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存在価値

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「一目惚れ…みたいなもんだ…」

そう言って眉を下げて笑った彼を、私は信じられない気持ちで見上げた。

初めてライルと身体を重ねて…それだけでも私にとっては十分な出来事だったというのに…彼の口から出た言葉がまるで信じられなかった。

幻聴?私、色々あり過ぎて都合のいい幻聴でも聞いているの?

いよいよ自分の耳を疑ってしまう。

確かに、肌を重ねながら、何度も何度も「愛してる」「可愛い」と耳元で甘く囁かれて、丁寧に扱われて、大切にされている事は十分に伝わって来たけれど…。

流石にこれは、都合がよすぎる。

だって、王子時代の彼がまさか私を認識していたなんて…それも初めて同じ場所に居合わせた事も、私がどうしていたかまで覚えていたなんて…。

あれだけ沢山の令嬢達の中から…。

「だから、他の令嬢とか、変なものと比べなくていい。気が強くて、逞しくて、そんな姿が魅力的なお前のまま俺の側にいてくれたら、それでいいんだ」

そう言って、頬を撫でた彼が優しく甘く微笑むから、ジワリと瞳が熱くなった。


流れ落ちた涙を、彼が唇で吸い取ってチュッとリップ音を立ててこめかみに口付ける。

また大きな手が、頭の横に投げ出したままの私の手に重ねられて、ぎゅうっと力強く握られる。

「言っただろう?無二の存在だって。」

そう言って、今度は唇に口付けが落ちてくる。
甘くついばむようなそれは、ボロボロと涙を流し続ける私を慰めるように優しい。

思えば、もうずいぶん前…母がいなくなってから、誰かに私そのものを求められたことなんてなくて。
私だからとか…私がいいなんて言われた事なんてなかった。

ずっと私は駒なのだと思っていた。父にとっては家のための、継母や妹には自分達の身を守るための、老年の婚約者にはただ思い通りになる若い娘で自分の欲を満たすだけの…。

だから私には価値がないのだと…当然ライルにも都合よく舞い込んできたちょうどいい女だと思われているに違いないと疑わなかった。

でも、この人は…違うのだと、私がいいと、ありのままを求めてくれているのだ。


応えるようにぎゅうっと彼の手を握り返せば、口づけが深くなる。
絡められた舌に応えるように吸い付けば、互いに角度を変えてむさぼり合うように深くなっていく。


いつの間にか、彼の手が身体をゆっくり撫で始めて、その手が先ほどのように優しく動き出す。
もう一度、彼と一緒になりたい。不思議とそんな気持ちが湧いてきて、まだ涙にぬれた瞳で彼を見上げれば、欲を孕んだアイスブルーの瞳と目が合って。

「リリーっ」

優しく愛おしそうな声音で包み込まれた。
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