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冷静になると冷静じゃない

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砂の上で転がり回ったせいか、身体のあちらこちらがザラザラとするのに苦笑しながら、私達は手をつないで、ようやく二人そろって二人の住む家に帰宅した。

どういう根回しがあったのか分からないけれど、遠巻きに私を監視していたライルの臣下達の姿はいつの間にかなくなっていて、すっかり日の暮れた夜の小道は遠くに聞こえる波の音と私達が踏みしめるジャリの音だけで、それがやけに耳に心地よかった。


玄関口で砂を払って汚れのひどいライルからシャワーへ行かせて、そこでようやく部屋に一人になった私は突然力が抜けたようにダイニングの椅子にへたり込んだ。

きちんと伝えなければいけないという思いで臨んだせいか、冷静になって思い出してみれば随分と恥ずかしい事を堂々と言い放った気がして…。今頃になって顔が熱くなってくる。

そして…ライルもそれに答えてくれたのだ。

きつく抱きしめられた体と、何度も交わした熱い口づけは彼も同じ気持ちなのだという事を私に教えてくれた。
不意に思い出して唇に指を当てると、まだ彼の熱が残っているような気がして…。

「やだ…どうしよう」

恐らく今夜も二人で同じベッドで眠ることになるのに、意識しすぎて眠れる気がしない。
昨日までは一人で眠るベッドがやけに広く感じて寂しく思っていたと言うのに…。

きっとライルのことだ、密着して眠りたがるに決まっている。そうなれば自然と私の鼓動の音も彼には伝わってしまう訳で。

恥ずかしすぎて、今度は自分が家出をしたい気分になってくる。

でも…今出て行ったら、きっとまた誤解が生まれるだろうし…。かと言ってどうしたらいいの!?

ダイニングテーブルに突っ伏して、もんもんと考えているとガチャリと音がして、ライルが戻ってきてしまった。

咄嗟に背筋を伸ばして冷静を装うけれど、椅子の足を蹴ってしまいガタンと盛大な音を立ててしまった。

「ん?なんだ、寝てたのか?」

そんな私の挙動不審な行動にライルは不思議そうに声をかけてくるので、恐る恐る振り返る。

「そ…そうみたい!!ちょっと、うとうとしちゃって!!」

慌てて取り繕って立ち上がるけれど、またガタンと大きな音を立てて今度は自分の座っている椅子の足を蹴ってしまう。
あぁ、もう…落ち着きなさいよっ!!
心の中で自身を叱咤すると、くるりと向きを変えて

「っ…私もシャワー浴びてくるわね」

足早にライルの後方の扉に向かって歩き出す。

兎に角シャワーを浴びて、頭を冷やして一旦落ち着こう!そう自分に言い聞かせていると。

ライルの横を通り過ぎた際に、腕をつかまれ後方に身体を引かれる。
咄嗟の事ではあったけれど、もちろん倒れ込むことはなくて…ライルの身体に抱き留められた。

「ベッドで待ってるな」

チュッと一つこめかみに口付けた彼が、耳元で甘く囁いた。


その瞬間、私は自分の考えの浅さに愕然とさせられた。

自分の鼓動の速さなんて気にしている場合ではなかったのだ。
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