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追い込まれた獲物

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「おかえり」

ディーンに送られて自宅に戻れば、玄関先で釣竿の手入れをしていたライルが、明らかに安堵したように頬を緩めて迎えてくれた。


私が出かける前にも釣り竿の手入れをしていたし、なんなら釣り竿の調子が悪いわけでもないのだが・・・ディーンをつけておきながら、きっと落ち着かなかったのだろう。

本来ならば、もっと信用して欲しいものだと呆れてもいい所ではあるけれど、自分の存在価値というものに最近まで飢えていた私にとっては、それすらもうれしく感じてしまうのだから、私と彼の関係性は健全なものとは言い難いのかもしれない。

これからゆっくりと2人で時間をかけて、お互いの存在を感じあって安心に変えていけたらいいのだ。

時間は沢山ある。

幸いにもこの島での時間の流れは緩やかなのだから。



「今日はこの後どうするの?」

家に入り、少し早いけれど昼食の準備を始めた私は、追うように家に入ってきたライルに背中越しに問う。

庭で採れたハーブを乾燥させたものを塩と混ぜて、肉に擦り込んで下味をつけていると、不意に彼の気配を背後に感じた。


「ん?・・・ぅんっ!」

どうしたのか?と振り返った途端、待ち構えていたかのように唇を奪われてそのまま顎を掴まれてしまう。

ちゅうっと唇を吸い上げるような口付けは、その先を強請っているようで、空いている方の手で私の腰に手を添えた彼が、私の身体の向きを変える。

待って!

手で彼の胸を押して制止しようとするものの、私の両方の手は塩とハーブと肉の汁で汚れていて、間抜けにも手を上げて降参状態の格好のまま彼のいいように、むさぼられてしまう。


「っ・・・ぅんっ、はぁっ・・・もう!」

何度も角度を変えて執拗に口付けられ、離れると同時に私は抗議の声をあげて、彼を睨みあげる。

それなのに、私の視線を受けた彼は、いたずらめいた笑みを浮かべていて・・・くっ、完全に遊ばれている。

「今日は、この後釣りでも行くか?せっかく竿も手入れしたしな」

何事もなかったかのように、先程の私の質問に答える彼に、私はむくれて身体を反転させると、急いで手を洗う。

このまま両手が使えない状態でぼんやりしていると、それをいいことにまた悪戯されかねない。

それなのに・・・


「わぁぁ!!」

手を洗い終わると同時に彼の腕が私の胸の下に差し込まれて、ふわりと身体が宙に浮く。

「っー!ちょっとライル!」

突然の事に抗議する様に声を上げれば、彼がくつくつと笑ってそのまま私の身体を抱えてくるりと向きを変えると、さっさと歩き出した。


その進行方向にある扉を見て・・・私は慌てる。

「ちょ!待って!まだ昼っ!ご飯の準備!」


ジタバタと足を動かすけれど、彼は全く動じない風で隣の部屋・・・寝室に向かっていく。


あの部屋に連れ込まれたなら、何が起こるのか・・・この数日で私は嫌というほど思い知らされているのだ。


「昼飯にはまだ早いしない!下味も今付けてたし、どうせしばらく置くんだろ?」

「っ・・・そうだけど!だからって!昨夜も・・・なんなら今朝だってしたじゃないっ!」


「は?足りるかよ!今までどれだけ我慢したと思ってるんだ?その分取り返さねぇと」


ジタバタ暴れる私を抱えながら彼は器用に扉を開けて、そしてベッドまで一直線に向かうと、ようやくそこで私から手を離した。

しかしそこは、しっかりとスプリングの効いたベッドの上で・・・。


「大丈夫!釣りに行けるくらいには容赦するから!昼飯も俺が作るし」

ギジリとベッドが軋む音とともに私に覆い被さってきた彼が、不敵に微笑む。


もう、逃げ場はなさそうだ。
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