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2章
38 愛ですわ!
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「まぁ、お可愛らしい! この御子様が姫様でございますね!」
文字通り弾むような声と動作で覗き込む蘭玉に、寝台の上の珠樹はなにやら不思議な物を見つけたように目を見開いて彼女の顔を見上げている。
「珠樹と申します」
「珠樹様! お可愛らしい!お加減も良くなったようで、安心いたしました」
そう言って珠樹に向けて微笑む彼女に、珠樹が手を伸ばしてパタパタとさせるものだから、彼女は「まぁ! ご挨拶してくださるのですか! ありがとうございます!」とえらく喜んで声を弾ませる。
「昨日から熱も出ておりませんし、このまま回復できれば2週間ほどで上弦に移動もできるだろうと」
「そうですか。邸の方もようやく妃殿下と御子様をお迎えできると聞いて、皆張り切って準備をしておりますわ」
「歓迎して、もらえるのだろうか……あっ!」
「ふふふ、一旦ここで終わりましょうか」
寝台から身体を離した蘭玉がパチンと手を叩いてにこりと微笑む。
「どうしても気を抜くと……」
ため息を吐いて、項垂れる。
汪景の指導がどの程度定着しているのか進度を見極めるためにしばらく、きちんとした言葉で会話をしようと提案されていたのだ。
「大丈夫ですわ、ひとまずしばらくは気を抜けな状況でしか使いませんから! 兄から聞いておりましたが、本当に短期間でよく学ばれたと思いますわ」
「いや、まだまだ……普段から言葉使いも女らしくしておいた方がいいのだろうな……と思うのだが……」
いくら練習とはいえ、蝕の郷でこのような間違いを犯せば、随分と咎められる。霜苓自身、訓練中にこんな簡単なミスは侵したことはないというのに、やはり気が弛んでいるのだと自身の甘さに自己嫌悪を覚える。
ゆえに、日常から徹底すべきとも思っているのだが……
「確かにそうするのが簡単なのかもしれませんが……お気が休まらないのではないでしょうか? 殿下が心配されるご様子が容易に想像がつきます」
周囲が……特に陵瑜がいい顔をしないのだ。
「そうなんだ……でも、足を引っ張りたくないのだが…… 」
困ったように肩を竦めて微笑むと、蘭玉も困ったような表情で微笑む。
「陵瑜にもよく言われるが……私は真面目すぎるらしい。気を抜けと言われても、今この状況でさえ弛んでいると思うくらいで、これ以上気を緩めてしまったら肝心な時に大切なものを守れないのではないかと怖いのだ」
俺に任せておけば大丈夫……と陵瑜は言ってくれるが、しかし彼だって郷の全貌を知っているわけではない。それに彼の立場が立場である。霜苓が形だけでも彼の伴侶となる上で、彼に降りかかるものもあるだろう。霜苓がしっかりしていれば、ほんの少しでも回避できることがあるはずである。
やはり難しい……はぁ~と息を吐くと、不意に両手を蘭玉に掬い取られる。
陵瑜や、自分のものとは違う、とても柔らかい感触にどきりとする。
「愛!ですわね‼︎」
「っ……愛?」
霜苓の両手をぎゅうっと、その華奢な身体からは想像できない力強さで握った彼女が突然弾んだ声を上げて、キラキラとした目で見つめて来るので、思わず一歩後ろに下がろうとして、しかし手を握られている事を思い出して諦める。
少し引きぎみの霜苓の問いかけに、彼女は「はい!」と嬉しそうに華やかな声をあげる。
「愛する方のおそばにいたいからこそ努力を絶やさないその姿勢!私感動いたしました! 」
「え……」
「兄から伺っております! 身分は違えど、殿下と添い遂げるために、お郷を捨てて幼子を抱いてお1人で殿下を探す旅なさろうとなさっていたとか! なんといじらしい。私そう言ったお話大好きですの!」
誰が……誰のために……
愛? 添い遂げる?
霜苓にしてみれば、身に覚えがない話……というか、随分脚色された状況説明に、どこから突っ込んでいいのやらわからない。
しかし……先ほどの汪景の笑顔を不意に思い出す。
きっと、彼が何か意図的に、都合のいい説明をしているに違いない。
ここで、否定して彼女を混乱させるのは良くないのかもしれない。
瞬時に頭の中で考えを巡らせって、霜苓はどうにかこうにか、引きつる顔を引き戻して……
「あ……ありがとう」
と謎に礼を言った。
文字通り弾むような声と動作で覗き込む蘭玉に、寝台の上の珠樹はなにやら不思議な物を見つけたように目を見開いて彼女の顔を見上げている。
「珠樹と申します」
「珠樹様! お可愛らしい!お加減も良くなったようで、安心いたしました」
そう言って珠樹に向けて微笑む彼女に、珠樹が手を伸ばしてパタパタとさせるものだから、彼女は「まぁ! ご挨拶してくださるのですか! ありがとうございます!」とえらく喜んで声を弾ませる。
「昨日から熱も出ておりませんし、このまま回復できれば2週間ほどで上弦に移動もできるだろうと」
「そうですか。邸の方もようやく妃殿下と御子様をお迎えできると聞いて、皆張り切って準備をしておりますわ」
「歓迎して、もらえるのだろうか……あっ!」
「ふふふ、一旦ここで終わりましょうか」
寝台から身体を離した蘭玉がパチンと手を叩いてにこりと微笑む。
「どうしても気を抜くと……」
ため息を吐いて、項垂れる。
汪景の指導がどの程度定着しているのか進度を見極めるためにしばらく、きちんとした言葉で会話をしようと提案されていたのだ。
「大丈夫ですわ、ひとまずしばらくは気を抜けな状況でしか使いませんから! 兄から聞いておりましたが、本当に短期間でよく学ばれたと思いますわ」
「いや、まだまだ……普段から言葉使いも女らしくしておいた方がいいのだろうな……と思うのだが……」
いくら練習とはいえ、蝕の郷でこのような間違いを犯せば、随分と咎められる。霜苓自身、訓練中にこんな簡単なミスは侵したことはないというのに、やはり気が弛んでいるのだと自身の甘さに自己嫌悪を覚える。
ゆえに、日常から徹底すべきとも思っているのだが……
「確かにそうするのが簡単なのかもしれませんが……お気が休まらないのではないでしょうか? 殿下が心配されるご様子が容易に想像がつきます」
周囲が……特に陵瑜がいい顔をしないのだ。
「そうなんだ……でも、足を引っ張りたくないのだが…… 」
困ったように肩を竦めて微笑むと、蘭玉も困ったような表情で微笑む。
「陵瑜にもよく言われるが……私は真面目すぎるらしい。気を抜けと言われても、今この状況でさえ弛んでいると思うくらいで、これ以上気を緩めてしまったら肝心な時に大切なものを守れないのではないかと怖いのだ」
俺に任せておけば大丈夫……と陵瑜は言ってくれるが、しかし彼だって郷の全貌を知っているわけではない。それに彼の立場が立場である。霜苓が形だけでも彼の伴侶となる上で、彼に降りかかるものもあるだろう。霜苓がしっかりしていれば、ほんの少しでも回避できることがあるはずである。
やはり難しい……はぁ~と息を吐くと、不意に両手を蘭玉に掬い取られる。
陵瑜や、自分のものとは違う、とても柔らかい感触にどきりとする。
「愛!ですわね‼︎」
「っ……愛?」
霜苓の両手をぎゅうっと、その華奢な身体からは想像できない力強さで握った彼女が突然弾んだ声を上げて、キラキラとした目で見つめて来るので、思わず一歩後ろに下がろうとして、しかし手を握られている事を思い出して諦める。
少し引きぎみの霜苓の問いかけに、彼女は「はい!」と嬉しそうに華やかな声をあげる。
「愛する方のおそばにいたいからこそ努力を絶やさないその姿勢!私感動いたしました! 」
「え……」
「兄から伺っております! 身分は違えど、殿下と添い遂げるために、お郷を捨てて幼子を抱いてお1人で殿下を探す旅なさろうとなさっていたとか! なんといじらしい。私そう言ったお話大好きですの!」
誰が……誰のために……
愛? 添い遂げる?
霜苓にしてみれば、身に覚えがない話……というか、随分脚色された状況説明に、どこから突っ込んでいいのやらわからない。
しかし……先ほどの汪景の笑顔を不意に思い出す。
きっと、彼が何か意図的に、都合のいい説明をしているに違いない。
ここで、否定して彼女を混乱させるのは良くないのかもしれない。
瞬時に頭の中で考えを巡らせって、霜苓はどうにかこうにか、引きつる顔を引き戻して……
「あ……ありがとう」
と謎に礼を言った。
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