無職で何が悪い!

アタラクシア

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1章「対立するエルフの森」

43話「悪い夢は終わり!」

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――次の日


「よ!元気かヘキオン」

ここはウッドエルフの村。ヘキオンはクエッテの家で療養していた。

そんなヘキオンのお見舞いに来たのはカエデだ。


「――元気そうに見えます?」

左手と頭に巻かれた麻布。それでは隠しきれないボロボロの体。誰がどう見ても元気そうではない。

「内臓まで傷ついているから物も食べられませんよ……」
「だろうな。見るからに腹が減ってそうだし。ダイエットにちょうどいいんじゃないか?」
「太ってませんし!!」

プンスコ怒るヘキオン。

「冗談だよ、冗談。スタートタウンから医者持ってきたから見てもらうといいよ」
「むぅ。分かりました……ってスタートタウン?持ってきた?」

ヌルッと入ってくる老人。クレインの時にヘキオンを看病してくれてたおばさんだ。

「久しぶり……ってほどでもないわね。これまたボロボロになっちゃってぇ」
「え?え?な、なんで?なんでいるんですか?」
「だから言っただろう。って」
「えぇ!?ほんとに持ってきたんですか!?それいいんですか!?」
「すぐ返すからいいだろ」
「そんな物みたいに……」


カエデに持ってこられたことに対しての言及はしないおばさん。なかなか寛容な人らしい。

「じゃあまずは体見るからね。服脱がせるわよ」
「はい――」

チラチラとヘキオンを見るカエデ。どれだけ強いと言ってもまだ17歳。絶賛思春期である。目の前には好きな女の子。見るのは当然だ。

「――あの」
「ん?」
「ちょっとだけ出てってくれません?」
「な、なぜ?」
「あの……服脱ぐんで……」
「あーわかった」

壁の方に顔を向けるカエデ。

「よし。いいぞ」
「よし、じゃないです!出ていってください!」
「えー。出ていかないとダメ?」
「ダメです!」
「裸なら後で私が見せてあげるから、はやくでていってあげなさい」

優しく呟くおばさん。

「……誰がババアの裸なんか――」
「ここにね、体内に入れると自動的に爆発する注射があるんだけど……何か言った?」
「すみませんでした。早く出ていきマース」

カエデが溜め息を着く。寂しい背中をヘキオンに見せつけながら、家からヌルりと出ていったのだった。



家から出てきたカエデを待っていたのは、クエッテとザッシュだった。

「ヘキオンの様子はどうだった?」
「元気だよ。回復魔法をかけてもらったら完治すると思う」
「良かったぁ……」

2人が胸を撫で下ろす。

「……残念だったね。ヘキオンの裸が見えなくて」
「き、聞いてたのかよ……」

意地悪な笑みを浮かべるクエッテ。そのイヤ~な笑みにカエデはたじろいだ。

「まぁ私たちは結婚してるからお互いの裸は見放題なんだけど……ね♡」
「そうだ……な♡」
「うっぜぇなこの夫婦」

ザッシュに寄りかかるクエッテ。まさしく夫婦。日本で思い浮かべる夫婦といえば……の構図だろう。

「カエデもはやくヘキオンと結婚すればいいのに」
「――け、けけ、結婚!?」

顔を真っ赤にお照らせるカエデ。その紅さはまるでりんごのようだ。

「ば、馬鹿っ!結婚は段階を踏まないとダメだろ!!まずお付き合いから初めて……」
「一緒に旅をしてるんでしょ?もうほとんど付き合ってるのと一緒じゃーん」
「まぁ……それは……そうだけど」

ザッシュがカエデの肩を組んだ。クエッテはカエデの隣にサッと移動し、ザッシュと同じくカエデの肩を組む。

「ヘキオンって可愛いからなぁ……もしかしたら他のイケメンに先越されるかも……」

ビクリと震えるカエデの体。

「『カエデさんとの旅は辞めて、この人と幸せに暮らします!』……なぁーーんて。言っちゃうかもねぇ……」
「それは……あの……なぁ……」
「今のところあなたに恋愛感情はまぁぁぁっっったく抱いてないようだけどねぇ。……どうするの?」
「……まぁ……いつかは……ちゃんと告白……するし」
「「キャー♡若ーい♡」」

まるで女子高生のようにはしゃぐ夫婦二人。

「子供の名前とか決めてるの?」
「それはまだ早い――」
「何歳になったら結婚?」
「だからまだ早いし決めてな――」
「結婚式はどこで上げるの?」




「――だァァァ!!うるせぇぇなお前ら!!」

顔を真っ赤にして木の棒をブンブン振り回すカエデ。

「キャー!これが2回も好きな人を救った武器?かっくいいー!」
「えー?そうなのー?す♡て♡き♡」
「おぉう!?てめぇら許さねぇからな!眉毛全部引っこ抜いてやる!!」

村を駆け回る3人。そんな3人をウッドエルフたちは微笑ましそうに見ていた。



「外が騒がしいですね……」

上半身裸のヘキオン。背中に聴診器を当てられながらそう呟いた。

「元気なのはいいことよ。クエッテちゃんっていう子ももう元気にしてるわ」
「それならよかったです――ひゃあ!?」

突然、背中をバチンと叩かれる。さっきのカエデのように体がビクリとはねる。

「だいぶ無茶したでしょ?」
「……あはは」
「もーう。ダメじゃない。腸もほとんど機能しなくなってたし、左腕ももう少し遅れていれば私の回復魔法でも治せなかったわよ」
「反省します……」

しょんぼりとする。微笑ましそうに見るおばさんの顔は徐々に解かれていった。

「無事だったからいいわ。あなたはいい体してるんだから、もうちょっと自分を大事にして生きなさいね」
「……以後気おつけます」
「まぁ、こんな約束をして守った冒険者はいないけどね」

プッと吹き出すヘキオン。つられて笑うおばさん。2人の優しい笑いが部屋を包み込んだのだった。












続く
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