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思いがけない訃報
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私は,奈良県在住の岡本尚美,54歳。育児が一段落して,今は地元の会社で事務の仕事をしている。夫の正之は,単身赴任で,2年前から,岩手県にいる。一人息子の悠貴は,大学を無事に卒業し,就職が決まり,岡山県で一人暮らしをしている。一応,最近まで,していた。
いまだに,一向に, 実感が湧かないのだけれど,悠貴は,大豪雨で犠牲になってしまったそうだ。二週間前に,突然そういう連絡が入ったのだ。息子の遺体が川辺に打ち上げられ,発見されたそうだ。
しかし,納得が行かない。息子は,とても慎重で,用心深い性格だったから,豪雨など災害が起ころうとしている時に,外出をしたとは,とても考えられないのだ。悠貴なら,家にこもって,ニュースを見て過ごしていたはずだ。その悠貴が,激しい雨が何時間も降り続いている時に,川の近くへ徒歩で出掛けたなんて,信じられない。よほどのことがないと,そのような無謀なことを絶対にしない子だった。
このように,最初から息子の死には,どこか腑に落ちないところはあったが,事実として受け止めるしかないと思った。
訃報の連絡があった日は,単身赴任の夫に連絡をし,伝えてから,丸一日泣いて過ごした。夫は,すぐに帰ると言ってくれたが,断った。断ったのは,万が一,夫まで岩手県からの道中に,何か事故に遭ったりしたら,たまらないと思ったからだ。
葬儀は,もう終わったし,なるべく,余計なことを考えずに,普通に日常生活を送ることにしている。朝起きて,支度をして,仕事に行って,仕事が終われば買い物をして,自宅に帰ってからご飯の支度をし,ご飯を食べて,夫と電話で話してから寝る。悠貴のことをできるだけ考えないようにして,こういう生活を規則正しく続けることを心がけることで,息子を亡くしたという寂しさや助けられなかった悔しさを紛らわしている。一応,最近まで,そうしていた。
一週間前に,葬儀が終わり,自宅に帰ってみると,どことなく,いつもとは違う気配がしたのだった。誰かが私の帰りを待っていたような,一言で言えば,懐かしくて,心地よい気配だった。
荷物を置いて,着替えて,リビングに入ると,なんと息子の悠貴がソファに座っていたのだ。
息子というか,顔はどう見ても,息子の顔だったが,透明で,声をかけても,反応はなかった。
私は,恐る恐る息子らしい現象に近づいて行き、顔のすぐ前で,「悠貴?」と名前を呼んでみた。すると,息子が反応し,目を合わせてくれた。そして,口を開けて,こう言った。
「見えている?」
私が頷くと,「そうか…見える人もいるんだ…ところで,悠貴って誰?」
「え?あなたのことよ。」
私は,ドギマギした。
「そうか…僕は,悠貴と言うんだ…。」
息子は,幽霊になったせいか,自分とは誰なのか,忘れてしまっていたらしい。いわゆる,記憶喪失状態だった。
「どうして,僕のことを知っているの?」
息子の幽霊が私に尋ねて来た。
自分の息子にそう聞かれて,思わず涙が出そうになった。息子は、私のことまで忘れてしまって,全く覚えていなかった。顔を見てもわからなかったようだ。
「私は,あなたの母だから…。」
私が目に涙を浮かべて,言った。
「そういうことか…。」
息子の幽霊は,ピンと来たようで,つぶやいた。
私は,とても混乱した。幽霊というものは,人が亡くなり、何らかの事情で成仏出来なかった場合だけ,起こる現象だと小さい頃から聞かされて来たのだ。息子が単に,災害に巻き込まれ,命を落としたのなら,無念な思いはないから、成仏出来るはずだ。目の前に息子の幽霊がいるということは,息子の死は,やっぱり,事故ではなかったということなんじゃないかな…?
私は,その時に決めた。絶対に息子の死の真相を突き止めて,明かすと。
いまだに,一向に, 実感が湧かないのだけれど,悠貴は,大豪雨で犠牲になってしまったそうだ。二週間前に,突然そういう連絡が入ったのだ。息子の遺体が川辺に打ち上げられ,発見されたそうだ。
しかし,納得が行かない。息子は,とても慎重で,用心深い性格だったから,豪雨など災害が起ころうとしている時に,外出をしたとは,とても考えられないのだ。悠貴なら,家にこもって,ニュースを見て過ごしていたはずだ。その悠貴が,激しい雨が何時間も降り続いている時に,川の近くへ徒歩で出掛けたなんて,信じられない。よほどのことがないと,そのような無謀なことを絶対にしない子だった。
このように,最初から息子の死には,どこか腑に落ちないところはあったが,事実として受け止めるしかないと思った。
訃報の連絡があった日は,単身赴任の夫に連絡をし,伝えてから,丸一日泣いて過ごした。夫は,すぐに帰ると言ってくれたが,断った。断ったのは,万が一,夫まで岩手県からの道中に,何か事故に遭ったりしたら,たまらないと思ったからだ。
葬儀は,もう終わったし,なるべく,余計なことを考えずに,普通に日常生活を送ることにしている。朝起きて,支度をして,仕事に行って,仕事が終われば買い物をして,自宅に帰ってからご飯の支度をし,ご飯を食べて,夫と電話で話してから寝る。悠貴のことをできるだけ考えないようにして,こういう生活を規則正しく続けることを心がけることで,息子を亡くしたという寂しさや助けられなかった悔しさを紛らわしている。一応,最近まで,そうしていた。
一週間前に,葬儀が終わり,自宅に帰ってみると,どことなく,いつもとは違う気配がしたのだった。誰かが私の帰りを待っていたような,一言で言えば,懐かしくて,心地よい気配だった。
荷物を置いて,着替えて,リビングに入ると,なんと息子の悠貴がソファに座っていたのだ。
息子というか,顔はどう見ても,息子の顔だったが,透明で,声をかけても,反応はなかった。
私は,恐る恐る息子らしい現象に近づいて行き、顔のすぐ前で,「悠貴?」と名前を呼んでみた。すると,息子が反応し,目を合わせてくれた。そして,口を開けて,こう言った。
「見えている?」
私が頷くと,「そうか…見える人もいるんだ…ところで,悠貴って誰?」
「え?あなたのことよ。」
私は,ドギマギした。
「そうか…僕は,悠貴と言うんだ…。」
息子は,幽霊になったせいか,自分とは誰なのか,忘れてしまっていたらしい。いわゆる,記憶喪失状態だった。
「どうして,僕のことを知っているの?」
息子の幽霊が私に尋ねて来た。
自分の息子にそう聞かれて,思わず涙が出そうになった。息子は、私のことまで忘れてしまって,全く覚えていなかった。顔を見てもわからなかったようだ。
「私は,あなたの母だから…。」
私が目に涙を浮かべて,言った。
「そういうことか…。」
息子の幽霊は,ピンと来たようで,つぶやいた。
私は,とても混乱した。幽霊というものは,人が亡くなり、何らかの事情で成仏出来なかった場合だけ,起こる現象だと小さい頃から聞かされて来たのだ。息子が単に,災害に巻き込まれ,命を落としたのなら,無念な思いはないから、成仏出来るはずだ。目の前に息子の幽霊がいるということは,息子の死は,やっぱり,事故ではなかったということなんじゃないかな…?
私は,その時に決めた。絶対に息子の死の真相を突き止めて,明かすと。
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