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第2章後編
第54話 黒い結晶とバレンの謎
しおりを挟む――Z+魔法 ジャッジメント・フローズン・ラビリンス‼
『メルフィナさん、もしかして』
『バレンが話していた古代魔法よね。間違いないわ。氷結の神域精霊シヴァの能力に近いもの』
『うぐぁ……⁉』
『バレン君?』
『気に……しねぇ方が……いい。こんくらいなら』
私の魔法に反応したバレンが、のっそりと立ち上がる。紫色の霧で彼の周囲が黒い。精神状態も良くないはずなのに……。
まるで彼自身が悪魔になったみたいだ。暗夜の悪魔……。シャドーイフリートと関係性がどうも引っかかる。
私からだと上空から見ている状態。千鳥足のバレンは、よたよたと数歩進み、右手を何もない場所に差し出す。
――装備転送 エクスキャリオン・ブレード……。
バレンから発せられる詠唱術式。どこからともなく黄金の長剣が飛んでくる。彼が握った直後、その刃も黒く染まった。
煌びやかな剣が漆黒へ。狂気に満ちたその姿は、とてつもなく禍々しい。
「明理……。てめぇは今から俺に合わせろ。俺からも合わせてやる。――口縛……」
「⁉」
『王子お決まりの口封じね。明理ちゃん‼』
「口封じ……。つまり、口頭での指示は難しくなる……はず……だから……」
通信魔法しかない。けれども、その人固有のナンバーがわからないと、接続もできない。
ナンバーの解析には、相手の思考を読み取る必要がある。普通なら1秒あれば足りること。
しかし、何度も読み取ろうとしてもバレンだけはわからない。次どう動くのかを予想することができないのだ。
連携が取れる確率は、0としておきたいけど1パーセントだけ残す。思考の共有が不可能ならば、初動を観察し歩調を合わせる。
――(さっさと動けよ)
「……⁉」
――(さっさと動けっつってんだろ‼ ちっこいの‼ てめぇが行動しねぇと、俺はなんもできねぇんだよ‼)
「けど、どうやって……」
――(こっちから繋げた。俺の固有ナンバーわからねぇんだろ? めんどっちぃけど、特別だ。目利きあんなら俺を使え)
初見のバレンとは違う。なのに、やる気があるのか不安になる。表情は寝ぼけたまま。剣を握る手も力が抜けた状態。
完全に脱力しているせいで、動くタイミングが掴めない。彼の協力にしっかり反応できるかも、心配になる。
これ以上彼を考えても、読み取れないことでロスが増えるだけ。いつになっても始まらない。
一度〝協力する〟を忘れて、〝自分だけの戦い〟に切り替えた方が良さそうだ。
「バレンさん。本気でやってもいいですよね?」
――(好きにしろ)
「好きにって……」
――(……。てめぇが好き勝手やればいい)
「なら容赦しないからね‼ トリを取りたきゃ取ってみろ‼」(あ……)
『え?』(メルフィナ)
『キャラ……変わってません?』(ロム)
「んにゃあ……。もういい。このままやってやる‼」
まさかゲーム内の自分が出てしまうとは……。今更戻したってどうにもならない。見た目と言動が合ってないけど……。
イフリートの後頭部を覗いた先には、結晶のような塊が数個。これを壊せば、事態を免れるはず……。
試しに一つ剣で切り裂く。思ったより脆い結晶は、パラパラと散った。続くように破壊をしていく。
けれども、地上にいるバレンが動こうとしない。むしろ異常に苦しんでいる。それも破壊したのと同時に。
もし、この結晶とバレンが一心同体なら……。全部破壊するわけには……。
――(早く全部壊せ……。苦でいる方が好きなんだ。痛みなんざ遊び程度だよ……。俺を楽しませろ‼ 寝るよりストレスを荷台に積みてぇんだよ)
「一瞬で壊せばい……」
――(好きにしやがれ‼)
私は剣を大きく振るう。一閃で後頭部の結晶を全て破壊。バレンのところから、血なまぐさい臭いがする。
左胸を必死に押さえるバレン。口封じされた口角がニヤりと上を向く。彼の痛みは想像できないが、彼は笑みをこぼしている。
――(もっと……。もっと。フハハもっとやれ‼)
「バレンは一体何考えてんだか……。続けりゃいいんだな?」
――(……)
「特異点魔法使えば全て破壊可能なんだが……」
――(……)
「どうすっかなぁ……」
――(……)
「おっ‼ あんなとこにフォルテの大好物が⁉」
『オレ釣ってどうする?』
「で、ですよね……。ごめんなさい」
『明理は悪くねぇよ』
――(……好きにしていい。俺の希望はそれだけだ)
不気味な笑いはどこへやら、冷気を感じてしまうくらいに冷たい。
シャドーイフリートは氷漬けのまま。特異点魔法の氷は溶けることがない。溶岩を流し込めば、このバトルはチェックメイト。
今のバレンは普通じゃない。この前私も風魔に〝普通じゃない〟と言われた。睡眠不足とも……。でも、みんな同じでは……。
『あ‼ バレンおにいたんとロムおにいたんみーつけた‼』
「フランネル令嬢様‼ その手に持ってるのって……」
『じぇれねすの花』
「〝じぇれねす〟じゃなくて〝ゼレネス〟ね」
神出鬼没でやってきた子供。手にはゼレネスという名前らしい、紫色の花。敵には目もくれず、バレンの方へ駆けていく。
花との距離が近づく。縮まるごとによろけるバレン。花が重なったのと同時にバタりと倒れてしまう。
倒れる原因が花。苦しんでいる様子がない。そして、シャドーイフリートは凍っているまま。彼の希望に応えるなら今。
――Z+魔法 ジャッジメント・サージ・ラビリンス‼
本日二回目の特異点魔法。受ける代償も二倍で、発動中は脳に激痛が走る。慣れれば気にならないが、使用者の負担は変わらない。
急激に温度が上昇する氷は膨張に耐えかねて爆発し、残りの結晶も一瞬で消える。
ちらりとバレンを見ると、ぐっすり眠っていた。
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