Catastrophe

アタラクシア

文字の大きさ
上 下
21 / 82
Hero of the Shadowルート (如月楓夜 編)

21話「悪夢の夜」

しおりを挟む
「俺には疑問があるんだ」

ログが言う。桃は俺の腕に抱きついたままだ。冬ではないが暖かくて幸せだ。

「まず、ゾンビは何で私たちを感知しているのかだ」
「そりゃあ匂いとかじゃないのかな?」
「だとしたらここら辺にゾンビがいないことの説明がつかない」
「まぁ確かにそうね」
「そもそもゾンビ自体に謎が多い。楓夜ならよく分かるだろうが、化け物は絶命すると灰になるんだ」
「……あ、ゾンビは灰にならないや」
「そうだ。ゾンビはその場に死体が残るんだ。これも謎だ。更にもう1つの謎がある」

ログが立った。窓があったであろう付近まで歩く。みんなもログについて行った。

「空を見てみろ」

言われるがまま空を見てみる。空は現実とは思えないほど清々しく晴れており、まるで今の終末世界が嘘のように綺麗だ。小鳥のさえずり、爽やかな風の音。全てがいつもの日常のように軽快に鳴り響いていた。
この状況の何がおかしいのか。確かに今の状況には合ってないが……ん?あれ?

「……?」

なんで小鳥はいつも通りなんだ?なんで何もないかのように飛んでいるんだ?人類が一晩で壊滅するようなことがあったのだ。普通は他の動物にも影響が出るはず。

「そうだ。この状況は
「……でも俺は狼にあったぞ」
「おそらくその狼は普通の狼だ。ヒルくんも普通の狼だし」
「え!?」

ヒルの方を見る。俺の隣で丸まって寝ているようだ。寝顔が可愛い。

「ヒル……お前普通の狼なのか……」
「私が会った人間以外の生物は全て普通だった。……最初はウイルスが蔓延したのかと思ったがもしかしたらそうでもないかもしれないな」

確かに俺もなんとなくウイルスかと思っていたが、何か色々とおかしいな。分からないことだらけだ。

「……考え事してたら頭が痛くなったわ。そんなことを考えるよりも、今の食料問題を解決する方がいいんじゃない?」
「……そうだな。変なことに付き合わせて悪かった」

ログがタバコに火をつけた。









「今日はここのスーパーに行く」

ログが地面に広げられた地図に指を指した。そこにはグリコスーパーと書かれている。

「チームAが俺とバジルと笠松。チームBがハンガーとマヤと楓夜とヒル。チームCがマギーとワイトと桃だ。チームAとチームBがスーパーに突入して、チームCが外で待機。この作戦で行くぞ」
「OK!」

食料の調達に行くらしい。できれば桃と一緒のチームになりたかったが文句は言えない。


みんなで準備をしているとワイトが何も持っていないことに気がついた。

「武器を持ってるのか?」
「僕っちは持ってない……もう弾薬切れた」
「なら俺の使っていいぞ。人から借りた物だから壊すなよ」

俺はバッグからウィンチェスター銃と弾を取り出してワイトに渡した。あんまり貸したくはないが、こういう時は助け合いだ。

「あ、ありがとう……これウィンチェスター銃だよね!?」
「うん」
「僕っちこの造形好きなんだ……ありがとう」
「あげるわけじゃないんだからな。ちゃんと返せよ」
「わかってるよ」

ワイトがお辞儀してくれた。正直ちょっと怪しいんだが。

「準備はできたな!行くぞ!」

ログが外に出た。俺たちもログについて行くように外に出たのだった。









月明かりが暗闇の世界を照らしている。空には様々な色と大きさで光る星が敷き詰められている。夏の涼しい空気が俺たちの体を包み込んでいた。

「なんで夜に行動したんだ?」

俺が隣にいたハンガーに話しかけた。

「ゾンビは夜に行動しない。おそらく寝ているんだろう」

そうなのか。確かに夜の校舎にはゾンビがいなかったな。

「着いたぞ」

ログが立ち止まった。目の前にはグリコと書かれたボロボロの看板を上に立てかけているスーパーがあった。なかなか広い。こんだけ大きかったら色々見つかるだろう。

「じゃあチームCはここに残ってて。チームAとチームBは突入するぞ」

ログを筆頭に皆が入り始めた。

「楓夜……無事でいてね」

桃と目があった。

「……おう」

俺はスーパーに突入した。




スーパーの中はやはり暗く、懐中電灯がなかったら何も見えなかった。匂いも結構きつく、食べ物が腐ったりカビてるせいで鼻が曲がりそうだった。俺は少し慣れてしまったがな。

「じゃあチームBは日用品コーナーに行ってくれ。チームAは食料品を探すぞ。30分後にまた会おう」

チームAの皆が食料品コーナーに向かっていった。食料品といっても食べられるものはもう既にほとんどないだろう。あっても缶ずめとかそこらだ。あまり食料品には期待ができないな。

「じゃあ俺達も行くぞ」

俺達も行動を始めた。





雑貨品の所にきた。分厚い雑誌やガムテープなどの結構使えそうなものを袋に入れていく。バッグの中身は拠点に置いてきてるのでヒルに多少は持たせられる。

「……化粧品って使えるか?」
「色々使えるよ。クレンジングは服の汚れを取れるし、口紅は黒錆取れるし。僕も僕もお世話になってたんだ~」

マヤが答えてくれた。割と使い道あるんだな、化粧品って。そういえばマヤはフィギュアスケートやってたって言ってたな。だから化粧品のこと知ってるのか。

「キッチンペーパーや新聞紙も多く入れておけよ。結構使えるんだアレ」
「食べたりでもするのか?」
「馬鹿言うな。食料が底を尽きた時はそうするかもだが……キッチンペーパーは折れば紙マスクとかランタンになるし、新聞紙はスリッパになるんだ」
「はぇ~」

色々と知識がついてきたな。色んな物にも使い道はあるもんなんだな。


しばらく物を漁っていたら、いつの間にか雑貨品は全て取り終わってしまった。

「どうする?まだ30分も経ってないぞ?」
「……俺達も食料探しに行くか」

ハンガーが歩き出した。俺も後ろについていく。しかしマヤは立ち止まったままだった。

「どうした?もう行くぞ」
「……あそこに何かあるよ」

マヤが指を指した。ハンガーが懐中電灯を当ててみると確かに何かがあった。

「ちょっと行ってみるか」

ハンガーがその謎の物体に向かって歩き出した。俺とマヤも気になったのでついていく。


ヒュゴゴゴゴ……

何か音が聞こえた。外で風が吹いている訳でもない。このパターンを俺は知っている。とんでもなく嫌な予感がした。

「……おい、ここはダメだ逃げるぞ」
「何か見つけたのか?」
「俺の勘が言ってる。ダメだ。何かがいる」
「も~。大丈夫だよ、中に何かいたらもう誰かが見つけて――」

俺は見た。ハンガーとマヤの前に大男が立っているのを。顔には頭巾を被っており、手には俺の身長の2倍はあるであろう大きなハンマーを持っている。男はそのハンマーを横に振りかざしていた。

俺の行動は速かった。ハンガーとマヤの服を掴んで、思い切り俺の後ろにやった――。










大男の振ったハンマーが俺の右腕に直撃した。しかし、持っていた雑誌でガードをしたおかげで腕が折れることはなかった。しかし衝撃は来る。

俺の体は置いてあった棚をなぎ倒しながら突き進んで行った。痛い。痛い。衝撃が脳を揺らしまくっている。

俺の体は奥の壁に叩きつけられた。鈍い音と共に壁にヒビが入った。腕が熱い。視界がグラグラする。呼吸ができない。立てない。死んではいないが生きた心地がしない。

視界がぼやけながらも立ち上がった。腕はビリビリしてる。痺れてるのかな。鼻も麻痺してる。さっきから匂いがしない。顔を叩いて前を向いた。暗闇にずっといたおかげで目は慣れた。

弓を握りしめる。右手は震えているが使える。弓は撃てる。矢の弾数は24本。後はヒルが持ってる。

皆の位置が分からない。どこに誰がいるのか分からない。ハンガーとマヤはどうなっているんだ。
俺は大男のいた方にじわじわと歩き出した。












続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら

フオツグ
恋愛
「私、異世界で推し活します!」 大好きな女性向けスマホゲーム【夜空を彩るミルキーウェイ】の世界に、聖女として召喚された日本の女子高生・イオリ。 イオリの推しは敵のゾンビ男子・ノヴァ。不良そうな見た目でありながら、真面目な努力家で優しい彼にイオリは惚れ込んでいた。 しかし、ノヴァはチュートリアルで主人公達に倒され、以後ストーリーに一切出て来ないのであった……。 「どうして」 推しキャラ・ノヴァを幸せにすべく、限界オタク・イオリは異世界で奮闘する! 限界オタク聖女×拗らせゾンビ男子のピュアラブコメディ!

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

気ままに
ホラー
 家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!  しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!  もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!  てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。  ネタバレ注意!↓↓  黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。  そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。  そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……  "P-tB"  人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……  何故ゾンビが生まれたか……  何故知性あるゾンビが居るのか……  そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

200年後の日本は、ゾンビで溢れていました。

月見酒
ファンタジー
12年間働いていたブラック企業やめた俺こと烏羽弘毅(からすばこうき)は三日三晩「DEAD OF GUN」に没頭していた。 さすがに体力と睡眠不足が祟りそのまま寝てしまった。そして目か覚めるとそこはゾンビが平然と闊歩し、朽ち果てた200年後の日本だった。 そしてなぜかゲーム内のステータスが己の身体能力となり、武器、金が現実で使えた。 世界的にも有名なトッププレイヤーによるリアルガンアクションバトルが始動する! 「一人は寂しぃ!」

神送りの夜

千石杏香
ホラー
由緒正しい神社のある港町。そこでは、海から来た神が祀られていた。神は、春分の夜に呼び寄せられ、冬至の夜に送り返された。しかしこの二つの夜、町民は決して外へ出なかった。もし外へ出たら、祟りがあるからだ。 父が亡くなったため、彼女はその町へ帰ってきた。幼い頃に、三年間だけ住んでいた町だった。記憶の中では、町には古くて大きな神社があった。しかし誰に訊いても、そんな神社などないという。 町で暮らしてゆくうち、彼女は不可解な事件に巻き込まれてゆく。

処理中です...