上 下
70 / 72

策士【ライル視点】

しおりを挟む
「お疲れ様でございました」


「あぁ、お前達もな」


血生臭い王の部屋を出て、かけられたディーンの言葉に、周囲に集まった臣下達の顔を見渡す。

「随分と長い間、お前達に我慢を強いたな。こんな不甲斐ない主人に利がない中、仕えてくれていた事に感謝する」

そう告げると、その場にいた者達がバラバラとその場に膝をついて頭を垂れた。
中には泣いている者もいる。

正直、自分は海賊のあの生活に満足してはいた。しかし従ってきてくれていた臣下達は皆が皆、納得しているとは思っていなかったが・・・。

やはりここまで悔しい気持ちを押し殺して、不甲斐ない主人をもどかしく思ってもいたのだろう。

彼等の名誉と、人生までも自身の勝手に巻き込んでいた事を申し訳なく思う。

「とりあえず、まずは内政を把握しなければな。ディーン、宰相と議会長の身柄は抑えてるな?早急に面会する手配を整えてくれ。エリオット、近衛を掌握してくれ。ディンゴは今城外を包囲している軍の対応を頼む。現在の軍司令はエドラン卿だな、話が通じる男だからそう難航はしないだろう」

次々と指示を飛ばせば、臣下達は生き生きとして立ち上がって、走っていく。

ここまできたら、これ以上無駄な血を流すことは無意味だ。今度は被害を最小限に抑えることに心血を注がなければならない。

「しばらくは、寝る間もないほどに忙しくなりそうだな」

「御覚悟があるならば良かったです」

ため息まじりにつぶやくと、他の者たちに指示を飛ばし終えたディーンがホッとしたように息を吐く。

「なんだ?流石に今すぐ全てをかなぐり捨ててリリーを探すだなんて事は言わんぞ?だいたい、お前の事だから、リリーの居場所は把握しているのだろう?」

俺だってそこまで馬鹿ではないぞ?と忠臣を睨めつければ、ディーンからは何故かとても驚いた視線を向けられた。

「次の私の仕事は、すぐさまリリー様を探しに行こうとする貴方様を諫めて玉座に縛り付ける事だと思っておりました。」

どうやら本当に、そんな馬鹿だと思われていたらしい。

「お前、よくそんな男に忠誠を誓ってついてきているな。流石に人の命を奪ってまで得たのだから、王として国民へのの責務は果たするつもりだぞ?」


俺の言葉に、ディーンは心底安心したというように息を吐いて

「ならば、よいのですが・・・ご安心下さいリリー様の所在は把握しております。お子様もご無事にお産まれになってすくすくとお育ちだと聞いています」

と信じられない爆弾を投下した。


「は!?子!?誰の?まさかリリーは既に他の男と??」

「まさか、陛下のお子だと伺っていますよ。新大陸に渡ってすぐご懐妊が分かったそうですから」

「っ!それは本当か!?すぐに迎えを!」

「御身の周りの安全の確保と内政を安定させなければ、現状の状況ではお二人を守りきれません!そこは少し堪えて国王としての責務に集中して下さい。リリー様とお子様の御身の安全には最適な者をつけておりますのでご安心を」

ピシャリとディーンに取りなされて俺は言葉を失う。

「まさか、お前、そのために今までその事を黙っていたのか?」


「そうとなれば、陛下は死に物狂いで働くでしょう。早く国が整えば、それだけその後の治世も楽になるはずです」


ニヤリと笑った彼は、「では私も御命を片付けてまいります」と長い回廊を歩いて行ってしまった。


「もしかして俺は随分と前から、ディーンの手のひらの上で転がされていたのか?」

ディーンの背中を見送りながら呆然と呟くと。

「それは、僕程度では分かりかねますが・・・ディラン書記官ならあり得る事と思います」

今までそばに黙って控えていたギルが恐る恐ると言った様子で同意した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

悪役令嬢ですが、ヒロインが大好きなので助けてあげてたら、その兄に溺愛されてます!?

柊 来飛
恋愛
 ある日現実世界で車に撥ねられ死んでしまった主人公。    しかし、目が覚めるとそこは好きなゲームの世界で!?  しかもその悪役令嬢になっちゃった!?    困惑する主人公だが、大好きなヒロインのために頑張っていたら、なぜかヒロインの兄に溺愛されちゃって!?    不定期です。趣味で描いてます。  あくまでも創作として、なんでも許せる方のみ、ご覧ください。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

溺れかけた筆頭魔術師様をお助けしましたが、堅実な人魚姫なんです、私は。

氷雨そら
恋愛
転生したら人魚姫だったので、海の泡になるのを全力で避けます。 それなのに、成人の日、海面に浮かんだ私は、明らかに高貴な王子様っぽい人を助けてしまいました。 「恋になんて落ちてない。関わらなければ大丈夫!」 それなのに、筆頭魔術師と名乗るその人が、海の中まで追いかけてきて溺愛してくるのですが? 人魚姫と筆頭魔術師の必然の出会いから始まるファンタジーラブストーリー。 小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...