家出令嬢が海賊王の嫁!?〜新大陸でパン屋さんになるはずが巻き込まれました〜

香月みまり

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忠誠心

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「ロブ…あなた。私の行方を捜してここまでたどり着いたのよね?それって…」

不安で逸る胸を押さえて、慎重に彼を窺う。
彼が実家の騎士のままでいる上で…私がここに居る事が分ったというのなら、それは追手がもう近くまで迫っているという事だ。

ぞくりと背筋が騒ぐ。

そんな私の言葉と様子を長年の経験からくみ取ったらしく、ロブは分かり安く首を横に振る。

「お嬢様をみすみす逃がした護衛騎士が、そのままお仕えできるわけが有りません。すぐに騎士職を解かれました。とにかくお嬢様をお探しせねばと…独自に調べた情報が、ここへ導いたのです。」

ですからルーセンス家は一切関与しておりません。ご安心ください。と付け加えた彼の言葉に、当事者の私だけでなく、ライルをはじめ、ライルの臣下達もなんとなく空気を緩めたのが分かった。

彼等も、ロブがどういう意図で、ここまでたどり着いたのかは気になるところではあったはずだ…だってアドレナード卿に私が見つかってしまえば、アドレナード卿の主人でありライルの叔父である現国王に、ライルの存在が知れてしまうのだ。

「ですが…まさか海賊の仲間になっているとは…思わず」

本当に、そうなのか?と未だ困惑気味のロブに私は軽く肩を竦めて見せる。

「割と楽しく生活しているのよ?これでも!」

「しかも…こんな得体のしれない男と…」
そう言って、じっとりとロブはライルを睨みつける。どうやらロブはライルの顔にはピンと来ていないらしい。
そりゃあ、こんな所に数年前のクーデターで死んだはずの王子が要るなんて、思いもしないのだから仕方がない。
これは、このままライルの正体について触れない方がいいだろうと判断した私は

「うーん…まぁねぇ」
と曖昧に笑った。

「折角望まぬ相手との結婚から逃れたと思ったら、今度は無理やり海賊と結婚だなんて」
そう言って同情的な視線を向けられて、私は「ん?あれ?」と首を傾ける。
しかし、私より素早くその言葉に反応したのは…

「おい、何が無理やりだ?縛り上げて海に沈めるぞ!」
明らかに苛立ちを強くしているライルだった。

少し前から、私とロブのやり取りを聞きながら、彼が苛立ちつつあったのはなんとなく感じていたのだけれど…ついにここへきて我慢ならなくなったらしい。

しかし、そんなライルの苛立ちなんて大して気にしていない様子で、ロブも彼を睨み返している。

「お嬢様は私の全てだった!不遇な目にあっているのならお救いするのが騎士の役目だ」
そうして声高々に、言い切ったのだ。


「っ…ロブ。私はもうあの家の人間じゃない、しかもあなたも解任されたのなら、もう仕えてもらう必要はないのよ!?」
いくら騎士として私を守る任についていたからとは言え、私が家を出てしまい、彼が私の実家との関係がなくなってしまったのだから、もう私達には何の関係性もない。

ここまでして探してくれたのは、ひとえに彼の生真面目な性格のせいだろう。
そう思ったのに…。


「いえ…私は、生涯あなた様に仕えると決めて騎士になりました!ですからあなた様のおられる所が、私の居場所です」


「大した忠誠心だなぁ」
私の隣では、ライルが面白くなさそうにぼそりと呟くのが聞こえる。

しっかりと背筋を伸ばしたロブは、ブレることなく真っすぐ私を見据えてくる
なぜかこの場所で板挟み状態になっているように感じるのは、私の気のせいではないだろう…。

正直どうすしたらいいのか分からない。
困ってライルに視線を向ければ、そこでようやくライルは小さく息を吐いて、椅子の背にかけていた体重を前に移した。


「それで、ここが海賊の島だと知った上で、乗りこんで来たと?まったく、命知らずなやつだな」

テーブルに肘をついて呆れたようにロブを見る、ライルに対してロブはまた眉を寄せて彼を睨み据える。
しばらく、二人の無言のにらみ合いが続く。
ハラハラした私が、ロブの後方に立つディーンに助けを求めるように視線を向けるけれど「どうにもできませんね」と諦めたように首を振られてしまった。

「とにかく、こいつはこの島から…いや。俺のそばから離すわけにはいかん、諦めて故郷にでも帰るんだな」

最初に口を開いたのはライルだった。彼は、冷たくそれだけ言い放つと、また体重を椅子の背もたれに預けてしまう。

「ここまで来た者の簡単に帰すつもりなどないだろう?俺なら島を出たところで消すが…」

ライルを睨み据えたまま、ロブが低くうなるので、私は驚いてライルを見る。


「はっ!察しがいいな!」

肩を竦めて、ライルは鼻で笑うと、おもむろに私の腰に手を回して、「寝るぞ」と立ち上がろうとする。

いやいやちょっと、待って欲しい!そう思って、抗議の声を上げようと、口を開こうとしたところで、驚くほど冷たい色を放ったアイスブルーの瞳と目が私を制止した。


「っ!!ならば俺を雇え!!」

このままでは、話が打ち切られると察したロブが、ガタンと椅子を倒す勢いで立ち上がる。
その言葉に、腰に当てられたライルの手がピクリと反応した。

振り返ろうとした身体を、抵抗するように押し戻されて、私はロブに背を向けたまま固まるしかなかった。

「妻をそそのかす男を…か?そんな馬鹿な男がいると思うのか?」

「妻、妻と言いながら、随分と余裕がないのだな?俺に攫われるのが怖いのか」

後方で交わされる二人の応酬に、私は胸元で手を握り占めるしかできない。
ライルはともかく、ロブがこれほど人を挑発すること自体が私にとっては信じられなかった。

これは…止めるべきだろうか…。

しかし、声を発する前にそれはライルの乾いた笑い声に制された。

「上等だ!おい、こいつを連れていけ!とりあえずは拘束したままでいい。食事と寝床を与えてやれ!」

「承知しました」

部下達の是の声を聞いたライルは、もうこれ以上話すことはないと言うように、私の身体を押して寝室へ向かっていく。


「お嬢様!」

ディーン達に連れられて家を出ていくロブの声に、咄嗟に振り返る。

「ロ…っ!」

しかし、彼の姿を確認することも、名を呼ぶことも叶わなかった。
振り返った瞬間、私の身体はライルの強い力によって寝室に引きずり込まれてしまったのだ。


「なんだ…あの男の事好きだったのか?」

そうして引きずり込まれた寝室は、真っ暗で…やけに耳元の近い場所でライルの苛立った声が聞こえた。

「っ違うわ!」

慌てて弁明するように声を上げるけれど、私の腰をつかむライルの手の力は強いままだ。

「ただの、主人と騎士の関係よ!まさか…こんなところまで追いかけてくるなんて思ってもいなかったわ!」

最初こそ、汚名返上のために私を探しに来たのではないかと疑ったくらいだ…。
まさか彼がそこまで私に忠誠を誓っていてくれているとは、思わなかったのだ。


「その割に…随分と熱心な男だな…。」

「っ…」
そこは私も驚いているところである。だから何も言えずにいると、それをどう捉えたのかは分からないけれど、「チッ!」と耳元でライルが舌打ちをするのが聞こえて…。

次の瞬間、私は乱暴にベッドに押し倒された。

「っ!ちょっと!」

あまりに突然で、強引な行動に、抗議の声を上げるけれど、次の瞬間私の上にまたがってきたライルが強引に唇を重ねてきて、それ以上の言葉を発する事が出来なかった。
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