上 下
67 / 72

【数年後】とある小さなパン屋の出来事②

しおりを挟む
「うそっ・・・」

「嘘じゃない。長い間我慢して、苦労してこうして来たのだから、嘘だったら俺が困る」

肩を竦めて、悪戯めいた笑みのままの彼はそう言って私の手を握る。

「陛下」

ライルの後方に控えていたディーンが前に出てきて、ライルに何か小さな箱を大切そうに差し出した。

「ん、そうだな」

それを同じように大切そうに両手で受け取ったライル・・・あれ?待って!今ディーンは彼をなんで呼んだ?

「っ、へい・・・か?」

問うようにライルとディーンを交互にみると、2人は不思議そうな顔をして、ロブに視線を向ける。

「なにせ違う大陸のしかも内陸部の田舎街ですからね。そちらの情報なんて滅多に入らないんですよ!貴方様の真意も分からなかったし、いつ迎えにこられるほど立派になられるかも分かりませんでしたから。下手にお伝えして、変にリリーに期待を持たせるのも酷だと思いましてね」


「そんな事言って、お前あわよくばリリーが俺の事を諦めて自分に靡かないか何も知らせず様子を見ていたんじゃねぇか?いつの間にかリリーとか呼ぶようになってるし」

皮肉気に笑って肩を竦めたロブをライルは軽く睨め付ける。

「それは、あったに決まってるじゃないですか?あんまりモタモタしてるから、そろそろもう一度求婚しようかと思っていたところです。それに、ここの街の人達には私達の事を夫婦だと説明していますからいつまでも『お嬢様』なんて呼んでいたら不自然でしょう?」

「っ、夫婦である必要あるか?兄妹とか他にもっと」

「赤子がいるのに?それこそ訳ありに見えて変に詮索されるだけですよ。嫌なら王座を奪還した後に、さっさと迎えにきたら良かったんですよ」

「っー!俺だってそうしたかったに決まってるだろう!だが、内政がなかなか整わなくてだな!」

ギャンギャンと子供のように言い合う2人の会話の中身を混乱する頭をどうにか動かしながら整理していく。

陛下、王座の奪還、迎えに来た・・・それじゃあ。

「ライル・・・国王になったの?」

だってあれほど王座の奪還に興味ないって

王子は捨てたって

困惑して問いかけた私の言葉に、ライルがもう一度私の手を握り直してこちらを見上げた。


「俺の望む未来の全てがリリーと共にある事だった。リリーと安心して生涯一緒に居られる状況を作らないと、また同じ事を繰り返す。ならば手っ取り早く俺らの障害になっている物を壊せばいいって考えたんだ」

「っ、そんな無茶苦茶な理由で!?」

「無茶苦茶も何も、俺にとってはリリーがそばにいる事が最優先事項なんだから仕方ないだろう!そのためなら国王なんて面倒な役目くらい背負ってやるさ。元々海賊になった目的も同時に果たせるしな」

なんでもない事のように、カラリと笑う彼に懐かしさを覚えつつ、なんだか色々な事に驚きすぎた私は、ヘタリとその場に座り込みたい気分になる。


そんな私の気持ちをどこまで理解しているのか、ライルは説明は終わったとでも言うように、改めて姿勢を正すと、手にしていた小箱を開いた。


「っ、これ!!」

その中に入っていたもの・・・それは祖国の女性では知らない人はいない、王妃の象徴である大きなブルーダイヤモンドの指輪だった。

「リリーシャ・ルーセンス嬢。どうか私の妃に。そして毎日俺のためにパンを焼いてくれないだろうか?」

言葉を失う私を見上げた彼が、優しく笑う。
そうして、私の足元にしがみついたままになっているラピスに視線を向ける。

同じアイスブルーの瞳が見つめ合う。

こんな日がやって来るなんて夢にも思っていなかった。

「ラピス。君にもとても会いたかったよ。すぐに迎えに来られなくてごめんね」

そう言って、自身と同じラピスの金色の髪を撫でた彼が柔らかく微笑む。

この子がどういう子なのか、すでに彼は理解しているらしい。

それにも驚きを隠せない私に視線を戻した彼がまた困ったように笑う。

「実は俺の子を、リリーが孕っている事が分かったってロブからディーンに報告は入っていたんだ。だけど、コイツ等俺が逸る事を懸念して黙っててさ。知ったのは、王座に着いてからだったんだ。大事な時に居てやれなくてごめんな」

きゅうっと私の膝にしがみつくラピスの力が強くなる。
つられるようにラピスに視線を向ければ、私の顔をしっかり見上げる彼と同じ色の瞳と視線が合う。

「ママ、ラピスのパパはラピスと同じ色なのよね?このおじさんがラピスの本当のパパ?」

「おじさん・・・かぁ」

ガクリと項垂れるライルに、「まぁ、これくらいの子どもにはおじさんで仕方ないですよ」とディーンの冷静な取りなしが入る。

私はしっかりとラピスの目を見て頷く。

「そうよ、ラピス。この人が貴方のパパなのよ」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。

sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。 気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。

せいめ
恋愛
 婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。  そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。  前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。  そうだ!家を出よう。  しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。  目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?  豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。    金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!  しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?  えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!  ご都合主義です。内容も緩いです。  誤字脱字お許しください。  義兄の話が多いです。  閑話も多いです。

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

処理中です...