上 下
104 / 129
4章

104 要求

しおりを挟む
そんなに心配しなくていいよ、時期に戻ってくるさ。

不敵に微笑んだリドックの言葉に私は眉を寄せる。

「もうすぐ2部が始まるわ。こんなところで話なんてできないわ」

「ん、まぁそうなんだよね。たしかに君の言う通り、このまま話していたら迷惑になる。恐らく護衛達が戻ったら扉を叩いて大騒ぎになる。そうしたら、2部が始まるどころではなくなるよね?」


困ったね? と微笑んで首を傾けるリドックが私に言わんとしている事はわかる。

自発的にここを出て、2人でどこかで話をしよう……といいたいのだ。


偶然と言いながら、恐らくは彼の何らかの策略が働いている。
このままついて行くことは避けた方がいい事は分かっているけれど、騒ぎになる事もできない。


「夫の方から話し合いの場を設ける提案はしているはずよね? わざわざこんな時に騒ぎを起こす必要はないでしょう?」

もともとこちらは私を含めた話し合いをしたいと言う彼の要望通りに、きちんと段取りは組んでいる。それにいつまでも返事をよこさないのはリドック側であるはずなのに、こんな無理矢理な事をされる言われはない。


私の問いに、リドックは「ははっ」と皮肉気に笑って肩を含める。

「ロブダート卿の手の内で、彼のシナリオ通り行われる話し合いなんて、やつに都合がいい話になるに決まっている。君だって、あの男がいる前では、本音なんて話せないだろう?」

随分とひねくれた持論で、一蹴すると「だから、俺は今ここにいるんだよ」と、つぶやいて私を見つめる。

「きちんと、君の本当の想いを聞きたいんだ。一度結婚したからとか、兄のもと婚約者だったとか、世間体は抜きで……どんな答えになろうとも、俺は君のために知恵を絞ることを約束する」

途端に甘い囁きのように訴えてくる、その言葉の意味がわたしには一切心当たりもないもので……

リドックは、今も尚、私が彼と添うことを希望していると疑っていないらしい。

数日前に届けさせた手紙は都合よく彼の中で忘れられているのか、はたまたあの手紙自体が、私が夫に言われて書かされたものだと思い込んでいるのかもしれない。

この人は、これほどまでに話しが通じない人であっただろうかと、胸の奥がザワザワと騒ぎだす。

そうであるならば、彼が望んだ状況下で、間違いなく私の口から私の言葉で伝えなければ、きっと納得はしないだろう。

胸の前で両手を握りしめて、ゆっくりと息を吐く。

「分かったわ。でも遠くには行けないから……劇場の外にあるティーショップでいいかしら?」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エンドロールが始まらない

Column
ファンタジー
───俺はリンゴを食べていた筈だ。 今日もきょうとて厨二病全開の高校二年──八弔 クラヒ、夏休み間近のその日、通学路の最中─転生する。

ユニコーンに懐かれたのでダンジョン配信します……女装しないと言うこと聞いてくれないので、女装して。

あずももも
ファンタジー
【護られる系柚希姫なユズちゃん】【姫が男? 寝ぼけてんの?】【あの可愛さで声と話し方は中性的なのが、ぐっとくるよな】【天然でちょうちょすぎる】【ちょうちょ(物理】(視聴者の声より) ◆病気な母のために高校を休学し、バイトを掛け持ちする生活の星野柚希。髪が伸び切るほど忙しいある日、モンスターに襲われている小さな何かを助ける。懐かれたため飼うことにしたが、彼は知らない。それがSクラスモンスター、世界でも数体の目撃例な「ユニコーン」――「清らかな乙女にしか懐かない種族」の幼体だと。 ◆「テイマー」スキルを持っていたと知った彼は、貧乏生活脱出のために一攫千金を目指してダンジョンに潜る。しかし女装した格好のままパーティーを組み、ついでに無自覚で配信していたため後戻りできず、さらにはユニコーンが「男子らしい格好」だと言うことを聞かないと知り、女装したまま配信をすることに。 ◆「ユニコーンに約束された柚希姫」として一躍有名になったり、庭に出現したダンジョンでの生計も企んでみたらとんでもないことになったり、他のレアモンスターに懐かれたり、とんでもないことになったり、女の子たちからも「女子」として「男の娘」として懐かれたりなほのぼの系日常ときどき冒険譚です。 ◆男の娘×ダンジョン配信&掲示板×もふもふです。主人公は元から中性的ですが、ユニコーンのスキルでより男の娘に。あと総受けです。 ◆「ヘッドショットTSハルちゃん」https://kakuyomu.jp/works/16817330662854492372と同時連載・世界観はほぼ同じです。掲示板やコメントのノリも、なにもかも。男の娘とTSっ子なダンジョン配信ものをお楽しみくださいませ。 ◆別サイト様でも連載しています。 ◆ユズちゃんのサンプル画像→https://www.pixiv.net/artworks/116855601

【完結】聖女が世界を呪う時

リオール
恋愛
【聖女が世界を呪う時】 国にいいように使われている聖女が、突如いわれなき罪で処刑を言い渡される その時聖女は終わりを与える神に感謝し、自分に冷たい世界を呪う ※約一万文字のショートショートです ※他サイトでも掲載中

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

【完結】何度時(とき)が戻っても、私を殺し続けた家族へ贈る言葉「みんな死んでください」

リオール
恋愛
「リリア、お前は要らない子だ」 「リリア、可愛いミリスの為に死んでくれ」 「リリア、お前が死んでも誰も悲しまないさ」  リリア  リリア  リリア  何度も名前を呼ばれた。  何度呼ばれても、けして目が合うことは無かった。  何度話しかけられても、彼らが見つめる視線の先はただ一人。  血の繋がらない、義理の妹ミリス。  父も母も兄も弟も。  誰も彼もが彼女を愛した。  実の娘である、妹である私ではなく。  真っ赤な他人のミリスを。  そして私は彼女の身代わりに死ぬのだ。  何度も何度も何度だって。苦しめられて殺されて。  そして、何度死んでも過去に戻る。繰り返される苦しみ、死の恐怖。私はけしてそこから逃れられない。  だけど、もういい、と思うの。  どうせ繰り返すならば、同じように生きなくて良いと思うの。  どうして貴方達だけ好き勝手生きてるの? どうして幸せになることが許されるの?  そんなこと、許さない。私が許さない。  もう何度目か数える事もしなかった時間の戻りを経て──私はようやく家族に告げる事が出来た。  最初で最後の贈り物。私から贈る、大切な言葉。 「お父様、お母様、兄弟にミリス」  みんなみんな 「死んでください」  どうぞ受け取ってくださいませ。 ※ダークシリアス基本に途中明るかったりもします ※他サイトにも掲載してます

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

【本編完結済】【R18】異世界でセカンドライフ~俺様エルフに拾われました~

暁月
恋愛
大槻 沙亜耶(おおつき さあや)26歳。 現世では普通の一人暮らしの社会人OL。 男女の痴情のもつれで刺殺されてしまったが、気が付くと異世界でも死にかけの状態に。 そして、拾ってくれたハイエルフのエリュシオンにより治療のためということで寝ている間に処女を奪われていた・・・?! 『帰らずの森』と呼ばれる曰く付きの場所で生活している俺様エルフのエリュシオンに助けられ、翻弄されつつも異世界ライフを精一杯楽しく生きようとするお話です。 生活するうちに色々なことに巻き込まれ、異世界での過去の記憶も思い出していきます。 基本的に俺様エルフに美味しくいただかれています← 【2021/5/19追記】 乙女ゲームとざまぁ要素は4章まで、それ以降は主人公とゆかいな仲間達の波乱万丈な旅行から始まるお話です。 本編は完結しましたが、書ききれなかったその後のお話や番外編などを更新するかも。 宜しければ、そちらもお楽しみください(๑ ˊ͈ ᐞ ˋ͈ ) -------------------------------------- ※ムーンライトノベルスでも掲載しています。 ※R-18要素のある話には「*」がついています ※書きたいものを思うまま書いている初心者です。 ※初めての長編でつたないところが多々あると思います。温かい目で見てくださるとうれしいです。

物語のようにはいかない

わらびもち
恋愛
 転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。  そう、言われる方ではなく『言う』方。  しかも言ってしまってから一年は経過している。  そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。  え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?  いや、そもそも修復可能なの?   発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?  せめて失言『前』に転生していればよかったのに!  自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。  夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。

処理中です...