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3章

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慰霊祭は、前日まで連日降り続いていた雨が上がった、どんよりと重たく低い雲の下で行われた。


その昔、この国では大きな王位争いが起こり、国が二分したことがあったそうだ。

同じ国の中で二人の王子の王位継承をめぐって戦争が起きて、国民の全てがどちら側に着くのかと選択を迫られた。

昨日まで挨拶を交わし、助け合っていた隣人同士が殺し合い、この国の中心を流れるトレヴィヌ河が赤く染まったと歴史の書物には書かれている。
この国の人間はみな子供の内に大人たちからその話を聞かされるのだ。戒めを込めて。

結局その戦いでは兄の王子が勝利したものの、戦争で弱体化した国を建て直すのは困難を極めた。そして兄王子は数年の後、彼に期待をし、支持していたはずだった民衆により愚王と罵られて処刑された。

そうして最終的に王位を次いで国を建て直したのは、王位継承争いに全く関与していなかった、末の弟王子だった。
彼はなかなかの賢帝で、現在の議会制を敷いたのも彼であった。彼は兄達の犯した過ちで、多くの国民の命と財を失ったことを嘆き、その戒めを込めてその戦いが始まった日を慰霊の日と定めた。


年に一度、平和を願い、国のためになった古の魂の鎮魂をする日である。


この日は国中の者が黒い服に身を包む。
そうして国王が、王家の代表として二度とこのような過ちを起こさないことを宣誓し、川に蝋燭を灯して流すのだ。


昨年まで、私はそれを両親と兄と一緒に貴族のために用意された席で見ていて、宣誓に立ったのはユーリ様ではなく先王陛下だった。

しかし今年は当然私の姿はユーリ様の隣にあって、多くの貴族や民衆を目の前にしていた。

ユーリ様の凛々しい宣誓のお声が響き、彼女の手にしていた燭台から、私の手にしている蝋燭へと火が移される。

そうして私から4人の聖職者へ、その聖職者から複数の貴族たちにどんどんと火が渡され行き、やがてそれはその場に集まった者達全てに行き渡った。

それを見守った私たちは、聖職者に誘導されて、川縁に設けられた桟橋に向かうと、川にその蝋燭を流す。

そしてそれを皮切りに、貴族達がそれに習い、川の中は一気に煌々と光るものでいっぱいになってしまう。

毎年見ていても、この光景の美しさには言葉を失う。

見て楽しむべきものではない事は重々理解はしているが、どうしても心を奪われるのだ。

そうしてゆらゆらと揺蕩いながらどんどんと遠のいていく光の大群を見守ると、それで儀式は終了となる。


事前の説明では、ある程度見守った後に王族は退席し、貴族の祈りの時間という名の舞踏会が開かれるのだ。

近衛に促されて、場所を移動して、馬車へ向かう。ユーリ様と横並びになり、私たちの後方には、王太子であるアースラン殿下とその横にジェイドが付いてくる。


私たちの歩く道筋には、多くの民衆が詰めかけていて、彼らの前には柵が引かれて等間隔に兵士が立っている。

彼らの前を通り過ぎれば「国王陛下、王妃陛下、ご結婚おめでとうございます!」「国王陛下万歳!!」「アルメリアーナ妃万歳!!」などと最近結婚したばかりの私とユーリ様への祝いの言葉が投げかけられ、その中には「きゃぁ!ジェラルド殿下ぁ!!」「こちらを!人目だけでも!!」なんていう若い女性達からの歓声も聞こえる。

そんな彼らににこやかに微笑んで手を振りながら歩く。国民の前に出る行事ごとはそう多くはないものの、これ自体はよくある光景なのだ。

だから、私はさほど危機感を持っていなかった。
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