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解せない

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ライルから、少し待ってくれと言われたからには、いずれなんらかの説明があるかとは思っていた。

それなのに待てど暮らせど、一向にそれらしい話も説明もなくゆるゆると時は流れていった。

改まって説明するほどの事でもなかったのだろうか?

それとも、すでに解決してしまって、話す必要がなくなってしまったのだろうか?

一度それとなく、ライルではなくディーンに探りを入れてみたけれど、もと王子付きの最側近であった彼がライルよりもちょろいはずはなく・・・

「ん?なんのお話でしょうね?私にはいまいちピンと来ませんが?ライル様に伺うのが1番かと?」と首を傾げられ、それらしくとぼけられてしまった。

「解せないわ!」

プチンプチンと乾燥させた豆の莢を割りながら一人つぶやく。

おばあの家の軒先で1人、豆を出す作業をしながら、ぼんやりそんな事を考えていたものだから、つい大きな独り言を呟いていた。


「喧嘩でもしたかい?」

「っ!おばあ!」

誰もいないと油断しきっていたところに、不意に声をかけられて、飛び上がりそうになるのを堪えて振り向けば、そこには「何だい?化け物を見るような顔するんじゃないよ!」と、呆れた様子のおばあが立っていた。

彼女の手には、盆に乗ったお茶が乗っていて・・・あぁ休憩を促しに来てくれたのだと理解する。


「ごめん!ボーっと考え事してたものだから」

肩を竦めてお茶を受け取りながら弁解すれば、おばあはやれやれと息を吐きながら、私の後ろの椅子に腰掛けた。


「大きな独り言だったね。何が解せないんだい?どうせ頭絡みだろう?ほら!聞いてやるよ!」

そう言ってすっかり聞く体制に入ったおばあに私は苦笑して、少し向きを変える。


「何ってないのよ?ただなんか隠し事をされてるみたいで・・・いずれ話してくれるって言うから待っているんだけど・・・なんだか有耶無耶にされてるような気がして。」

「なるほど、それは解せないな」

私の説明におばあは、一つ息を吐いて頷いた。

「あの男も難儀な宿命のある男だからね。あんたに心配をかけまいとしているのかもしれんがな!」


「っ!おばあ知ってるの!?」
驚いて見上げれば、おばあは皺だらけの目を瞑って、ゆるゆると首を横に振った。


「伊達に長く生きていないからね。ガサツに見せてはいるものの、染み付いた立ち居振る舞いは、ただのいい所の坊ちゃんじゃない事くらいわかるさ。あんたや奴の周りの者達も異質だがそれ以上に、匂いが違う。まぁ直接聞いたことはないがね」

瞳を開けたおばあは、私に視線を向けるとニヤリと笑った。

「他の者達は、どっかの貴族の放蕩息子が家出でもしてきたのだろうと思っているようだがね。私の目はごまかせないよ。何でこんな所に流されてきたのかまでは、天上の人らの事だから私には分からんがね」

「っ・・・そうなんだ」


改めて年の功の凄さを思い知った気がした。

おそらくおばあをはじめ、この島の人たちは海を隔てた王国の王族の顔など写真や肖像画でも見る事は無いはずだ。それどころか貴族ですら目にした事はないかもしれない。

だからこそ私達は異質な存在ではあるのだが、異質の中でもさらに違う者なのだと、正確に嗅ぎ分けていると言うのだ。


「まぁ、そんなもの、この島では何の役にも立たないがね。」

だから関係ないのさ。と軽く手を振ったおばあは私をじっと見て。

「それで?なかなか説明のない状況にあんたはヤキモキしてるわけだ」


「まぁそんなところね」

肩を窄めて自嘲すれば、おばあは「ふぅ~ん」と息を吐く。

「何か言えない事・・・もしくは言いたくないのだろうね?それが自分を守るためなのか、あんたを守るためなのか・・・」

「私を守る?」

「知らない方がいいって事もあるのかもしれないね。今夜にでももう一度聞いてみな!もしかしたら話すかもしれないし、まだ話したがらないかもしれないしね」

そう言っておばあが、「よっこらしょ」と立ち上がる。
どうやら彼女のアドバイスはこれで終わりらしい。

そうして、腰を立てた彼女が「あれまぁ」と声を上げた。


「噂をすれば、迎えが来たようだ!これだけ大事にされてれば大丈夫さ!」


「え?」

怪訝に思って少し腰を浮かせて、おばあの視線の先を見れば・・・。


おばあの家の広大な畑の角から、母屋に向かって歩いてくる背の高い男の姿があって・・・。

「ライル!」

「今日はこっちに居たのか!漁を手伝って来たんで迎えついでにお裾分けしに来たぞ!」

日に焼けた肌に、いたずらっ子のような無邪気な笑顔を見せて、手にした桶を掲げている。

朝からいないと思ったら、どうやら漁師について漁の手伝いに出ていたらしい。

「そりゃぁ、ありがたいねぇ。今桶持ってくるから待ってな」

答えたおばあは、家の中に戻っていく。

「これだけいたら、しばらくは釣りに出なくても良さそうだ!日干しにして保存しとこう!航海に出てる間くらいはリリー1人なら十分だ」

私の元まで歩いて来た彼は、嬉しそうに桶の中の戦利品を見せてくる。

「え?」

唐突に彼の口から出た言葉に私はパチパチと瞬く。

航海にまた行く事になっているらしい・・・しかも、今回は私に聞く事もなく私は彼の中では留守番と言う事らしい。

「また、航海に出るの?知らなかったわ?」

なんとかそれだけ問うと、目の前の彼は申し訳無さそうに眉を下げて

「すまない、言ってなかったな・・・近々な・・・」



言葉を濁した。
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