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第10章 後宮
第395話 利用
しおりを挟む黄毒の件が落ち着いて、泉妃の悪阻も落ち着いてきた頃、いよいよ芙艶は行動に出た。
今まではほとんどを東左に任せていたが、このところの東左はどこかおかしかった。
以前は度々芙艶の寝屋に現れて、身体を重ね、それぞれの情報を共有していたのだが。
3日4日姿を見ない事もざらだった。
劉妃の件は大丈夫なのかと確認すれば。
いつもの不敵な笑みと共に「ご心配には及びません。万全ですよ」と囁くのだった。
多少の不安を抱えつつも芙艶は、とにかく泉妃への対応に取り掛かる。
祖国から輿入れの際に持ち込んだ産学の書物に面白いものがあった。
妊娠も後半に差し掛かると、まれにひどい浮腫と血の巡りに問題をきたす妊婦がいるという。そしてそれは出産時に大量出血を起こし、母体を危険に晒す可能性があると言うのだ。
そして優秀な響透の産医達はそれを抑える薬を開発した。
しかし、それと同時になぜか何の症状もない妊婦にそれを起こさせる薬まで作り上げてしまったのだと言う。これは禁忌であると記載がある。
なぜそんな物を書に書き残したのかは分からないが、これは芙艶にとって好都合であった。
祖国から取り寄せた薬草を使って、それを煎じて、泉妃の食事に盛らせた。
そうして少しずつ少しずつ、泉妃の身体が不調をきたしていくのを見守り続けた。
泉妃は何の疑いもなく、歳を重ねた妊娠故の不調だと思っているようだった。
そうしているうちに、事件は起こった。
皇太后が身罷り、東左が皇太后の腹心として手配された。
はじめは意味がわからなかった。
なぜ皇太后と東左が関係があったのだろうか?
そうして、調査の内容を聞いて芙艶はその事実を理解した。
自分は利用されていたのだ。
東左は皇太后の影だった。そして皇太后は自身の息子を蹴落とした、皇帝とその2人の弟を恨み、その妻子の命を狙っていた。
東左が翠玉を2度も狙った理由にも合点がいった。芙艶を利用して皇帝の妻たちを葬り、おそらく最後は芙艶の元に集まった子供たちもろとも芙艶も消すつもりだったのだ。
いつだったか突然宮にやってきて、気まぐれのように見せかけて散々な言葉だけ投げて消えていった皇太后の言葉は、その後の東左に向けての布石だったのだ。
芙艶の矜恃や苛立ち、虚無感、焦燥感それを見透かしてまんまと利用された。
悔しくて、悔しくて、いく日も眠れぬ日が続いた。
東左はどこかへ逃げている。今更芙艶の元にはやってこないだろう。
下手に捕らえられて、芙艶との関係を話されても困る。どこかで死んでくれることを願った。
皇太后と東左の件から数日経っても、芙艶は泉妃の食事に薬を盛ることは止めなかった。
これはもうすでに芙艶の意地である。計画はすでに佳境に差し掛かっているのだ。第一にこれを望んだのは芙艶自信だ。決して東左に唆されたからではない。
ここまできたら、すべてを手に入れて完璧な皇后になるのだ。
泉妃は妊娠後期に入ると次第にむくみ始め、狙ったような不調が起き始めた。
そして劉妃はどう東左に脅されたのか知らないが、沈黙を守っている。
劉妃については東左の行方がわからない今いつ着手するべきか悩んだ。
そして、とりあえず東左の行方が分かるか、泉妃が片付くかどちらかになるまでは放っておく事にしたのだ。
手負いの劉妃はすでにいつでも首をひねる事ができる。
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