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6章

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「ミシェルと申します。先日結婚をいたしましてウェルシモンズ伯爵夫人となりました。本日は突然ご一緒させていただき、ありがとうございます。」


緊張したように挨拶をする女性の言葉に、私の胸がザワリと騒いだ。

月に一度行われる、カロニック公爵邸での茶会は、次期当主であるロドニーの妻イザベラが近しい貴族の妻達を集めて催す。以前から妃殿下の付き添いとして何度かその場にいた事はあったのだが、今回はラングラード伯爵夫人として、わたしにも招待状がきていた。

「彼女、うちが昔から懇意にしているテルドール商会の御令嬢なの。たまたま王都に来ていたから折角なら、皆様にお顔を繋げようと思ってお連れしましたの」


そう言ったのは私達より5つほど歳上の、アスコード伯爵夫人である。普段から面倒見のよい彼女は、幼い頃から知っているミシェルが伯爵夫人になった事を知り、その後押しをするため、妃殿下が参加する茶会に連れてきたらしい。

もとは平民とはいえ、テルドール商会といえは、王都でも知らぬものはいない比較的大きな商会で、そちらの御令嬢であれば、そこら辺の貧乏貴族よりもよい暮らしと教育を受けている。

彼女の所作は完璧で、少し勝気そうなつり目の瞳には気品すら感じる。

これが、トランの妻になった女性。

「まぁ、ご結婚おめでとう。ミシェル。歓迎するわ。」

紹介を受けてセルーナ妃がまずにこやかに祝いの言葉を述べると、他の夫人達からも次々に祝いの言葉が出た。


この茶会は、だいたいいつも同じ顔ぶれなのだが、今までも時々誰かが友人の貴族夫人を連れてくる事があったりしたので、こうしたことはめずらしくない。
みな大した引っかかりもなく受け入れていたが、中には数人、窺うようにこちらをチラチラ見るご夫人の姿がある。

その中の1人の顔を見て私は、嫌な予感がした。


「ウェルシモンズ伯爵といえば、アリシア様の生家でいらっしゃいますわよね?ならばお二人は、、、」

案の定その夫人、アルノード伯爵夫人、リンダ様が、興味深々と言った様子で私とミシェルを見比べた。

予め気付いていた御夫人達は、同じように興味深々な顔をする者と、「あー言ってしまったわ」と呆れる者がいて、気付いていなかった者たちは、素直にその事実に驚いていた。

そして皆の視線が私に向けられた
仕方ない


「リンダ様の仰せの通りですわ。ミシェル様と私は義理の姉妹です。」

肯定するしかない。
そうなると、彼女が義理の姉妹である私ではなく、アスコード夫人の紹介でこの場に来た事に、違和感が出る。

あなたが義姉様を皆様に紹介すべきだったのではないの?というような視線を向けられてもおかしくなくて、これでは小姑が嫁いできた嫁に嫌がらせをしているような構図である。

「まぁ、アーシャ!ならば、ミシェルが貴方が以前言っていたお兄様のご結婚のお相手なのね?」

どう対応をしようかと悩んでいると、まるで今初めて思い至ったかのように妃殿下が声を上げた。

「はい、そうですわセルーナ様」

兄が結婚するが結婚式にはいかないと以前に話した事はあったので、その事だろうかと私は肯定する。


「まぁ、それは!ごめんなさいねミシェル。そうしたらあなた達は今日が初対面なのね?アーシャが貴方の結婚式に出席出来なかったのは私のせいなの。いつかお会いしたら謝ろうと思っていたのよ?」

そう言って妃殿下は、ミシェルの手を取る。

突然手を取られたミシェルはギョッとした顔で固まった。


「まだ私もこちらの国にきて日が浅かったものですから、どうしてもアーシャが数日離れるのが不安だったの。ついアーシャに行かないでと言ってしまって。夫のブラッドも王太子殿下にはなくてはならない騎士ですから、せっかくの祝いの席に出席させてあげられなくてずっと心苦しく思っていたの」

キラキラした瞳で、申し訳無さそうに詫びる妃殿下の言葉に、周囲のご婦人方は「あぁなるほど、そういう事なのね」と理解した様子だ。


「そんな!妃殿下自らお詫びいただく事ではございませんわ。ラングラード伯爵ご夫妻が王太子ご夫妻の信頼が厚いことは理解しておりますし、そのような故あって出席できない旨は私も伺っておりましたから。」

ミシェルは恐縮したように慌てて首を振って、その事には拘っていない事を話した。

「今回はたまたま王都に実家の用件で参りまして、古くからお世話になっておりましたカトリーナ様にご挨拶でもとお尋ねしたところ、こちらのお茶会にお誘いいただきましたの。」

「もしかしたらアリシア様もおいでになるかも知れないと思いましたのよ。結婚式の事情は私も理解しておりましたのでお2人の顔合わせにも丁度良いと安易に思ってお誘いしてしまったから、私にも他意はございませんのよ」

ミシェルの言葉にアルノード伯爵夫人カトリーナ様が、周囲のご婦人方を牽制する様に悠々と言って除ける。

この中では比較的年配の彼女のその威厳ある振る舞いに、これはお家騒動か?と色めき立った一部のご婦人方は恥いるように視線を逸らした。


「カトリーナ様。お気遣いをいただきありがとうございました。私もどこかで時間をとって実家に戻って義姉上様にご挨拶をと思っておりましたので、図らずもこんなに早くお会いできて嬉しく思っております。」

一歩前に出て、カトリーナ様に礼を言えば、彼女は優雅に笑った。

「アリシア様と御夫君も、結婚したばかりの上、この国の未来を支える王太子夫妻にはなくてはならない方々でございますから、少しでもお役に立てたのならようございましたわ」
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