無職で何が悪い!

アタラクシア

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1章「対立するエルフの森」

40話「作戦会議!」

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「……まぁいい。水に流してやる」
「水属性は私の方だけどね」
「うるせぇよ」

未だに喧嘩している2人。それを麒麟は静かに見ていた。

「何かあいつを倒す手立てはあるのか?」
「え?ないけど」
「――まじかよ。そんなんでよく戦えたな」
「私、天才ですから」
「あーくそ。すげぇ腹立つ。なにか考えろよ。麒麟は考え無しに倒せるような相手じゃないぞ」
「そんなこと言われても――」



駆け巡るヘキオンの記憶の中。数え切れないほどの記憶の中に、まるで運命のように1つ思い出した記憶があった。



ヘキオンが首を振る。

「じゃあ作ろっか。近くに枝とツル持ってこよ」
「?普通に魔法で獲らないの?こう……雷でバチバチっと。そうすれば焼く必要もないし」
「そんなに細かい操作はできない。それに川は電気をよく通す。そうなったら川の魚が大量に死んでしまう」
「はえー。そうなんだ」

納得するヘキオン。まるで幼児番組の教育コーナーに出てくる生徒役の子供のように頷いている。


電気。
水。
川は電気をよく通す。



「――思いついた。これならいける。これなら勝てる!!」

突然の大声に驚くフラグメンツ。

「な、なんだ?」
「思いついた!いい考えが思いついたよ!」

手招きをする。不審がりながらも近づくフラグメンツ。

「あのね、――」
「――」



「――そ、それ。……お前死なないか?」
「大丈夫!……た、多分」
「ダメじゃねぇか!お前に死なれるとクエッテの信用を失うんだよ!!」
「――私なら大丈夫だよ。信用して」

ヘキオンの碧い瞳がフラグメンツを移す。その目には謎の信頼感を感じさせられる。

「……はぁ。分かったよ」

溜め息。その溜め息は諦め……では無い。信頼を感じさせる溜め息だ。

それほど関わりがなかったフラグメンツを信頼させる目。自覚があるのかは分からないが、ヘキオンにはそんな謎の力を持っていた。


「ここまで来てやったのにまた離れるとはな……」
「じゃあ任せたよ!」

フラグメンツが走り出した。ヘキオンの後ろ。森の奥へ奥へと全力で走り去っていく。


『せっかく助けに来たエルフを逃すのか?』
「作戦があるの、作戦が。……それよりとっとと始めようよ」
『そうだな。そろそろ決着をつけよう……』

ヘキオンは拳に水を纏わせた。




――同時期。

クエッテが木の下に寝かされている。その近くではダークエルフたちをザッシュやウッドエルフたちが避難させていた。

「ほらほら早く来て――」
「ちょっと!そっちじゃない!」

みんな苦戦している様子。周りではまだ雷がバンバン落ちている。その場に止まっていては全員死んでしまう。


「――みんな……」

涙をホロりと流す。何も出来ない自分。すぐにでもみんなを助けに行かなければならないのに、自分はまだ動くことが出来ない。

その情けなさに涙を流していた。頬の痛みなど今は感じない。心の方が痛かった。

なんとか体を起こそうとするが、起きることはできない。マネキンのように体の動きがぎこちない。

「は、はや、はやく……行かないと……」

過呼吸になりながらも立ち上がろうとする。



「寝てろ」

額を指で押し込まれ、地面にまた寝転がされる。押したのはカエデ。隣には村長がいた。

「……カエ……デ」
「顔の骨が砕けてるな。安静にしてるんだ」
「ヘキ……ヘキオンが……」
「分かってる。あの子なら大丈夫だよ」
「大……丈夫じゃ……」
「大丈夫。大丈夫さ。ヘキオンは強いからね。自分よりも強い人狼と対等に戦ったりしてるんだぞ」
「……?……人狼って……なに?」
「……とにかく強いってことだよ」

ダークエルフの方に顔を向ける。まだまだみんなが慌ただしくしていた。

「村長。クエッテを木から離せ。木の近くだと雷が落ちる可能性がある。その後はみんなに混ざって避難させてやれ」
「わ、分かった」
「カ、カエデ……」

涙目でカエデを見るクエッテ。その目は「ヘキオンを助けてあげて」と訴えてるかのようだった。

「……わかったよ。危なくなったらヘキオンを助けに行く。それよりも今は他のダークエルフを避難させる方が先決だ」

まだ納得はしていないようなクエッテだったが、自分では何もすることが出来ない。


「はは……大丈夫だよな……ヘキオン」

呟くカエデ。その声は信頼している……と言うよりも、心配していると言った方が正しいのだろう。












続く
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