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3章
42 会いたい、でも会いたくない
しおりを挟む「王立学院時代、ティアナ様は憧れの存在でしたから、まさか私がこうしてご一緒する日が来るとは……昨日は嬉しくて眠れませんでしたの」
馬車に乗り込み視察先に向かうまでの間、アドリーヌ嬢は興奮気味に話し続けた。
「ラース兄様から、お手紙でくれぐれもよろしくといい使っていますから、遠慮なく聞いてくださいね」
そう言って屈託なく笑った彼女の口からは、彼の親しい者しか呼ばない愛称が飛び出してきて、胸がキュッと締め付けられるような感覚に息を飲む。
わたし自身が気恥ずかしくて呼べない愛称をこの子はさらりと呼んでしまえるのだ。
「ラースが?」
何でもない顔をして、彼の愛称を口にして問う。
考えてみれば、彼の愛称を彼以外の前で口にしたのは初めてだ。
アドリーヌ嬢に対抗するような言い方になってしまったような気がして、途端に自分を惨めに感じた。
そんな私の心情など知る術もないアドリーヌ嬢は屈託なく微笑む。
「はい! ラース兄様とは幼馴染で、兄が同じ年齢ということもあって小さな頃から可愛がっていただいておりましたの」
「そう、なのですね……」
昨日のメイド達の話で、なんとなく長い付き合いなのだという事は理解していたけれど、本当に幼い頃からの付き合いらしい。
ガタリと、馬車が揺れて止まった。
「一つ目の視察現場ですね。降りましょうか?」
窓の外をちらりと確認したアドリーヌ嬢が微笑んで、私を外に促した。
結局モヤモヤとした気持ちを抱えながらも、アドリーヌ嬢のおかげでスムーズにその日の視察スケジュールを終えた。
今日一日一緒にいただけでも、彼女がとても優秀である事は理解出来た。
もし、メイド達の話の通り、彼女の能力がロブダート侯爵家に必要であり、妾として置くことを求められたら、私は彼女を認めるべきだろう。
それだけ彼女には価値がある。
夕食もそこそこに部屋に戻ると、ベッドに横になる。
本邸の女主人の部屋のベッドは王都の邸のベッド同様、もちろん広くて……私一人ではとても寂しい。
いつも彼と二人で並んで眠るのは落ち着かないと思っていたのに、こうして隣にいない事を改めて実感すると、彼の温もりを求めている自分がいる。
早く会いたい。
彼の温もりに包まれたい。
でも
顔を合わせて、決定的な事を言われるのも怖い。
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