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ちっちゃなプライド【ライル独白】
しおりを挟むロブという男と、リリーが顔見知りだと知った瞬間から、あぁ、こいつは敵だと本能で理解した。
どうやら奴はリリーの実家で彼女付きの騎士だったらしいが、リリーに欺かれて家には置いてこられたらしい。
全く間抜けな奴だ・・・とは思ったけれど、リリーをあぁも簡単にこの島に連れて来てこうして妻としてそばに置いておくことが出来たのは、奴が一緒にいなかったおかげでもあった。
一眼見て、ロブがリリーに対して普通の家臣が主人に抱くものとは別の感情がある事は分かった。だからこそ、こちらを見上げる不遜な表情と、俺がリリーを無理やり拉致したと疑いもしない奴の態度に腹が立った。
自分の中のどこかに、リリーをこの島に縛り付けて、流れと勢いで彼女を側に置いているという負い目があったのかもしれない。奴の責めるような、それでいてリリーをそんな最低な男から救いたいという視線に苛立ちは募った。
そして極め付けに、2人を引き剥がすようにリリーを寝室に連れ込もうとした瞬間2人は互いに、互いの事を呼び合った。
まるで物語で引き離される、恋人同士のように。
その瞬間、ある疑念が浮かんだ。
ロブのリリーへ対する感情は主人への忠誠心だけではないことは明白だったが・・・もしかしてリリーも・・・。
本当は彼女もロブと共にいる事を望んでいるのではないだろうか。
疑ってしまった途端。感情は激しく揺れた。
リリーは、俺の妻だ。今更もう彼女のいない生活になど戻れない。誰にも渡してなるものか!
気がついたらリリーをベッドに組み敷いて、唇を奪っていた。
少しでも、深く彼女を自分のものに・・・みっともない独占欲に支配された。
リリーはどこにも行かせない。
行かせてなるものか・・・。
リリーの唇を、肌を味わう。
ずっと我慢してきた。
もっと早く自分の物に、してしまえば良かった。
このまま、彼女を自分の物に・・・そんな最低で身勝手な欲が湧きあがってくるのを、どうやらリリーも感じ取ったのだろうか、身体を捻り、拒絶された。
その瞬間、頭の上から冷水をかけられたように、怒りに満ちていた身体がスッと冷えていくのが分かった。
軽い口付けや、抱きしめて眠る事に彼女は抵抗をする事はなかった。しかし、それ以上に進む事・・・そして妻として扱うことにはずっと抵抗を示していた。
それは、もしかして・・・。
「お前が、俺の妻になる事を拒むのは、あの男がいるからか?」
すでに心に決めた男がいるから、いつか奴が迎えに来ると思っていたから、それを待っていたのではないだろうか?
そうであるならば・・・今までの自分はどれほど滑稽だったのだろうか。一人で彼女に恋をして、そして妻にした気になって、生涯側にいるつもりでいて・・・舞い上がって・・・。
気がついたら、リリーを残して家を出ていた。
これ以上彼女に触れたまま、同じ空間にいてはいけない。これ以上みっともない姿を彼女に見せたくない。
そんなしょうもないプライドを守るためだった。
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