星が降りそうな港町

Yonekoto8484

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中国語合宿

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ある日,不思議な仕事の依頼があった。中学生向けに「中国語合宿」というイベントが開きたいが,中国語がわからないから,イベント内容や時間割を私にお世話になれないかという話だった。

この依頼を不思議に思ったのは,中学校専属の先生がいるのに,その人に頼まなかったからである。中学校には一度も行ったことがなく,どういう授業をしているのか見当もつかない私より,中学校で行われている全ての中国語授業に参加している中国語教師の方が適任だと考え,そう伝えた。

すると,中国語教師たちは,忙しくて話が通じにくいから,なかなか協力してもらえないという事情を説明された。後,「中国語合宿」は,国際交流事業だから,私がやりたいのではないかと考えたとも,言われた。この説明は,私には,詭弁にしか聞こえなかった。

中国語教師は,忙しくても,中国語を教えるのが業務であり,そのノウハウも身につけているのだ。授業に出ているから,合宿に参加する学生たちの中国語のレベルも把握しているはずだ。それに,中国語の学習を通して,中国の文化と触れ合うことになるということを踏まえると,国際交流事業に分類されるかもしれないが,語学学習に特化した事業なので,私より中国語教師の方が向いていると思った。

私の町の人は,「国際交流」というと,外国人と外国語で話してみて、楽しむものというイメージしかなく,このイメージより高い意識を求めても,無駄であることを過去の経験からすでにわかり切っていた。その町民のイメージを塗り替え,町民の国際感覚を育むというのが私の仕事だったが,人の認識を変えるほど難しくて厄介なことはないと,日々四苦八苦しながら,思い知らされ、痛感していたのだ。だから,この点について,議論しようとはしなかった。

「一人でやるのは荷が勝つが,中国語教師と連携したり,歌子の組織の協力を得たりした上での開催なら,協力する。」という風に答えた。

結局,中国語教師たちの協力が難しく,歌子と一緒に合宿の企画などをすることになった。

「合宿」という呼び方にしたのは,子供の参加意欲が高まるように,一泊二日の日程に渡り,泊まりがけで合宿施設で開催する方針故の理由だった。私と歌子は,泊まらずに,日中だけ,子供たちの相手をすればいいということになった。

それでも,二人だけでは,大変だから,歌子が奏を始め,組織の役員たちの協力をお願いしてみた。全員が快く協力すると返事してくれた。

ところが,子供たちがどのくらい中国語が理解し,操れるのかが全くわからないので,二日間の学習内容を決めるのは難儀だった。とりあえず,授業で読み書きの練習はしていても,会話はほとんど教えていないだろうという私たちの大して根拠のない推測を元に,基礎的な内容にした。

ちょうどクリスマスの季節に開催される予定だったため,奏がサンタさんの格好をして,登場することになった。これは,ノリの良い性格の奏には,ぴったりの役目だった。

そして,とうとうイベントの日がやって来た。みんなでイベント会場となっていた合宿施設まで移動し,準備をした。

用意した内容は,中国語で買い物をしてみたり,自己紹介をしたり,簡単なフレーズを使ってゲームをしたりなどと言った初歩的なものだった。中学生だから,簡単すぎるのでは?という心配はあったが,楽しむのが目的の合宿イベントだから,高度過ぎるより,簡単な方が復習になり,いいのでは?とみんなの意見が一致して,そうしようと決めた。

子供たちのレベルは,やっぱり,私たちが予想していたより高かったが,機嫌良く私たちが用意したゲームなどの内容に付き合い,楽しく過ごしてくれた。

何より,奏のサンタさん役は,好評だった。あまりにも大袈裟に演じたものだから,子供たちが歌子に,「彼,何人?」と真剣に質問したのだった。歌子は,うまく子供たちに調子を合わせて「老人だよ。」と答えた。

ただ,七十歳を超えている奏にとって,二日連続子供たちの相手をするのは,体力がついていかないので,二日目は休んだ。合宿二日目の朝に,奏が来ていないのを見ると,子供たちが心配してくれた。「サンタは?」とすぐに奏のことを尋ねてくれた。

「サンタは,疲れて休んでいる。老人だからね。」
歌子がまた上手いこと子供たちに調子を合わせたのだった。

もう一つ子供たちが面白がったのは,私と歌子のジャンケンのお手本だった。子供たちにしてもらえるように,中国語のジャンケンの掛け声を教えるつもりだったのが,何回やっても,結果は引き分けだった。十回ほど繰り返しても,引き分けだった。子供たちがこれを見て,「仲良いね!」と笑っていた。

この行事が恒例となり,私が妊娠六ヶ月の妊婦になっても,中国語教師ではなく,私がかり出されたのだった。
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