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第1章 

第95話 ゴブリン豪雨

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 ◇◇◇ルグア目線◇◇◇

 進まない勘。途絶えた思考。痛む精神……。安らぎのない時間。不安と罪悪感が全てを狂わせる。
 不可解な行動。定まらない夢。私は何をしたいのか。アレンは私を助けようと、私がいる第五十層を目指している。
 今できるのはアドバイスだけ……。ひっきりなしに体内へ注がれる薬物。否応なしに与えられる気体。酸素不足が続く中、意識は正常を保っている。完全に人ではない。
 幼き頃にイタズラで書いた、レコード・ノート。ウェンドラに言われるまでは、ただのノートだと思っていた。私を指名して誰かが書いた言葉。その言葉が思い出せない。

『明理、大丈夫か?』
「う、うん……。一応、フォルテには反映されないようにしているけど……」
『おいよぉ……。いくらお前が世界のために貢献できるからと言って、実験の被検体になったとしても、労わった方がいいんじゃないか?』

 私想いのフォルテ。彼、否。彼女も記憶を無くしていて、それを私が探している。ウェンドラと誓った約束。

 〈私がフォルテの記憶を全て取り戻すのが先か。ウェンドラが私にトドメを刺すのが先か〉

 けれども、ウェンドラは私のライバルとして、仲間として、私に外傷的な攻撃はしなかった。したとすれば、脳内攻撃だけ。私もそれをただの遊びとして捉えている。

 ――『明理さん、思い切って二酸化炭素も持って来ました。交換します? それとも両方? ん~。両方にしちゃお‼』

 ゲームの外を遊び始めた或斗院長。すでに吸入されている窒素に加え、二酸化炭素ガスも与えられる。完全にモルモット状態だ。
 いくらレコード・ノートで特殊な身体になっていても、耐えられる保証はどこにもない。
 ゲーム内でも響く心臓の鼓動。それはとてつもない速さで刻まれていく。こうなってしまうのなら、一刻も早くこの世を去りたい。だけど、アレンに迷惑をかけたくない。

 ――ビシュイン‼

 突如脳裏に稲妻が過ぎる。何かの、誰かの危険信号かもしれない。直感的に悟った私は、アレンがいる第十八層に意識を飛ばした。

 ◇◇◇第十八層アレン目線◇◇◇

「な、なな、なんか降って来たんすけど‼」

 校舎の裏で叫ぶ俺。その周りには雨のように降ってくる大量のゴブリン。襲いかかろうとする姿は、とても勇ましい。勇ましいが、ゴブリンの大雨でむちゃくちゃ怖い。

 ――『おーい、アレン聞こえるか? 私だ』

『ルグアさん‼』
「団長‼」

 久しぶりに聞くルグアの声。更生剤研究と聞いて声が聞けないと思っていたから、ものすごく嬉しい。

 ――『お、リゲルもいたのか。久しぶりだな』

『姿は見えませんが、お会いできて光栄です』
「俺も一時は……」

 ――『ん? 今最中薬物と酸素濃度低下催促処置を……』

 ささ、酸素濃度低下催促処置⁉ 酸素濃度低下って、死ぬじゃん‼ ルグア死んじゃうじゃんしかもそれリアルでだよね?

 ――『そうだが……。さっきから意識が飛び飛びなんだよな』

「皆さん、何をお話されているのですか?」
「ダレネスさんごめんなさい」

 木になってしまうのを忘れていた。急いで願いを叶えてあげなければ‼ ってか、要望聞いてなくね? 聞かないとわかんない。わからなかったら、アカン、ヤカン、オカン、夏ミカン、焼きミカン。

 ――『焼きミカンは冬じゃないか?』

(酸素濃度低下中なのに頭の回転はやっ⁉)

 相変わらずの反応・処理速度に驚いてしまう。こんな状況でよくできると思うと、神の一言で本当に片付いてしまう。

 ――『んで、さっきから嫌な予感がするんだよ……』

「ルグアの場合は予勘じゃね?」

 ――『こりゃまた一本取られた。たしかにそうだな』

 やっぱり、ルグアと話をしている時間が一番楽しい。また数時間後に切れるのだろうけど、ずっとこうしていたい。俺はルグアしか愛せない。
 そうしていると、急に地面が暗くなって……。落ちてきたのは……。
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