家出令嬢が海賊王の嫁!?〜新大陸でパン屋さんになるはずが巻き込まれました〜

香月みまり

文字の大きさ
上 下
34 / 72

絶望【ライル独白】

しおりを挟む
家を出た俺はディーンの元へ行き、ロブの処遇について相談したいと持ちかけて、奴の自宅へ転がり込んだ。


リリーと何かあって俺が家を出てきた事は、奴にはすぐに分かっただろう。「どうしたのだ?」とも聞かれる事もなく、その日は不貞腐れたように、奴の家で一晩を過ごした。

まともに眠ることなど出来ず、窓から見える月をぼんやり眺めながら、悶々と考えた。


ロブは彼の申し出を汲んで、とりあえずは配下として置くことにはした。どうやら彼はリリーと違い、自分の正体に気づいてはいない様子であった。しかし、伯爵家の騎士だった男だ。どこかのタイミングで気づかれる可能性はある。

あまり近づけすぎるのはよくない。
しばらくは信頼の出来る部下を配して彼の行動を見張らせる事にした。

何か、自分に関する事を探る気配がないか・・・そしてリリーに近づかないように。

もしかしたら、2人はどこかのタイミングを図り島を逃げ出すのではないだろうか?
リリー1人では到底無理でも、ロブのスキルは未知だ。
この島に一人でたどり着いたという実績がある以上、そこを侮るわけにはいかない。


しばらくはリリーにも見張りをつけるべきだろうか・・・。
そんなことまで考え出して、嘲笑が漏れた。
これほどまで、自分はリリーに惚れ込んでいたのだ。

彼女が望んでいる男と幸せになる事すら許せず、諦められないなんて・・・。

王子という身分も、国すらもあっさり切り捨てられたのに、どうしたというのだろうか。



恐れていた事は、翌日すぐに起こった。

ロブにつけていた部下が、少しの隙にロブを見失ったというのだ。
流石、騎士職についていただけの事はある。
感心すると共にやはりか、という失望感も感じた。


奴が目指すのはおそらくリリーのいる場所・・・否もしくはリリーが手近にいた上で逃げられる隙があったから監視を振り切った可能性もある。
昨日の今日で・・・そう思うものの、ロブは少しでもはやくリリーを俺の元から引き離したい一心なのだろう。


慌ててロブの姿を探せば、やはり彼はリリーと共にいた。

二人が並んでいる姿を目撃して、すぐさま身体が動いた。
近づいて、ロブがリリーの腕をしっかりと握っているのが分かり、さらに頭に血が昇る。

その手をふりほどいて、リリーの身体を引き寄せて自分の腕の中に収めた。

ふわりと、最近馴染んだリリーの香りが鼻をくすぐる。
彼女だけは、リリーだけはどこまでもやらない。


そのためにもやはりロブには、この島から消えてもらわねばならない。しかし、どうやって・・・頭の中に不穏な考えが過ぎる。

おそらくそれを察したのだろうか、ロブを拘束するよう命じて何とか二人をひきはがして、リリーを連れ帰ると不安そうにした彼女から、ロブを案じる言葉が飛び出した。


そんなにまで、あの男が心配か?

胸の奥が締め付けられるように苦しくなるのと同時に、あぁどうあっても彼女を手放さなければならないのだという絶望感が押し寄せる。

リリーの顔をまともにみることが出来ず、彼女を一瞥して、また家を出た。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉
ファンタジー
真白山脈に棲むフェンリル三兄弟、末っ子ゼフィリアは元人間である。 どうでもいいことで山が消し飛ぶ大喧嘩を始める兄二匹を「兄たん大好き!」幼児メロメロ作戦で仲裁したり、たまに襲撃してくる神獣ハンターは、人間時代につちかった得意の剣舞で撃退したり。 そう、最強は末っ子ゼフィなのであった。知らないのは本狼ばかりなり。 ブラコンの兄に溺愛され、自由気ままに雪原を駆ける日々を過ごす中、ゼフィは人間時代に負った心の傷を少しずつ癒していく。 スノードームを覗きこむような輝く氷雪の物語をお届けします。 ※今回はバトル成分やシリアスは少なめ。ほのぼの明るい話で、主人公がひたすら可愛いです!

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり
ファンタジー
母を亡くして天涯孤独となり、王都へ向かう苓。 目的のために王都へ向かう孤児の青年、周と陸 3人の出会いは世界を巻き込む波乱の序章だった。 「後宮の棘」のスピンオフですが、読んだことのない方でも楽しんでいただけるように書かせていただいております。

処理中です...