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1章
19 再会の裏側③
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一見黒に違う程に濃い緑色の瞳は、陵瑜の父系に受け継がれる特徴である。
幼い頃こそ、その緑の色合いが顕著に出るものの、長じて行くに従いその色は徐々に深くなり、黒くなっていく。陵瑜も例にもれずその過程を辿って、現在はほぼ黒の瞳となっている。
倒れた女の腕に抱かれた赤子の瞳を見て、陵瑜は呼吸を忘れるほど驚いた。陵瑜が幼い頃鏡で眺めていた自分の瞳の色と酷似しているそれは、自分とどこかで同じ系譜を持っている事を示していた。
しかしそんな者がなぜこのような所にいるのだろうか……
戸惑いながら周囲を見渡すが、深夜の街道に人の姿などありはしない。手がかりのようなもも見当たらず、とにかく、このような所に病人と赤子を放って置くわけにもいかない。赤子を潰さないように倒れた母親らしき女の体を反転させて……そうしてまた呼吸を忘れた。
その女こそが、探していた霜苓だった。
ようやく見つけた!そんな喜びが駆け巡ると同時に、ではこの赤子は……とその可能性に思い至る。あまりに色々な事が一気に起こりすぎて混乱していると、娘が小さくうめいて薄っすらと瞳を開く。
あの晩心惹かれた、赤みの強い茶の瞳が、虚ろにこちらを見上げてすぐに閉じられる。
「逃げないと……追手が……お願い……この子を……」
うわ言のようにそう呟いて、するりと子供から手が離れ、気を失った。
状況はよく分からない、しかし、彼女がどうやらなにかから逃げていることだけは分かった。
すぐに後方に控える汪景達に指示を出し、馬車の荷台に二人を乗せると、走り出すよう指示をする。
突然女と子どもを拾ってきて走り出せと言う自分に、汪景も漢登も戸惑っていた。
自分自身も戸惑っていた。
よくわからないが、彼女は自分と子供の危機を感じてなにかから逃げている。それならば、少しでも遠くに逃げる以外ない。
とにかく陵瑜にできることはそれだけだった。だが、結局それが功を奏した事を知るのは、半日ほどあとの事だ。
揺れる馬車の中で霜苓の身体を調べて見れば、アチラコチラに小さな切り傷を負っているものの、致命傷となる傷はないらしく、ほっと息をつく。腕の中に収めた子供は傷ひとつなく元気な様子で、陵瑜の括っていない髪を触ろうと賢明に手を伸ばしている。
「この子供、生まれてどのくらいか分かるか?」
御者席から隣にやってきた漢登に問うてみる。確か彼にもこの頃合いの子どもがいたはずだった。
「3ヶ月から5ヶ月、くらいでしょうか?うちの次男が今6ヶ月ですが、それよりは幼いと思います。どうしました?」
「俺の子供なのだろう。おそらく……計算が合う」
あの時の子であればおそらくは生後3~4ヶ月であろう。目の色といい、ぴったりと合いすぎて、否定する余地がない。
「え……ではこの女性が…………」
驚いて自分と赤子の顔を見比べる漢登に、しっかりと頷いて見せる。
「間違いない。目的は達成した、上弦に連れ帰る」
「は? え、いや、でも!……この娘、あの時の!?」
転がされている霜苓に改めて視線を向けた漢登もすぐさま彼女が誰であるのか理解したらしい。
「なにかに追われているらしい。とにかく離れるぞ。夜通し走って朝になったら宿場の医者に見せる!」
それだけ告げると、漢登も全てを理解したらしく、しっかりと頷いて、御者席の方へ戻っていった。
幼い頃こそ、その緑の色合いが顕著に出るものの、長じて行くに従いその色は徐々に深くなり、黒くなっていく。陵瑜も例にもれずその過程を辿って、現在はほぼ黒の瞳となっている。
倒れた女の腕に抱かれた赤子の瞳を見て、陵瑜は呼吸を忘れるほど驚いた。陵瑜が幼い頃鏡で眺めていた自分の瞳の色と酷似しているそれは、自分とどこかで同じ系譜を持っている事を示していた。
しかしそんな者がなぜこのような所にいるのだろうか……
戸惑いながら周囲を見渡すが、深夜の街道に人の姿などありはしない。手がかりのようなもも見当たらず、とにかく、このような所に病人と赤子を放って置くわけにもいかない。赤子を潰さないように倒れた母親らしき女の体を反転させて……そうしてまた呼吸を忘れた。
その女こそが、探していた霜苓だった。
ようやく見つけた!そんな喜びが駆け巡ると同時に、ではこの赤子は……とその可能性に思い至る。あまりに色々な事が一気に起こりすぎて混乱していると、娘が小さくうめいて薄っすらと瞳を開く。
あの晩心惹かれた、赤みの強い茶の瞳が、虚ろにこちらを見上げてすぐに閉じられる。
「逃げないと……追手が……お願い……この子を……」
うわ言のようにそう呟いて、するりと子供から手が離れ、気を失った。
状況はよく分からない、しかし、彼女がどうやらなにかから逃げていることだけは分かった。
すぐに後方に控える汪景達に指示を出し、馬車の荷台に二人を乗せると、走り出すよう指示をする。
突然女と子どもを拾ってきて走り出せと言う自分に、汪景も漢登も戸惑っていた。
自分自身も戸惑っていた。
よくわからないが、彼女は自分と子供の危機を感じてなにかから逃げている。それならば、少しでも遠くに逃げる以外ない。
とにかく陵瑜にできることはそれだけだった。だが、結局それが功を奏した事を知るのは、半日ほどあとの事だ。
揺れる馬車の中で霜苓の身体を調べて見れば、アチラコチラに小さな切り傷を負っているものの、致命傷となる傷はないらしく、ほっと息をつく。腕の中に収めた子供は傷ひとつなく元気な様子で、陵瑜の括っていない髪を触ろうと賢明に手を伸ばしている。
「この子供、生まれてどのくらいか分かるか?」
御者席から隣にやってきた漢登に問うてみる。確か彼にもこの頃合いの子どもがいたはずだった。
「3ヶ月から5ヶ月、くらいでしょうか?うちの次男が今6ヶ月ですが、それよりは幼いと思います。どうしました?」
「俺の子供なのだろう。おそらく……計算が合う」
あの時の子であればおそらくは生後3~4ヶ月であろう。目の色といい、ぴったりと合いすぎて、否定する余地がない。
「え……ではこの女性が…………」
驚いて自分と赤子の顔を見比べる漢登に、しっかりと頷いて見せる。
「間違いない。目的は達成した、上弦に連れ帰る」
「は? え、いや、でも!……この娘、あの時の!?」
転がされている霜苓に改めて視線を向けた漢登もすぐさま彼女が誰であるのか理解したらしい。
「なにかに追われているらしい。とにかく離れるぞ。夜通し走って朝になったら宿場の医者に見せる!」
それだけ告げると、漢登も全てを理解したらしく、しっかりと頷いて、御者席の方へ戻っていった。
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