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3章「美しき水の世界」
117話「普通の少女と魔法使い!」
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ズルッ。
ヘキオンの体が地面に落ちる。
「――え?」
狼狽える。予想外。ノノもヘキオンの戦いを見ていたから分かっている。この子は闘争心の塊のような子だと。
どんなにダメージを受けても諦めずに戦う。それがこの子だと、僅かな時間であったが理解していた。
そんな子が目の前で倒れた。ノノだけでなく観客もその光景に動揺を隠せないでいる。
「ちょ、ちょっと……」
まだまだこれからって時だ。観客のテンションも上がってきた時だ。もっといい戦いが始まるはずだった。
ヒール。それは対象の人物の傷を治す技。
そう。あくまで傷だ。体の不調や疲労を治すことはできない。
1回戦はクリントン。2回戦はオフィサー。どちらも強敵。格上相手の2連戦。ヘキオンにとってかなりの負担となっていただろう。
そして最後のアクアブラスト。魔力自体は別に問題はなかった。問題があったのはその反動。疲労が溜まりに溜まった状態で撃ったのがいけなかった。
そもそもつい先日に拷問を受け、その少し前にも麒麟と戦っている。温泉に入ったり、多少はくつろいで寝れたりもしたが、そんなもので疲労が完全に取れるはずもない。
積もりに積もった結果。――それがこれだ。
「待ってよ。これで……終わり?」
起き上がらない。そんなヘキオンにゆっくりと近づくノノ。
ノノもこんな決着は求めていない。もっともっと戦いたかった。この少女と決着をつけたかった。
この子はこんなものでは無い。もっと強いはずだ。自分には勝てなくとも、もっと喰らいついてくるはずだ。
「こんな……こんなあっさり?嘘……立ちなさいよ……立ちなさいよ!!!!」
叫ぶ。怒鳴る。コロシアムに響き渡る声。怒りと悲しみが満ちた声だ。
「なんで……こんな勝ち方……望んでない……」
フワッとリベレイターが登場。倒れているヘキオンを覗き込む。
「ヘキオン選手戦闘不能!!よって――」
紙吹雪が上から舞い落ちる。クラッカーのような音と髪がリングを覆うように飛び上がった。
「――今年のブフィック闘技大会の優勝者は『ノノ』選手です!!!」
普通なら盛り上がりの頂点となるところだ。人々は叫び、喜び、跳ね上がる。そのはずだった。
しかし予想とは逆。静まり返る会場。誰もノノの優勝を喜ぶことはできない。できなかった。
それはノノ自身もそう。というかノノが1番納得していなかった。
「ね、ねぇ待ってよ。もう1回。もう一回だけやらせて。この子が全快してからもう一回だけ。……観客の人もこれだけじゃ満足してないでしょ?」
震える声でリベレイターに抗議する。しかしノノの期待している答えは帰ってこなかった。予想していた答えも違った。
「――できませんね。結果は結果です。それに観客の皆さんも案外満足していますよ?」
「え?何言って――「「「「ウォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」」」」
地響き。鼓膜が裂けそうになるほどの歓声が周りを包む。静寂から一瞬で轟音へとすり変わった。
「――えっ、えっ」
驚き。体が反応すらしないほどの驚きがノノに襲いかかる。先程まで不満や物足りなさを露わにしていた観客たちが満足そうに叫んでいるのだ。
「――?」
周りを見渡すカエデ。静かだった観客たちがいきなり立ち上がり、スタンディングオベーションをし始めたのだ。
流石のカエデでもびっくりする。夢でも見ているのかと錯覚する。
「なんでみんな……何が起こった?」
後ろを振り向く。勇者パーティの全員もノノの優勝を喜んでいた。
リベレイターに眼差しを向ける。この異様さ。あの男が絶対に関係している。カエデはそう理解した。
「一体何をしたんだ……」
何をしたかは分からない。だが何かしたのは分かる。しかし理由がわからない以上カエデから干渉することはできない。
そもそもそれほど悪いことは起きていない。干渉する理由が存在していない。
でも異常なのは確実。もどかしい思いをするカエデ。握りしめた拳の力を抜くことはなかった。
「――あなたの優勝ですよ。ノノ様」
「なんで……なんで……。こんな……こと」
腰が抜ける。歓声は狂声に。耳に入ってくる客の歓声が悪魔の声のように。ノノの耳の中を食い荒らしていく。
不本意な優勝。納得などできない優勝。その優勝を褒め称える観客たち。
全てが狂った中でノノは耳を塞いだ。隙間から狂声は侵入。防ぐことなどできない。
「あなたの優勝です。……おめでとうございます」
塞いだはず。それでも鮮明に聞こえる声。耳元で囁かれたその声はノノの脳に直接語りかけたかのような声であった。
続く
ヘキオンの体が地面に落ちる。
「――え?」
狼狽える。予想外。ノノもヘキオンの戦いを見ていたから分かっている。この子は闘争心の塊のような子だと。
どんなにダメージを受けても諦めずに戦う。それがこの子だと、僅かな時間であったが理解していた。
そんな子が目の前で倒れた。ノノだけでなく観客もその光景に動揺を隠せないでいる。
「ちょ、ちょっと……」
まだまだこれからって時だ。観客のテンションも上がってきた時だ。もっといい戦いが始まるはずだった。
ヒール。それは対象の人物の傷を治す技。
そう。あくまで傷だ。体の不調や疲労を治すことはできない。
1回戦はクリントン。2回戦はオフィサー。どちらも強敵。格上相手の2連戦。ヘキオンにとってかなりの負担となっていただろう。
そして最後のアクアブラスト。魔力自体は別に問題はなかった。問題があったのはその反動。疲労が溜まりに溜まった状態で撃ったのがいけなかった。
そもそもつい先日に拷問を受け、その少し前にも麒麟と戦っている。温泉に入ったり、多少はくつろいで寝れたりもしたが、そんなもので疲労が完全に取れるはずもない。
積もりに積もった結果。――それがこれだ。
「待ってよ。これで……終わり?」
起き上がらない。そんなヘキオンにゆっくりと近づくノノ。
ノノもこんな決着は求めていない。もっともっと戦いたかった。この少女と決着をつけたかった。
この子はこんなものでは無い。もっと強いはずだ。自分には勝てなくとも、もっと喰らいついてくるはずだ。
「こんな……こんなあっさり?嘘……立ちなさいよ……立ちなさいよ!!!!」
叫ぶ。怒鳴る。コロシアムに響き渡る声。怒りと悲しみが満ちた声だ。
「なんで……こんな勝ち方……望んでない……」
フワッとリベレイターが登場。倒れているヘキオンを覗き込む。
「ヘキオン選手戦闘不能!!よって――」
紙吹雪が上から舞い落ちる。クラッカーのような音と髪がリングを覆うように飛び上がった。
「――今年のブフィック闘技大会の優勝者は『ノノ』選手です!!!」
普通なら盛り上がりの頂点となるところだ。人々は叫び、喜び、跳ね上がる。そのはずだった。
しかし予想とは逆。静まり返る会場。誰もノノの優勝を喜ぶことはできない。できなかった。
それはノノ自身もそう。というかノノが1番納得していなかった。
「ね、ねぇ待ってよ。もう1回。もう一回だけやらせて。この子が全快してからもう一回だけ。……観客の人もこれだけじゃ満足してないでしょ?」
震える声でリベレイターに抗議する。しかしノノの期待している答えは帰ってこなかった。予想していた答えも違った。
「――できませんね。結果は結果です。それに観客の皆さんも案外満足していますよ?」
「え?何言って――「「「「ウォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」」」」
地響き。鼓膜が裂けそうになるほどの歓声が周りを包む。静寂から一瞬で轟音へとすり変わった。
「――えっ、えっ」
驚き。体が反応すらしないほどの驚きがノノに襲いかかる。先程まで不満や物足りなさを露わにしていた観客たちが満足そうに叫んでいるのだ。
「――?」
周りを見渡すカエデ。静かだった観客たちがいきなり立ち上がり、スタンディングオベーションをし始めたのだ。
流石のカエデでもびっくりする。夢でも見ているのかと錯覚する。
「なんでみんな……何が起こった?」
後ろを振り向く。勇者パーティの全員もノノの優勝を喜んでいた。
リベレイターに眼差しを向ける。この異様さ。あの男が絶対に関係している。カエデはそう理解した。
「一体何をしたんだ……」
何をしたかは分からない。だが何かしたのは分かる。しかし理由がわからない以上カエデから干渉することはできない。
そもそもそれほど悪いことは起きていない。干渉する理由が存在していない。
でも異常なのは確実。もどかしい思いをするカエデ。握りしめた拳の力を抜くことはなかった。
「――あなたの優勝ですよ。ノノ様」
「なんで……なんで……。こんな……こと」
腰が抜ける。歓声は狂声に。耳に入ってくる客の歓声が悪魔の声のように。ノノの耳の中を食い荒らしていく。
不本意な優勝。納得などできない優勝。その優勝を褒め称える観客たち。
全てが狂った中でノノは耳を塞いだ。隙間から狂声は侵入。防ぐことなどできない。
「あなたの優勝です。……おめでとうございます」
塞いだはず。それでも鮮明に聞こえる声。耳元で囁かれたその声はノノの脳に直接語りかけたかのような声であった。
続く
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内容も分かりやすくてスッキリしているから面白いです!カエデ君強すぎ!
コメントありがとうございます!
カエデ君の強さの秘密はこれから明かされたり、明かされなかったりするかも……。
この後も是非お楽しみください!