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第2章後編

第2章最終話 バレンの過去。悪夢の兆し

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 ◇◇◇異世界アルヴェリア アレン目線◇◇◇

「でも良かったっすよ。わざわざすんません……」
「なんのなんの。これくらい問題ないって」

 俺達にはバレンがいるから、ある程度大丈夫なのに、危険信号を受け取って援護に来たルグア。彼女を追いかけていたらしいルーアの影も見える。
 オネエ男の王に警戒するバレン。炎の鎧は常に燃え続けて。その勢いは収まらない。燃焼の激しさは彼の怒りを表現してるのか?
 リアクションも取れぬ俺。バレンの威圧感は増すばかり。対するルーアも、引けを取らないレベルに殺意のオーラを放つ。

「なんか恨みってのあんかよ?」

『いいえ、ないよ? けどね、今のアレストロどうなってると思う?』

「んだよ急に……。もうあんとこと関わりなんざねぇっての‼ とっくの昔に姓は捨てたからな」

『へぇ……。よく言えるじゃない。ジ……』

「……ッ⁉」
「バレンどしたんす……」

『ジル……』

「言うな。言うな言うな言うな‼ その名前は……。その名前だけは……絶対言うな‼」
「バレン大丈夫?」
「その名前は……。兄の名前は絶対言うな‼」

 感情が乱れ始めるバレン。鎧の火炎も轟々と音を立て、守るかのようにまとわり絡みつく。
 俺はどうすればいいのだろうか? バレンの勢いに押し負けて、接着剤が足裏に塗りたくられたのか、地面にくっつき離れない。
 そんな俺とは違い、ルグアはバレンに寄り添う。そして何かをボソリと呟いていた。

「ちょっといいかな?」
「なんだよチビ」
「少し前に、ルナジェインさんと風魔が話してたことなんだけど」

 ******


『ルナジェイン王。先程の通達に関して説明願いたい』
『風の守護精霊か。先日ラノグロア卿より、息子が面会に参ったと連絡を貰ったが……』
『……無用。そこまで気にする必要性は感じられなかった。バレンは世間に知られねよう、彼なりの隠蔽手段をとっている。
 八年前のことを引きずっているのかもしれない。過ぎ去ったことは白にも黒にもなり得る。彼にとっては黒なのだろう』


 ******


「その時風魔が言ってた〝黒〟って。お兄さんのことでいいのかな?」
「……」
「バレンのお父さん心配してたよ? 多分、お兄さんとのことも引っくるめてだと思うし……」
「父ちゃんが?」
「うん」

 少しずつ弱まる炎。さすがはルグア団長。どんな時でも、どんな相手でも優しい。その部分も大好きなところ。
 俺は居合わせて居なかったため、ルグアがバレンへ伝えた会話を知らない。けど、それでバレンが落ち着いてよかった。
 だって、バレン怖すぎだし。すぐ暴走しそうだし。絶対暴れ馬だし。囚人よりも暴れ馬だと思うから‼ まるでゴル○‼

「もし、バレンが思ってる〝黒〟とお兄さんだ関係ないのなら。別に思い出してもいいんじゃないかな? 大事な人とは思わないの?」
「大事な……」
「実はね。私にもお兄さんがいて。私よりも勉強熱心で、いつも自分の学力向上を目指していたの。
 それもあって、私の宿題は手伝ってくれなかったんだけど。でもね、私お兄さんって、毎日食事を作ってくれる」
「チビの兄ちゃんは良いよな……。兄とは全然違ぇよ……。兄さんは、兄さんから虐待されてたんだ。王位継承権でさ」
「王位継承権? 王位継承権ってなんすか?」

 バレンの言葉に、質問する俺。王位継承権はいろいろあるけど、世代交代と同じというのは予想できていた。

「アレストロ家はさ。王家の血が濃いほど、継承権への切符が近くなる。そんで、俺は兄よりも濃いことから、継承権を持っていた」
「なるほど……」
「それが、虐待の幕開けなんだよ……。俺が継承権持ってることを兄が知ってから、兄は俺をいじめるようになった」
「なんか、悲しいっすね……」
「けどよ。すぐ終わると思えば思うほどエスカレート。燃やされるわ、全身ずぶ濡れで雨風に晒されるわ。殺されまくった。
 だか思い出したくねぇんだよ。あんなヤツは兄じゃねぇ。俺はあんなヤツ望んでねぇって。
 ったく、全部思い出しちまったじゃんかよ。てめぇらクソ頭のおかげでなぁ‼」

 ――神器起動レジェンド・アクティベート

「今度ジルグを俺んとこに連れて来い‼ 成敗してやっからよぉ‼ 裏で繋がってんだろルーア‼」
「じ、ジルグって……。あのジルグ・アレストロさんっすか⁉」
「そーだよ調子馬鹿‼ んでどこで仕入れてんだよボケがッ‼」
「え、あ、その。顔見知りっす」
「んだとぉ⁉ ちいと力貸せ‼」

 え? そのなんで俺なん? 何すればいいんだよ? 俺動けそうにもないんだけど‼ ってか、いつの間にかバレンの近くに……。

「自分で来てただろが‼」
「そなの?」
「ボケかましてんじゃねぇよ‼ ルーアより先にぶっ殺すぞ‼」

『ルーア様。見物中失礼致します』
『なあに?』
『別世界からの通信です。ルグア様ともお話したいと』
『そうなの? 繋げて頂戴』
『承知しました』

 なになに、別世界からの通信? 誰なんだろ? なんか気になる。そう興味を抱いている最中、俺達と門の間にスクリーンが展開された。

 ――『えーと、もしもし? 繋がってる? そうだ、明理さん調子はどう? 苦しみ具合とか』

「或斗院長。お久しぶりです。と言っても一昨日ぶりだけど……。変わりないですよ
今はクエスト中で、身体中爆弾だらけだけど」

 ――『そうなんだね。あ、そうだ、例のお金全額使ったから。大丈夫なんですよね?』

「もちろんですよ。あのお金の使い道に困ってましたから」

 ――『ならよかった。明理さんのために、とある物を購入してね。これからその電源を入れるところなんだけど』

「何を購入したんですか?」

 ――『それは言えないかなぁ……。でも、きっと喜んでくれると思うから。ルーアさん、そちらの準備は大丈夫でしょうか?』

 なぜかルーアを呼ぶ或斗院長。ルーアは指で丸を作り、完了の合図を送る。なんだかものすごく怪しい。これまで全部が怪しくなってくる。

 ――『じゃ、電源入れるよ。明理さん、衝撃注意。とだけ警告しておきますね』

「衝撃……注意……」

 ――『電源ON‼』

「……⁉ ぐふっ⁉」
「ルグア‼」
「なんか、身体が急に熱く……。それに埋め込んだ爆弾の爆発も強く……なって……」
「もしかして、爆発の被害が……」

 ――『そう。同時に、明理さんの生命力も全部ドレインさせてもらうよ? とある機械を動かすためにね』

「そうか……。なら、一つ頼みがある……。私達が現実世界に戻るまで、起動はさせないでくれ。その間、それ以降もドレインだけは許す」

 ――『じゃ、こちらはその時を待つよ。君が生きていれば……だけど……』
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