無職で何が悪い!

アタラクシア

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1章「対立するエルフの森」

23話「灰被りのエルフ!」

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「――それで何をしに来たんだ?」

ザッシュが不思議そうに顔を傾ける。

「あぁそれは――」








「――へぇ。動機は不純だが、ありがたい話ではあるな」
「やっぱ金よ金。荷物燃やされたから物資も補給したいし」

完全に友達感覚で話す2人。傍から見たら親友のように見えるだろう。


「――それでだ。友好関係を築くにはダークエルフ側の意見も聞きたいんだ」
「なら長老のところに行くか。今この村で1番権力を持っているのは長老だからな」

頷く3人。ザッシュが「歩きながら話そう」というのに合わせて4人で歩く。


「そういえばザッシュは……そのダークエルフがウッドエルフの村に襲撃してきた時に居たのか?」
「いや、俺はいなかった。ちょうど病気にかかってたからな」
「その時に村のヤツらはなんか言ってたか?」
「さぁ……覚えてない」

ある家の前で立ち止まった。ザッシュの家よりもふた周りくらいは大きい家だ。

「ここだ」

暖簾のような布が貼られてある入口を通り抜ける。


「……おぉザッシュか」

中にはかなりの老人がいた。シワだらけの顔でかなりの小柄。ヘキオンに勝るとも劣らない身長だ。


「やぁ長老。元気かい」

椅子に座ってる長老の周りを軽く掃除するザッシュ。

「何しに来たんだ……?」
「いい話だ。ウッドエルフとの仲が良くなるかもよ」
「……冗談も休み休み言え。アイツらが私たちのことを許すわけがないだろ……」

ひどく暗い声だ。しゃがれてるのも相まってすごく寂しそうな声にも聞こえる。

そんな長老にザッシュは明るい声で話しかけていた。

「そこにいる人間が見えるか?アイツらは俺の嫁が連れてきた信頼のできる人間だ。こいつらが仲を取り持ってくれるってよ!」
「たかが人間に何ができる……ワシらはダークエルフだぞ。他の種族から嫌われてるようなヤツらだ。……今更仲良くしたって無意味……」
「――無意味なんかじゃないさ」


力なく座っている長老の前に跪いた。ダランとしている長老の目線に顔を合わせる。

「無意味な憎み合いはもう終わりだ。今の時代は手を取り合って行かないといけない。いつこの森も強い魔物に襲われるかは分からないんだ。諦める前に話し合うのも一つの手。やってみる価値はある」
「……謝ろうとはしたさ。話し合おうとはしたさ。ウッドエルフの村を襲ったのは事実。……村に行きはしたが、追い返されたよ。殺されなかっただけマシだが」
「今は俺がいる」

力強い声。でも優しい。聞くだけ安心できるような声をカエデは出した。

「……本当に……話し合えるのか?」
「話し合わせてやる。だから俺に協力してくれ」
「……信じよう。信じさせてくれ。その言葉」

さっきまで暗い声だった長老に光がともる。希望を得たかのような表情になった。細い手足に力も宿っている。超短時間で見違えるほど変わった。

そんな姿を見てニヤリと笑うカエデ。


「これでよしだな。あとは話せる状況を作るだけだ」
「何か策はあるんですか?」

ヘキオンが不思議そうに問いかけてくる。カエデはただ一言。

「いや無い」

一言。ただ一言。そう言った。

「――え?いやないんですか?」
「いざって時は武力行使で――」
「ダメです!!絶対ダメ!!もっと仲悪くなりますよ!!」
「嘘だよ。軽い冗談だ」
「カエデさんが言うと冗談に聞こえないんですよ……」

軽く涙目になるヘキオン。

「高圧的だったとはいえ村長も話は聞いてくれただろ。話は分かるヤツだと俺は思うんだけどな」
「そうですかねぇ……」




「長老さん。白銀の宝玉ってどこにあるの?」

クエッテが長老のもとに歩み寄る。

「……古き者の柱。柱の傍にある小さな穴にある。穴は洞窟と繋がっている。その洞窟の最深部に宝玉はある。……あんなものがなぜ必要なんだ」
「この人間たちは金が欲しかったら宝玉を取ってこいって言われてる。……残念ながらこの人間はウッドエルフのみんなに信用されてない。なんなら殺されかけてる」

照れくさそうにカエデは頭をかいた。そんなカエデをバシッと叩くヘキオン。

「話合わせる前にこの人間たちを信用させる必要がある。宝玉を渡せば人間たちのこともある程度は信用してくれるはず」
「……なるほど分かった。ザッシュ、案内を頼んだぞ」
「オーケーだ村長!」

ザッシュは勢いよく自分の胸を叩いた。






村に不釣り合いな白い柱。長老の言っていたとおり、その傍に人が1人入れるくらいの小さな穴があった。

底を確認することはできず、下はただひたすら暗闇が続いている。そんな穴にヘキオンはゾクリとしていた。

「ここが長老の言っていた穴だ。この中に宝玉はある」
「やった。じゃあさっさと行って――」
「その前に1つ。ここから先、は入ることができない」
「え?なぜに?」
「それは俺も分からない。謎のバリアみたいなのが貼られてあるんだ」

ヘキオンが脚を穴にちょんとつける。

「……?」

穴に。ヘキオンの体は穴へと落ちることなく、まるで空中浮遊してるかのように立っていた。

穴の上でジャンプするがまったく変化する様子もない。落ちることも無い。

「ほんとだ。入れない」

水を纏わせた脚で地面を踏むがなにも変わらない。

「ちょっと退いて」

カエデが穴に脚をちょんとつける。ヘキオンとは違い、普通に脚は穴へと入っている。


「確かに女性は入れないようだな……じゃあ俺行ってくるか」
「案内役も必要だろ。着いていくぞ」

肩をコキコキ鳴らすザッシュ。

「気おつけてねザッシュ……」
「大丈夫だよ。すぐ戻る」

クエッテに優しく微笑んだザッシュは直立で穴へと落ちていった。


「……」
「あれ?俺のことは心配してくれないの?」
「カエデさんなら死にはしないでしょ?私はクエッテさんとのんびりしてます」
「ちぇー……いいもんね。さっさと終わらせてくるから」

不貞腐れたような顔を浮かべたカエデもザッシュに続いて穴へと落ちていった。












続く
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