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第2章後編
第57話 団長復帰
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◇◇◇ラノグロア宿屋◇◇◇
「ただいま」
「おかえり明理ちゃん。……手に持ってるその袋は……」
私が受付前まで帰ってきて早々、勲章の入った小袋を指さすメルフィナ。
ルナジェイン王から受け取った勲章は、アルヴェリアで〝永遠〟を意味する、とぐろを巻いた龍の刻印がされている。
これは、一体の龍を連れた人々が時空を超えて世界を救い、永遠の平和をもたらした、という言い伝えが形になったものだ。
だが、知ってる逸話と背景をメルフィナに伝えても、なかなか信じてもらえない。
初めて来た時は、万人と言って良いくらい有名だったのに……。
過去の出来事が薄れ、真実から逸話へ。そして伝説となったのち、長きに渡って受け継がれても、形は別のものに変化していく。
これが本当に起きたことだとしても、私は事実として言いきれない。言いきれないことにもどかしく感じて、言葉に悩んだ唇が震える。
「まあいいわ、あとでお父様に探してもらうから」
「探してもらう? 何をですか?」
これまで全く気にしていなかったが、サファイアブルーの髪に目を奪われ、顔立ちも整ったモデル顔のメルフィナ。
細くスラリとした指で頬を掻き、何か模索する表情はチェリスに似てるが、ライバル視するほどの嫌らしさは全くない。
反対にとても優しい雰囲気で、張り合うことはなさそうだ。それよりも、私はあまり張り合うようなことはしたくない。
モンスターならまだいいけど、対人戦は少し抵抗感がある。殺してしまうのが嫌いだから。あのデスゲームも人を殺すためではなかった。
「……明理ちゃん。顔色悪いみたいだけど大丈夫?」
「え、あ、大丈夫です……。ちょっと考え事してて……」
「あまりネガティブなことは考えない方がいいわ。あたしもバレン達と行動する前は、お父様のいるシュトラウトで騎士団長をしていたの。
最初は良かったんだけどね。いろんなことを覚えていくうちに物忘れが増えて、団長なのに知識量は兵士の方が上だった。
どんどん追い越されていって、『こんな騎士団長ではダメなんじゃないか?』って自暴自棄になっちゃって、うつにもなってね……」
「そう……だったんですね……。確かに追い越されるのは私も怖いです……。
実は、私を追い越しているんじゃないか? って思っている友人が異世界にいて、元の世界に連れて帰るために来ました……」
「ちゃんと目的があるのはいい事よ。あの頃のあたしは、何も考えずに行動していたから……。貴方の方が断然マシじゃない。
もっと前向きに行動すれば、きっと叶うはずよ」
そう考えると、うつにもなったメルフィナは、どうしてここまでポジティブになれるのだろうか?
アレンも最初の頃はものすごいハイテンションで、ものすごくポジティブだった。間違えることがほとんどだけど……。
私だって間違えることはある。だけど、来た理由を発言したことで、『これでいい』と安心できた。自分で決めた目的だから。
風魔にも協力してもらったんだから、無駄にはしたくない。無駄にしたら努力も希望も水の泡。それは避けていたい。
「明理。一つ忘れている。今後どうするか。帰路で話したこと」
******
『ねぇ風魔。今日勲章もらったでしょ?』
『……』
『あのね。またギルド団長になろうかな? って』
『……それにはアレンに報告、承諾が必要』
『そんなのわかってるよ。でも今いないでしょ?』
『ごもっとも。これは明理に賛同する以外の道はない。ラノグロアに着いたら宣言するといい』
*******
「あ~う……。おあよぉ……(おはよぉ……)」
「ガデルさんおはようございます。と言っても、もうお昼だけど……」
「……も、もうお昼? 時間過ぎるの早すぎだよぉ……」
「それは、ガデルさんが遅くまで執筆していたからだよね? 早く寝ないからそうなるんだよ?」
「……ギクッ⁉」
痛いところを突かれて棒になったガデル。それに続くように、他の仲間達が宿屋の受付前に集合する。
私と一緒に来た人だけではなく、この世界にいるバレンの面々も。総勢14人。小規模攻略ギルドの人数にとても近い。
「皆しゃん、おはようなんだりょん‼ おてんとしゃんが眩しいりょんね……」
「その気持ちはボクも一緒だよ♡ 麦畑を見る時以外は、ずっと海の中か洞窟の中だからね……」
「アイライの方が真っ暗りょん……。沼地はジメジメしていて気持ちいいりょんけど、日差しは皆無だりょん……」
「いいなぁー。フィレンくんは。ボクも体験してみたいけど。沼の中ってボクには合わないんだよね……。羨ましいよ……」
「しょれは沼蛇のアイライだけの特権なんだりょん。仕方ないりょん」
不満そうに語り合う雷夜とフィレン。二人は感覚が似ているようで、意気投合しつつも、雷夜が目を輝かせている。
それだけフィレンに興味があるのだろう。私も、バレン達に興味があるし、アレンも助けたい。
「その。皆さん。ガデルさん達はわかると思うけど……。今日から私、ギルド【アーサーラウンダー】の団長に復帰します‼」
「明理さん。また団長って……」
「やっぱり、ガデルさんもまとまりあった方がいいでしょ? なので、よろしくお願いします‼」
「ただいま」
「おかえり明理ちゃん。……手に持ってるその袋は……」
私が受付前まで帰ってきて早々、勲章の入った小袋を指さすメルフィナ。
ルナジェイン王から受け取った勲章は、アルヴェリアで〝永遠〟を意味する、とぐろを巻いた龍の刻印がされている。
これは、一体の龍を連れた人々が時空を超えて世界を救い、永遠の平和をもたらした、という言い伝えが形になったものだ。
だが、知ってる逸話と背景をメルフィナに伝えても、なかなか信じてもらえない。
初めて来た時は、万人と言って良いくらい有名だったのに……。
過去の出来事が薄れ、真実から逸話へ。そして伝説となったのち、長きに渡って受け継がれても、形は別のものに変化していく。
これが本当に起きたことだとしても、私は事実として言いきれない。言いきれないことにもどかしく感じて、言葉に悩んだ唇が震える。
「まあいいわ、あとでお父様に探してもらうから」
「探してもらう? 何をですか?」
これまで全く気にしていなかったが、サファイアブルーの髪に目を奪われ、顔立ちも整ったモデル顔のメルフィナ。
細くスラリとした指で頬を掻き、何か模索する表情はチェリスに似てるが、ライバル視するほどの嫌らしさは全くない。
反対にとても優しい雰囲気で、張り合うことはなさそうだ。それよりも、私はあまり張り合うようなことはしたくない。
モンスターならまだいいけど、対人戦は少し抵抗感がある。殺してしまうのが嫌いだから。あのデスゲームも人を殺すためではなかった。
「……明理ちゃん。顔色悪いみたいだけど大丈夫?」
「え、あ、大丈夫です……。ちょっと考え事してて……」
「あまりネガティブなことは考えない方がいいわ。あたしもバレン達と行動する前は、お父様のいるシュトラウトで騎士団長をしていたの。
最初は良かったんだけどね。いろんなことを覚えていくうちに物忘れが増えて、団長なのに知識量は兵士の方が上だった。
どんどん追い越されていって、『こんな騎士団長ではダメなんじゃないか?』って自暴自棄になっちゃって、うつにもなってね……」
「そう……だったんですね……。確かに追い越されるのは私も怖いです……。
実は、私を追い越しているんじゃないか? って思っている友人が異世界にいて、元の世界に連れて帰るために来ました……」
「ちゃんと目的があるのはいい事よ。あの頃のあたしは、何も考えずに行動していたから……。貴方の方が断然マシじゃない。
もっと前向きに行動すれば、きっと叶うはずよ」
そう考えると、うつにもなったメルフィナは、どうしてここまでポジティブになれるのだろうか?
アレンも最初の頃はものすごいハイテンションで、ものすごくポジティブだった。間違えることがほとんどだけど……。
私だって間違えることはある。だけど、来た理由を発言したことで、『これでいい』と安心できた。自分で決めた目的だから。
風魔にも協力してもらったんだから、無駄にはしたくない。無駄にしたら努力も希望も水の泡。それは避けていたい。
「明理。一つ忘れている。今後どうするか。帰路で話したこと」
******
『ねぇ風魔。今日勲章もらったでしょ?』
『……』
『あのね。またギルド団長になろうかな? って』
『……それにはアレンに報告、承諾が必要』
『そんなのわかってるよ。でも今いないでしょ?』
『ごもっとも。これは明理に賛同する以外の道はない。ラノグロアに着いたら宣言するといい』
*******
「あ~う……。おあよぉ……(おはよぉ……)」
「ガデルさんおはようございます。と言っても、もうお昼だけど……」
「……も、もうお昼? 時間過ぎるの早すぎだよぉ……」
「それは、ガデルさんが遅くまで執筆していたからだよね? 早く寝ないからそうなるんだよ?」
「……ギクッ⁉」
痛いところを突かれて棒になったガデル。それに続くように、他の仲間達が宿屋の受付前に集合する。
私と一緒に来た人だけではなく、この世界にいるバレンの面々も。総勢14人。小規模攻略ギルドの人数にとても近い。
「皆しゃん、おはようなんだりょん‼ おてんとしゃんが眩しいりょんね……」
「その気持ちはボクも一緒だよ♡ 麦畑を見る時以外は、ずっと海の中か洞窟の中だからね……」
「アイライの方が真っ暗りょん……。沼地はジメジメしていて気持ちいいりょんけど、日差しは皆無だりょん……」
「いいなぁー。フィレンくんは。ボクも体験してみたいけど。沼の中ってボクには合わないんだよね……。羨ましいよ……」
「しょれは沼蛇のアイライだけの特権なんだりょん。仕方ないりょん」
不満そうに語り合う雷夜とフィレン。二人は感覚が似ているようで、意気投合しつつも、雷夜が目を輝かせている。
それだけフィレンに興味があるのだろう。私も、バレン達に興味があるし、アレンも助けたい。
「その。皆さん。ガデルさん達はわかると思うけど……。今日から私、ギルド【アーサーラウンダー】の団長に復帰します‼」
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