無職で何が悪い!

アタラクシア

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2章「宝石が並ぶ村」

65話「早く向かえ!」

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上から降り注ぐ砂粒。何かが揺れている感覚をヘキオンは感じた。

「……なんだ?地震か?」
「また?ちょっと前にも起きてたわよね。確か地割れが起きてて……この子って地割れから落ちてきたのかしら」

ぐったり。内蔵、口内、喉のダメージ。抵抗も動く余力もない。ただだらんと吊られている。


「まぁいいでしょう。さぁてね、まだまだ出してくれるわよね――」

殴ろうとした時。扉が強く開かれた。現れたのは1人のクリスタリアン。

「なんだ。今はパートルズを集めているところなんだが――」
「緊急事態です!!上で……上で人間が暴れています!!」
「……は?」

振り向く村長。ぐったりとしているヘキオンの髪を掴み、自分の方へ向けさせる。

「お前……仲間がいたのか?」
「……」
「いたのかと聞いているんだ!!!」

顔を殴る。残っていた口内の血が地面に吐き捨てられた。


「クソ……数は?」
「それが……その……」
「なんだ、はっきり言え!!」
「――1人です」
「……な、何を言ってるんだ?1人?1人ならさっさと殺せばいいだろう?」
「それが……とんでもなく強いんです……既に何人も殺されました」

流れ落ちる血。重くなった脳を持ち上げながら

「――カエデ……さん……」

そう呟いた。









走る。カエデが走っていた道を走り抜ける。呼吸を乱し、地面を踏み込み続けていた。

「カエデは大丈夫かな?」
「……それよりも心配するべきはヘキオンだ。まだ生きてるといいが」

見えるは光刺。その奥での音に冷や汗をかきながら、男と少女はその光に身を包んだ――。




「――これは……」

踏み込んだ地面。砂のような感触を足裏から感じた。キラキラした美しい砂。サラサラした柔らかな小砂たち。地面に散漫していたのはそれだ。

それがなにか。ウォーカーはあまりピンときていなかった。だがなんとなくそれを理解することはできる。

スプリングはハッキリとそれがわかった。それがなにか、それをしたのは誰か。頭でも、心でも、体でも理解できた。


奥で聞こえるのは怒号。怒りに満ちた声。聞いてるだけで足がすくむ。

「――カエデ」

その声の主がカエデというのはすぐに分かった。


「……今のアイツに会うのは危険だな」
「そんなのは分かってるよ」

2人に纏われる黒い影。ダークナイト私は黒く。色を消し、自分の存在感を消す技。単純な技だが、レベルが上がるほどにその効力は強くなる。

「村長の家だ。そこにさえ行ければなにかはあるはず」

纏われる青白い光。サイレント音よ、消えよ。単純に自分の発する音を消す技だ。これは他者にも分け与えることができる。サイレントはウォーカーにも分け与えられた。

「すぐに終わらせるぞ」
「――了解」

2人の仕事が開始された。









「ここだ」

村長の家。まだギリギリ建物が残っていた。すぐ近くに雷のような声を出すカエデがいる。

その怒り方で分かる。もう正気ではない。会えば殺される。見つからないようにしなければならない。それなら2人の得意分野。いつもしてきたことだ。




音を極限まで減らし、その家の扉を開ける。

中はまだ明るい。先程までヘキオンたちと居た机にはまだ食事が置かれてあった。

「解析する。少し離れていろ」

ウォーカーを後ろへ。片手を前にして魔力を込める。手先は紫色に。オーラが圧縮して手の中に収まる。


ローカルマップ私は全てを見透かす


収まった光は家の全てを包み込んだ。情報が頭の中へと入っていく。家具の位置、家の構造、食料の数、ホコリの数までもが形や数字となって脳内に刻まれる。


「――見つけた!」

走るスプリング。目的地は台所。冷蔵庫の下。

「何を見つけたの?」
「穴だ。隠し部屋。地下に広がってる場所がある!」

スプリングよりふた周りもでかい冷蔵庫を倒した。その下。確かに穴がある。大人でも余裕で入れそうな穴。

そこまで深くはない。3mほど。着地すれば足がジーンとするぐらいの深さだ。

「……気おつけてろ。相手はクリスタリアンだ。お前がまともに戦うのはキツいぞ」
「うん!」

隠し穴へと突入。怒りで暴れるカエデに耳を傾けながら。












続く
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