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違う

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カリーナのおかげで、乱れてしまったベッドを直していると、またしても玄関先の扉がガチャガチャとうるさく鳴った。
カリーナが戻ってきたのだろうか?
一瞬そんな不安に駆られて、振り向けば、ちょうど扉が開いて、慌てた様子のライルが走り込んできた。

「リリー!!帰ってきて…いたのか…」

どこか呆然と言った彼が、ゆっくり私に近づいてきて、そして部屋を見渡して、最後に乱れたベッドを視界に入れる。

「カリーナが…来ていた…のか?」

恐る恐る聞かれたその問いに私はゆっくりと頷く。

「えぇ…帰ってきたらここで裸同然に寝ていたわ?好き勝手言って出ていかれたけど?」

そう言ってベッドの方を顎で指せば、彼は「はぁ~」っと大きな息を吐いて同時に私の両肩に触れると、グッと握りしめた。私がどこかに行かないように捕まえられたような形だ。

「勘違いするな!!何度か夜這いをかけられて…その…最初だけ流されはしたが…あまりにも本気すぎる上にしつこすぎて…彼女の気持ちには答えられないから、それ以降は断っていたんだ!」

まるで弁明するように必死に言い募るライルだけれど…なんだ…応じたことがあるのか…。なるほどカリーナのあの自信満々な態度はそうした事があっての事だったのだと、すうっと頭の中が冷えていく。

ゆっくりと肩に置かれた彼の手を振りほどく。

「私には関係ないわ。だって私がここに来る前の話でしょう?でも、今後は迷惑だから突然家に侵入するのはやめてって伝えてくれる?」

それだけ言うとするりと彼の手の中をすり抜けて、キッチンへと向かう。
野菜を袋から出していると、まだ何か言いたそうなライルがついて来るけれど、私は彼の前に水がめを突き付けると。

「暇なら、水汲んできて!夕食の支度したいから!」

有無を言わせず指示を出す。

「っ…分かった…」

何か言いたそうに一度唇を開きかけたライルは、どうやらそれを飲み込んで、大人しく私の指示に従って水がめを持って外へ出て行った。

家の中にようやく一人になって、私は大きく息を吐く。

なんだかとても面白くない…。

あのカリーナの態度なのか、ライルの弁明の仕方なのか…もしくは彼が一度でもカリーナと関係があると知ったからなのか…。何に無性に苛立っているのか、よくわからない。

「私には関係ないもの…勝手にしてよ!!」
吐き捨てるように呟いて、野菜に包丁を叩き落とす。

そう、私はいずれライルの元を離れるのだ…そのつもりでずっといるはずなのに…。

なんでこんな腹が立つのだろう…。


これじゃあ、まるで…。

その先を考えて、ブンブンと首を振る。


違う違う!きっと、失礼なこと言われたから、対抗意識が湧いただけなのだ。


「違うんだからっ」

そう呟いて、また野菜に包丁を振り下ろした。
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