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非情な宣告
しおりを挟む「生きて、いたのですね」
「まぁなんとかな!」
確認するように問えば、何の気のない軽い返答が帰ってくる。
まるで王位を追われた事には一切の未練もない、と言う様子だ。
そこで私ははたりと気が付く。
王位には未練がないけれど、彼がやっている事は祖国に背く行為で・・・。
「まさか・・・最近活発になって、あちこちの寄せ集めを吸収している海賊って!」
私の言葉に、彼はにやりと笑った。
「お前ね。賢すぎるのも問題だぞ、まぁ分かっていても口に出さないのが一番賢明なんだがな」
そう言った彼が、突如として腰にぶら下げている短刀を抜き出して、ゆっくりと私に突きつける。
窓から入ってきた日差しが、刃に反射して銀色の光を放つ。
「知り過ぎたやつは消されるんだぞ?お嬢様」
「っ!」
私に切っ先を向けた彼は、まるで小動物をいたぶるように、楽し気に笑っている。信じられない。これが王宮で育った王子だというのだ。
普通のご令嬢ならば、これだけで恐ろしくて尻込みしてしまうだろう。
しかし、私は残念ながら、そこまでか弱いたちではないのだ。
瞬時に、短刀を持つ彼の手頸をつかむと、ひねり上げる。常時であれば、これで相手は武器を取り落とす。
そのはずなのに彼は、をれを見切っていたのか、何の躊躇もなく、短刀をポイっと放り投げた。
「っ!」
予想だにしていなかった彼の行動に一瞬虚を突かれた次の瞬間、視界が反転して
気が付いたら、彼に組み敷かれるような形でベッドに転がされていた。
「なるほど、やはり護身術の基本は押さえているらしいな。だが腕力が足らない。」
残念だったな、と勝ち誇ったように見下ろされて、頬がかぁっと熱くなる。
悔しい。
「私のお金返してっ!ついでに新大陸にも送って!!」
せめてもの抵抗で、こちらの要求を叫べば、彼は「まだ抵抗するのか」と半ばあきれたように笑って。
「お前みたいな温室育ちの女が、新大陸なんかでどう生きていくつもりだよ」
温室育ちって、あんたの方がもっと上級な温室で育っているくせに!!そう突っ込みたい気持ちをグッと抑えて、私は彼を睨みつける。
「パン屋をやるの!」
「は?」
力を込めた私の言葉に、彼は素っ頓狂ななんとも間抜けな声を上げた。
先ほどの威圧的な表情はどこへやら、すっかり毒気を抜かれたような唖然とした顔に「失礼ね!」と毒づいて。
「お店を開くのよ!腕前はうちの料理長のお墨付きよ!」と胸を張って言い放つ。
ただただ身一つで考えなしに家出をしてきたた世間知らず娘ではないのだ。
それなのに
「ぶっ!」
「っ!笑わないでよ!!」
彼は盛大に吹きだしたのだ、どこまでも失礼な人だ。
くつくつと私を組み敷いたまま喉を鳴らしている彼を、じっとりと睨みつける。
何がそんなにおかしいのよ?というような冷ややかな視線を向けていると、少しして落ち着きを取り戻した彼は、まだ少し残った笑いをかみ殺しながら、私を見下ろす。
「残念だがそれは諦めてもらおう。お前はすでに俺の正体を知ってしまったからな・・・ここから動くことはできない」
そうして私に対して非情とも取れる宣告をしたのだ。
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