体はあるのに……実体がないみたい……」
「変わり種っすよ。俺も驚いたくらいっすから」
「いつか……。いつか振りたいです……。この剣を」
「よし、それじゃ急いで採掘っすね。ルグアに錬成してもらわないと」
「わかりました‼ 先輩‼」
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