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第9章 使、命
第342話 盲点
しおりを挟むチッ少ない数でなかなかやりおるわ
敵の援軍到着と共に戦況は再び膠着した。
時間が経つにつれて余裕があった緋堯軍の中に焦りが見えた。
なんとしても夜中のうちに敵の防衛を突破して湖紅の国土へ侵略を図りたい。
それができなければ再び我が軍の面目が立たなくなる。
イライラと戦況を見守る堯雅浪を横目に丘江はその時を静かに待った。
「全軍、前進だ!これ以上は待てん!」
堯雅浪の指示が飛び、整然と並んでいた兵達が前進を始める。
行く先には川がある。
紫瑞の最先端技術で作られた橋ではあるが、大地に比べたらやはり幅は狭い。
それでも混雑することなく渡りきるように隊列を編成している。
丘江の役目は最後衛を護る事だった。
前の部隊が橋を渡るのに時間を要すため、彼は前進指示が出てもしばらくはその場を動かなかった。
その間に、彼は前回の戦の苦渋を思い出した。
自然を駆使した圧倒的な策に、そして夜陰をしのいで自軍の前に整然と並んだ兵達。
よく訓練されていたと思う。
あそこまで完膚なきまでにやられたのは屈辱であった。
そして丘江達を嘲笑うかのように翻弄したあの女だ。
思い出して、拳を固く握りしめた。
そして、なんとなく気付く。
自分がちょうど今いる場所こそ、夜明けと共に湖紅軍が並んでいた、その場所ではないだろうか。
「忌々しい」
そう呟いて、その考えを頭の隅に追いやろうとした所で。あれ?っとなんらかの違和感を感じた。
彼らが夜陰に紛れてあそこまで忍び寄れたのは、特別な訓練を受けていたのだと、結論付けていたのだが
あれだけの数である。
本当にそんなことが可能だったのだろうか。
この夜、緋堯軍だって最初は敵陣に忍び寄って奇襲をかけたのだ。
しかし相手の反応からして、彼らはある程度の距離から我が軍の忍び寄る気配を感じていたのだ。
それはやはり地の揺れや鳴り方が違うからだろう。
どれだけ気をつけてもあれだけの大群であれば、それなりに地が鳴る?
ならばどうやってここまで奴らは近づいた?
しかもあの時、彼らが超えてきたはずの川は、奴らの策のせいで泥濘と化していた。
あれを音もなく渡れた?
そこまで考えて丘江の視線は、なぜか左手にそびえる山に吸い込まれた。
山を伝ってきた?どこかに抜け道があるのだろうか
切り立った崖状の山だ。
人が登れるとも降りられるとも思えない。
だが、もし何かあったとしたら。
「丘江様、我らも前進を」
「あぁそうしてくれ、、、」
副官の言葉に、山から目を離さずに答える。
「恬栄少し頼む。おい、1小隊ついてこい」
そう言って、部隊の指揮を副官に任せ、少しの護衛を連れて、山側に近づく。
なぜか、ひどい胸騒ぎがした。
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